生成AIはアセスメントにいかなる影響を与えるか?

 

 スターウォーズに熱狂した、10代の頃、始めて「2001年宇宙の旅」を見たとき、冒頭のシーンから全く意味がわからなかったのをおぼえている。集団で過ごしていた類人猿の集団が骨を武器にして、敵対する類人猿を殺害する。そして、空中に放り投げられた骨が、宇宙船の映像に変わる。

 このことが、人類が経験した、数々の技術的革命を比喩的に示唆していると気づいたのはずっと後のことだ。武器の発見、火の発見、製紙法の発明、蒸気機関の発明、インターネット革命、スマートホンの普及、そして、現在、いきなり到来したのが,言語生成AIによるAI革命である。

 この自然言語によってAIが操作できる仕組みは、私のような数学やプログラミングを避けてきた人間にとっては、神様からの福音である。プログラミング言語を全く理解していなくても自然言語でプロンプトエンジニアリングができ、自然言語で解答が得られるのだから。この仕組みは、言語を操作するありとあらゆるホワイトカラーの労働者に,大きな影響を与えることになるだろう。おそらく、このエッセイの読者の多くが当てはまるであろう。

 これまで人類に起こった様々な技術革新は、その変化に早く対応した集団と、そうでない集団の間に大きな格差を生むこととなった。最初に技術を利用してアドバンテージを得る、いわいるファーストペンギンたちと、様子を見てチャンスを逃がしてしまう傍観者達の間に大きな差が生まれる様子を、私たちは生まれてから何度も見てきた。

 

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 言語アセスメントに従事する私たちにとっては、ファーストペンギンになる以外の選択肢があるとは考えられない。生成AIの出現は、人間に必要となる言語能力の方向性を大きく変えることは間違いない。とすれば、当然、言語アセスメントの方向性も今後大きく変わっていくことは不可避である。

 言語の4技能において、AI時代にどのような力が必要になるのかを予測することは、今後のアセスメントの開発を考える上では必須である。そこで、未来にどのようなスキルが必要になるのかを予測してみたい。

 

AI時代に必要な10の言語能力

 

1.速読力

 

言語生成AIは大量の文章を瞬時に生成する。それらの文章を速く読み、大局を捉える速読力が大変重要なのは言うまでもない。

 

2.検証力

 

生成AIや機械翻訳により作成された文書に対しての責任は作成者が持つ。なので、文書の内容が正しいのかどうかを、ダブルチェックし、検証する力が必要となる。

 

3.論理力

 

生成AIは大変賢いが、現状では、言語を操る完璧な論理性を備えているわけではない。抽象的表現と具体的表現の整合性や、順接・逆接の関係が誤っていないか、見抜く力が必要だ。

 

4.質問力

 

生成AIを操るためには、適切なプロンプトを入力する必要がある。自然言語で入力するとしても、前提条件を示したり、絞り込みをしたり、指示を明確化する数学的思考とともに質問する力が必要である。

 

5.編集力

 

文章を書く仕事は、今後生成AIに代替されていくだろうが、それを魅力的なものに仕上げていくデザインの力こそ人間の腕の見せ所だ。

 

6.感情を動かす力

 

ありとあらゆる言語能力を駆使して、人の心を読み、それを動かす力は、依然人間のものだ。感動させたり、説得したり、交渉したり、挑発したりして、人間の心に訴えかけることは、まだAIにはできない。

 

7.社交能力

 

言語の大きな役割のひとつは、人と人をつなぐ力だ。複数の人間の個別の性格を理解し、ネットワークを作っていくことはAIには難しい。会話を通じて、人と仲良くなる力がますます重要になるだろう。

 

8.調停する力

 

間に立って問題解決をするファシリテーションもAIが苦手とする部分だろう。お互いを説得したり、妥協を引き出したりして、調停者として中間点を探る力も重要な言語能力だ。

 

9.ボディーランゲージ

 

いうまでもなく、コミュニケーションは文字と音声によってのみ成立するものではない。表情、仕草、そして沈黙でさえも言語の一部と言えるだろう。これらを統合して、人間の体を統合して,伝達のために使う力が重要となる。

 

10.創造力

 

AIは一つ一つのタスクを正確にこなす能力にはたけているが、独創的な組み合わせを考えるのは苦手だ。あっと驚くようなアイデアを生み出す仕事は、まだ人間のものである。

 

 言語アセスメントは、これまで、その存在意義として、客観性や平等性を求められてきた。その目標は、AIの開発者が目指してきたものと同じである。生成AI革命が到来している現在、これまでの言語アセスメントの在り方を見直す時期が来ているのかもしれない。客観性と平等性だけを重視する言語評価であれば、自然言語を操作できるAIによってこれまでの言語アセスメントは、全て代替されてしまう未来は容易に予測できる。類人猿であろうと、ペンギンであろうと、ロボットであろうと、人間であろうと、臆病な傍観者でいるのはよしておこう。

 ポスト生成AI革命の時代に必要な言語力を試す、新時代のアセスメントの出現を心待ちにしたい。