嵩原安三郎『「わざとぶつけた事故」を立証せよ!(前編)【おたけ事件簿④】』「先生、偽装事故の案件なのですが・・」ある日、A保険会社の担当者が訪ねてきました。私のところには、「故意に事故を起こし、保険金を請求しているのではないか?」…リンクameblo.jp


私はA保険会社の代理人として裁判に参加しました。

フジモトさんの代理人は信頼できる別事務所の弁護士に任せました。

B保険会社の代理人は高齢のC弁護士でしたが、私たちとの連携には消極的でした。

 

訴訟は私たち被告側には苦しい戦いになりました。

こちらは「フジモトさんの自白」をまとめた「陳述書」を証拠として裁判所に提出しました。

しかし、マツオカ、カメヤマの原告両名は、一貫して、

「一切知らない」

「いいがかりだ」

「私たちが事故を起こすためにわざと交差点に進入してきたという証拠を出せ」

「フジモトは学生の頃のことを恨みに思って、仕返ししようとしているだけだ」

と繰り返し、偽装事故を認めることは一切ありませんでした。

 

こちらからは、

「フジモトさんが自ら保険金詐欺をしたという嘘をついてまで、つまり、犯罪者になってまでマツオカ氏に復讐するとは考えがたい」

などの反論はしましたが、「どっちが本当かわからない」状態で裁判は進行します。

 

「どっちが本当かわからない」

つまり、

「どっちが嘘をついているのかわからない」

状態であれば、「立証責任」の考え方から、こちらが負けになります。

そうしますと、マツオカ、カメヤマに賠償金・保険金を支払うように裁判所から命じられてしまいます。

何とかしなければ・・と焦るばかりで特に事態は好転しないまま、裁判は進んでいきました。

 

そのような状態のまま、いよいよ最後の望みをかけた、証人尋問(原告本人尋問)の日を迎えました。

ここで逆転しなければ、こちらは敗訴してしまい、マツオカ、カメヤマに賠償金・保険金を支払うように裁判所から命じられる可能性が高くなります。

 

しかし、証人尋問の当日になっても、相手が嘘をついていることを暴く良案は見つかりませんでした。

もちろん、証人尋問の準備には時間をかけました。

でも、これで相手を追いつけることができるのか・・・とても自信はもてないままでした。

 

しかし、時間は容赦なく進みます。

いよいよ、マツオカ、カメヤマの証人尋問(本人尋問)がはじまりました。

 

まずはマツオカの尋問です。

マツオカの代理人弁護士がマツオカに聞きます。

もちろん、マツオカは

「わざとじゃない」

「後輩だったのは偶然」

「地元を走っていて、事故の相手が知り合いでもおかしくはない」

などと繰り返し、特に矛盾は出てきません

 

特に収穫のないまま、マツオカの代理人からの尋問が終わりました。

マツオカはにやにやしながらこちらに顔を向けます。

内心はとても焦ったまま、被告側の反対尋問の番となりました。

 

反対尋問は、B保険会社の代理人C弁護士が先に質問を始めました。

ここでC弁護士が、突然、

「あなたはこれ以外にも2回、過去に事故がありますよね」

と言い出したのです。

 

初めて出る話でした。

「え、聞いていない・・・教えておいてよ・・」

しかし、私は表情は変えずにC弁護士の話を横で聞いていました。

利害が対立する相手方なら、こちらの有利な情報をあらかじめ知らせないことはよくあることです。

しかし、このとき私の依頼者であるA保険会社と、C弁護士の依頼者であるB保険会社は、

「マツオカ、カメヤマの不正請求を排除したい」

という目的は共通のはずです。

 

C弁護士の手元にある「過去の事故に関する資料」も、特にこちらにコピーが渡されるわけでもなく、

全て初めて聞く話

でした。

 

意気揚々とマツオカに尋問を開始したC弁護士でした。

私はその後の展開を期待しました。

しかし、C弁護士は

「過去に事故があった」

「入院したこともあった」

とマツオカに指摘するだけで、それ以上の攻め手は考えていないようでした。

 

マツオカは、C弁護士に余裕の表情を向けながら、

「そんなことあったかな」

「覚えていない」

と繰り返します。

 

次第にC弁護士も焦りの色を見せ始めます。

 

しかし、かえって私は冷静に情報の整理をすることができました。

と同時に、マツオカのこの態度に我慢の限界を迎えました。

さきほどまでの焦りも、全くなくなりました。

 

情報を整理した私は急遽方針を変え、「タタキ」と呼んでいる方法をとることにしました。

これは危険も伴うため、滅多に使わない方法です。

 

マツオカを許しておくわけにはいきません。