前回に引き続き ”お客様は誰か” という お話をします。

前提を次のようにします。

 1、あなたは、大手製造業の本社IT部門のアプリケーション開発リーダーで 部下が 10人います。

 2、現在、取りかかっているのは 白物家電の工場の在庫管理システムの 再構築です。

 3、再構築の理由は、今まで 日本国内の工場が 70%ほどの生産を行い 中国の工場(現地資本との共同出資)で残りの生産を行っていましたが、コスト削減の観点から 日本国内の生産を 20%にして、中国国内で80%の生産を行うことにしたことによるものです。

 4、今まで、日本の工場での生産が長く 歴史もあることから 日本の工場のオペレーションをベースにした在庫管理システムは かなりの完成度にあります。中国の工場での生産は これまで補完的なものであり 工場の在庫管理のシステムについては 今まで あまり注力してきませんでした。 (共同出資が理由でもあります)

 5、現在、日本の完成度の高い 在庫管理システムを 中国工場に導入すべきということで開発が始まりました。

 6、在庫管理システムの開発には、自分の部下が 5人、IT子会社から 5人、日本の ITベンダーから 10人の 計20人で行います。 あなたは、この開発における PM の役割を果たす責任があります。

 7、ただ、在庫管理システムだけが再構築されるわけではなく、上流の生産管理システム、下流の物流システムも同時に 再構築され 全体を統括する メインPMは他にいて あなたは サブPMの役割になります。

 8、システム開発の要件については、本社IT部門のソリューション・グループが責任を持っています。

 9、業務要件については、白物家電グループの中にあるIT部門が 工場の業務部門と協働して、確定させる責任があります。

10、業務要件について、今まで 日本のシステムが有効に機能していたことから それをベースに、中国への展開を図ろうとしましたが、中国の工場のオペレーション、特に 中国国内の協力会社の態勢の成熟度から 業務要件を かなり大幅に変更しないと 有効なシステムが構築できないことが分かってきました。 ただ、白物家電のITグループは日本に居て なかなか 中国の工場の業務要件をタイムリーに詰めることは難しく また 中国の工場は協力会社の同意がないと業務要件の変更はできません。 仮に それができたとしても 協力会社のオペレーションの成熟度は上がるわけではなく、結果として システムの機能をダウングレードして 中国の工場でのオペレーションに合わした業務要件でのシステム開発が必要なことが分かってきました。 しかし、業務要件をダウングレードしたからといって システムを再構築するわけですから、それにかかる費用対効果から ビジネス上の成果は 前システムと同様かそれ以上のことが求められています。

11、このように 業務要件が混とんとしているにもかかわらず 生産移転は既定の事実であり、システムの完成時期は 最初から決められており、変更することはできません。

12、業務要件が このような状況であるにもかかわらず ソリューション・グループはシステム要件を確定してシステム開発をスタートさせる必要から、とりあえず 中国のオペレーションの成熟度は忘れることにして、日本の工場でのシステム要件をベースとして システム開発をスタートさせました。

13、メインPMも、何もしなくても コストだけは発生してしまうので、これでは使い物にならないことはわかっていても ”自分は言われたことはやった” という アリバイ工作もあり プロジェクトを進めました。

14、あなたも おかしいとはわかりながらも 全体の流れから 粛々と 開発を進めています。

15、通常の あなたの コンタクト・ポイントは メインPM、部下、子会社、ベンダーです。 ソリューション・グループとは、ほとんど話をしたことはありません。 上流の生産管理システムおよび下流の物流システムのアプリケーション開発リーダーとも ほとんど話をしたこともありません。 業務要件に責任のある、白物家電のITグループにいたっては 一度も 話をしたことはありません。

16、あなたの 残りの部下5人は、別のプロジェクトに参加しており、それについても あなたは 管理者としての責任があります。


以上の 状況は 決して例外的なものではなく、非常に 一般的なものです。

このような 状況で、あなたは、”自分のビジネスモデル” は何かを 詰める必要があるわけです。

すなわち、”お客様は誰か”、”お客様は何を求めているのか”、”自分がお客様に提供しているビジネス価値は何か”、”そのビジネス価値は、自分の報酬を凌駕しているか”ということが 問われるわけです。

次回は、このケースで ”お客様は誰か” ということを 考えてみたいと思います。

今回は、”お客様は誰か”について 少し 具体的にお話をします。

私が IBMで端末開発のマーケット・プランニングとして アメリカに赴任していた 1984年のころに 端末に対するお客様の要求を調べるために、アメリカ人のマーケット・プランナーといっしょに アメリカ全土の50社ほどの企業を訪問したことがあります。

その際の訪問先は、以下の 3つでした。

  1、端末を実際使っているオペレーター

  2、オペレーターを統括し、またシステムにも責任がある管理者

  3、CIO にあたる 上級管理者

まず、(1)からの要求は、キーボードの使いやすさ(微妙なタッチの感触、キーの配置など)が主で、ディスプレイの見やすさなどは、ブラインド・タッチで仕事をこなすため あまり重要視されませんでした。IBMの営業も、参考にする程度でした。

(2)からの要求は、少し複雑で 新しい製品には必ずと言ってよいほど 新しい機能、できれば できるだけ大掛かりな変更を伴うものである傾向が大きいものでした。 この時代の端末は、基本的に ダム・ヘッドで 色々な機能は、コントローラーでサポートされていましたので (2)は端末そのものには 大きな興味を示しませんでした。 IBMの営業のおもなコンタクト・ポイントはこの職種で、彼と協力して 大がかりな変更を CIOに提案するのに 最大の労力を払っていました。

(3)の要求は、オペレーターの生産性と端末のコストでした。 ただ、IBMの営業が、頻繁に(3)と接触できるわけではなく 会うときは 意思決定を求める時がほとんどでした。 そのため、CIOの関心事よりも (2)と画策した提案を説得することに ほとんどの時間を費やしていました。

IBMの営業のほとんどのコンタクトポイントは(2)でしたが、この職種は 通常 企業の中で陽を浴びる職種ではなく なんとか 新しいことをやることにより目立ちたい、また 評価されたいと 日ごろから思っていることから、ベンダーに対する要求は 新しい機能であり それも できるだけ大規模な変更を伴うことになりがちです。

それは また ベンダーとの利害とも一致することから、ベンダーにとっても (2)をお客様と設定するのが 一番 都合がよいわけです。 (2)は、ベンダーを利用して (3)に売り込みをさせることによって ビジビリティー を上げたい、ベンダーは それを利用して 大きなビジネスにつなげたい という 利害関係の一致が、本来あるべき ビジネス価値の追求を わきに追いやっていたわけです。

本当は (3)をお客様と設定し オペレーターの生産性と端末コストの追求をやるのが本筋なのだと思いますが、オペレーターの生産性の向上は眼に見える形では難しく、また 端末コストの低減は収入減になることから 営業にとっては興味がありません。

以上のように 自分の会い易い人で 利害関係が一致する人を お客様と設定することが多く、企業にとって 本当に 価値を生み出すためには ”誰をお客様に設定するのか” ということが ないがしろにされていることが多いのが現実です。

当然ながら ”誰をお客様と設定するのか”によって 端末の機能は変わってきますし、価格設定も変わってきます。 多くの 新製品が 新しい機能は盛り込まれるものの 価格は あまり 前のものと変わらないか 若干上がる傾向にあるのは このような原因です。 これがまた クリステンセンのいう ”低価格による破壊”を生み出しているのです。

次回は 古い話ではなく 現在の IT業界のお客様について お話をします。

前回は、”自分自身が生きているビジネスモデル”のお話をしました。

企業人は、その企業から報酬をもらって それに見合う ビジネス価値を提供することによって その存在が有為なものとなります。

そのため、企業内外における”お客様”に どのようなビジネス価値を提供しているのかということから明確化していきます。

私がお手伝いした研修では、まず最初の自己紹介の時に、”自分のお客様は誰で”、”お客様に対して、この1年 どのようなビジネス価値を提供してきたのか”、”それはお客様からご満足いただけたのか”、”今後 1年 どのようなビジネス価値を提供していこうとしているのか”、”それは お客様とインターロックできているのか” ということを話していただきました。

その自己紹介に対して、他の受講生や私から 若干の質問やコメントが出されますが、これは まだ 入り口なので そんなに厳しい追求はしません。

次に、研修に入っていくわけですが 最初に2人1組になっていただき、10分間で ”自分のお客様は誰で”、”何に困っていらっしゃって”、”それを解決するために、自分はどのような価値を提供しなければいけないのか”ということを それぞれに A4版の紙の上に書いてもらいます。 次に、5分間で、組になった相手に対し説明を行い、質問に答え、コメントをもらいます。 5分たてば、交代して 相手の説明に対し、質問し、コメントします。

次の 5分間で、もらったコメントをチャートに反映し、発表できる形に整えます。 全体の受講者は、16人で 基本的に2人1組の形で行います。 発表の準備ができたところで、私がランダムに指名し 発表していただきます。 その発表に対し、私がランダムに受講生を3人指名しそれぞれにコメント(コメントとは、質問ではなく自分の意見のことです)していただきます。 最後に、私が質問とコメントをします。

全体で 研修は 2,5日間を 4回 行うのですが、このような形で 段々と深堀りをしていくと 多くの方(この研修では、60-70%ぐらい)が ”自分のお客様”の 前提が変わってきます。

すなわち ビジネスモデルの原点である ”誰がお客様なのか”ということが 間違っているということであり、自分のビジネスモデルが 根本的に間違っているということです。

私が ”間違いだ” と指摘することはありません。 なぜなら それは ”個人の生き方の問題”であり、それに対して 他にんがとやかく言うことではないからです。 ただ、疑問点を 私や他の受講者から提示されるうちに 自分から ”お客様の前提を変えるべきだと決断する” 状況に至るわけです。

これは 新人やできの悪い社員の話ではなく 日本を代表する企業の課長クラスのうち 部長昇格がテンパッている選抜組の話です。

このように、ビジネスモデルの原点である ”お客様は誰か”は 案外難しい問題なのですが、一般的に あまり 真剣に深堀りされているようには感じられません。

次回はこのことについて少 具体的に 例をあげながら お話します。