チェンバーコーラスを組織し、市内コンサートで舞台に立った時の出来事。
指揮者の僕はとんでもないこと?をやらかした。
チェンバーコーラスとは、オーケストラのパートリーダー級で構成される小編成オケをチェンバーオケと呼ぶことから、僕が勝手に命名した、学年をまたいで歌のうまいものを集めた特設の合唱団のこと。
以下、<チェンバーへ宛てた初回連絡>の一部を引用。
◆チェンバーの意義とは
①君たち自身が、他のクラスの他の学年のいい声をお互いに聞きあい学びあい、クラスのボイスリーダーとして育つこと
②クラス合唱では表せない合唱の深みを表現し、全校生徒の合唱に対するイメージを高めること
◆演奏曲目について
祭りをテーマにした、ノリのいい曲です。ただし、出だしにアカペラ部分があったり、ソロがあったり、おもしろい曲です。おまけに先生の指揮は、すごくテンポを揺らします。しっかり練習してついてきて下さい。文化祭で発表をします。
◆家での音取り練習について
ダビングしたカセットやCD、MDで、各自、家で練習をしてください。音取りは完全に自分だけで行います。学校での練習は合わせ練習しかやりません。初めの練習から即、合わせです。入りなどはそこで学んでいきますが、音がわからないことがないよう、家で何十回も繰り返し歌ってください。少ない時間でクラス合唱よりも上の段階に高めなければいけません。君はその一員として、プライドをもってがんばってくださいね。
◆今後の練習予定
今週の木曜日が第1回の合わせ練習です。この日は1時45分から15分だけ行います。その後、5回だけ、下記の日に行います。
(以下略)
上記のように、毎年、校内で合唱団を特設していたのだが、ある年の市内小中学校コンサートにおいて、午前中に各校代表クラスが歌い、午後の最後のトリには、我が校のチェンバーが特別出演することになった。そこでの出来事である。
以下は、出演した翌朝に、チェンバーのメンバーに出したお便り。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
チェンバーのみんなへ<謝罪と賛辞>
突然、それは起こった。誰も予想しなかったことだ。
ホール全体が緊張と静寂に包まれた。
チェンバーのみんなの不安と緊張の眼が先生に向けられた。
(あっ、しまった。ここは止めるところじゃなかったんだ・・・)
練習では、rit.をかけてそのままフィナーレに突入するところだった。
(しかし、見事に止まったな。練習では一度も止めたことなかったのに・・・)
緊張と静寂に包まれながら、先生自身は変なことに感心していた・・・。
午前の部はとてもうまくいった。
我が校の代表クラスのパワフルで美しいハーモニーが、ホールいっぱいに響きわたった。先生は満足だった。
(午後の部もこれなら安心だ)
そして午後の部。その最後のステージ。
A君の堂々とした紹介のことばと、チェンバーのアカペラハーモニーでの入場に、観客は他のどこよりも静かに耳を傾けてくれた。
・・・そして曲が始まった。
いつも以上にうまかった。指揮を振りながら、先生はつい欲張りたくなった。
(ここのフレーズはこう振ればもっと余韻が残るなあ…)
・・・そう思ってたら、知らず知らずのうちにいつもと違う“分割振り”をしてテンポを変えていた。
(あっ、しまった!)
・・・でもチェンバーは、それにうまくついてきた。
(あ~、よかった!さすがだ)
そして迎えたラストのクライマックス。先ほどの失敗などコロッと忘れ、先生はまた、欲張りになっていた。
(このラストフレーズで、ここを一瞬止めたらすごく盛り上がるだろうなあ)
・・・いや、本当にやるつもりはなかったのだ。ただ思っただけなのだ。だって練習でそこをそう振ったことなど一度もないのだから・・・。
でも、そう思った瞬間、腕はそう動いてしまっていた。
曲がもり上がって、もり上がって、もり上がって・・・“ピタッ”
(あっ、しまった)(止めちゃった)
(どうしよう)(みんな不安がってるぞ)
(次はどうやって入ろう)(みんなは入れるかしら)
(しかし、よく全員止まったな)(ピアノもうまく止めてくれた)
(もしかして、この瞬間、すごい盛り上がりをこの“静寂”がつくりだしてるんじゃないか)
(きもちいいな、この残響だけがホールに響いてるのって・・・)
(よーし、頼むぞ、この指揮に合わせて入ってくれ)
・・・僕は手を振り下ろした。
チェンバーの、緊張感でさらに高まったクライマックスのハーモニーは、乱れることなく美しくホールに鳴り響き、無事曲が終わった。
いやー、君らはすごいよ。よく先生のわがままな指揮についてきてくれたね。
見事にみんなが一つになった。ありがとう。
次は校内文化祭。こんどは体育館にあのハーモニーを響かせような。