それは八子が特別養護老人ホームを辞めて訪問介護をしていた時の話しだ。


八子にはどうしても足が重い訪問先が一件あった。


都心にある古い大きな都営住宅... 


利用者のお婆さんは認知症だが

時折、我に返る事もあった。


団地のエレベーターは全部で六つ。


八子はいつも誰かが乗るタイミングを見計らった。



その日、八子は珍しく訪問時間に慌てる事に。

エレベーター乗り場には誰もいない。

八子は直感で一つのエレベーターのボタンを押した。

動悸がする... 

エレベーターには大きなミラーが付いている。

(見てはいけない)

八子は分かっていた。

最上階... 時間が長い... エッ?子供?!

チラチラとミラーに写り込む何かが何なのか八子は既に気付いていた。

そして到着!

時はいつもの夕方。

訪問先をノックし

大きな声で「こんにちは!」と、肩を払ってから中へ入った。


するとお婆さんが珍しく我に返った状態で八子に言った。



「あれ今日はいつもの小さい女の子は一緒じゃないのかい?」