本当に「あの頃は良かった」のか? | 安田貴広のDARADAWRITE

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ロックバンドAo(アオ)のVo.ヤスダが日々思ったことを書くかもしれないし、全く書かないかもしれない。

「あの頃は良かった」という大人が沢山いる。いや、厳密に調べた訳ではないが、言い方は違えど年配の方から聞く話には、よく似た趣旨の感想が混じっていることが多いと感じる。
私は、自分はそういう風にはなりたくないなと日々思っている。
それを言ってしまうと、自分が時代の流れに屈したことを認めているような気がしてしまうからだ。

「いやー音楽業界は不況だからさー」的な言葉は、ミュージシャンやレコード会社の人間からよく聞く言葉になってしまった。私も言ってしまう事があるこの言葉だが、こういうことも、なるべく言わないようにしたいのだ。
理由はもちろん、上記のものと一緒だ。
私が職業として音楽を始めてから10数年が経つが、その間にも音楽を取り巻く環境は日々変化し続けている。
その一例として、例えば以下のような事が挙げられる。

①ネットが普及した→誰でも何かを発信する事が出来るようになった→有名人のプライベートがベールに包まれなくなった→アイドルやアーティストとファンの距離が近くなった

②ネットが普及した→音楽がyoutubeやダウンロード、コピー等で手に入れやすくなった→CDが売れなくなった

③PCのスペックが上がり、低価格になった→昔は数千万円かかっていた音楽のレコーディングが、ともすれば自宅でできるようになった→音楽を作る人間の絶対数が増えた→競争率が高くなった→CDが売れなくなったことと相まって、音楽制作にかかる予算が大幅に下がり、自分が勝ち残る確率も減った

などなど、挙げればキリがないのだが、それを嘆いて何か得することがあるのかと自問自答した結果、得することは何も無いという結論に至った。

前回のブログで書いたことと若干被るのだが、私は「金を稼ぎたい」と思って音楽を始めたわけではない。金を貰えないのにやっていたことで、たまたま稼げるようになっただけである。
今回最初に触れた「あの頃は良かった人達」は、総じて現在のシステムの中で音楽的に成功(何をもって成功とするかの問題はあるが)してはいない。
それは何故だろうかと考えた。
おそらく、その人達が成功していないのは、決して才能が無いからではないと思う。
口を開けば「あの頃は〜」と言うということは、現在のシステムの中でどう戦うかを考えることを放棄しているに等しいからではないのか。
もちろん、私が考える〝成功〟をしていない人を見下したり、バカにしたりはしていない。人はそれぞれであり、音楽とは本来、楽しいからやるものである。
職業音楽家でなければいくら言ってもいい言葉だと思う。
ただ、私が「あの頃は〜」と言いたくないのは、私は職業音楽家であり、未だ成長の途中でありたいと願っているからなのだと思う。
音楽は、私にとっての信仰である。
現在の音楽シーンの中でも聴いて涙を流せるような音楽を見出せる自分で在りたい。
できれば今後もずっと、私はそう在りたい。