しかし、世界の知恵と富をどんなに集めても、大腸菌一つ作ることはできないのです。
それは、大腸菌がなんで生きているのか、その生きているという非常に基本的なメカニズムについて、私達はほとんど知らないからなのです。
これは現代の科学や医学がダメなのではなく、生きているということが細胞一つでもいかにすごいか、ということなのです。
ですから、約60兆の細胞からなっている人間が生きていることはただ事ではありません。
60兆とは地球人口60億の1万倍ですが、それが毎日けんかせずに寄り集まって活動しています。
それに較べて、人間は歴史が始まって以来、戦争をやめたことが無いのです。
なぜこのような小さな沢山の命が協調しながら見事に生きるのか、不思議です。
細胞は自分を生かしながら、他の細胞の働きと協調して臓器の働きに協力します。
臓器も自分の働きを保ちながら個体を生かします。
心臓なら、一生一日足りとも休まず、文句も言わずポンプ作用を打ち続けているのです。
これは遺伝子にプログラムされているからですが、この遺伝子のプログラムはどうやって作られたのか、ということについてはわからないのです。
つまり生命研究の現場にいる私どもでも、命ということについては、ほとんど根本的なところがわかっていないのが現状なのです。
その点で科学者は傲慢になってはいけない、と思っています。
とくに命に関してはほとんどわからない、人間だけではカビ一つ作れないということを原点にして考えないと、教育も環境の問題も解決できないと思っています。
人間は確かに他の動物にできないいろんなことが脳の発達のおかげでできますが、私達は生き物の一員であることを忘れてはなりません。
科学技術がいかに進歩しても科学だけではわからないものが残るのでは、と感じています。
