続き

vvvvvvvvvvvvvvv

生まれてこの方、墓参りをしたことがないこともあり、盆の墓参り当番に決まってからというもの、これは自分の中で一大イベントとなっていた。

盆も近づき、ネットで調べながら必要なものを買って準備していたとき、線香を探して近所で仏具屋さんを見つけた。

しかし、売っている線香はどれも箱にどっさり入ったものばかり。

それはもったいないと思い、数本入りの試供品を3セットもらって帰り、自分の部屋の本棚にしまっていた。

 

また、愛読している桜井識子さんのブログでお墓参りの記事を見つけた。

そこには、このように書いてあった。

「故人の好きだったものを持って行くと喜ばれます。お饅頭だとか、お酒や、たばこなどです。

食べ物は包みを開けて、本当に食べれる状態にしてからお供えします。
お酒もフタを開けて飲めるようにし、たばこは火をつけてからお供えをします。
手を合わせて、お参りが終わったら、お供え物はすべて持って帰ります。
そのまま置いておくと、無縁仏がその食べ物に群がるからです。
置いて帰ってはいけません。」

 

ならばということで、ちょっとスペシャルな供え物をしてやろう、とイメージが膨らんだ。

生前、父が好きだったもの・・こんがり焼いた厚揚げ(おろした土生姜を載せて醤油をかける)、鰹節としょうゆ入りの卵焼き、ビール、酒。

さらに思いついたのは、般若心経を唱えること(自分では出来ないので、YouTubeで見つけた動画をスマホで鳴らす)。

※これは、告別式に出られなかった替わりとして、高野山を巡り(お寺にも留まって)空海さんに父の冥福を頼みに行った時のことを思い出してのこと。

よし、これはサプライズになるぞ!想像するとワクワクした。

 

あとは決行日。墓まで行くには、どうしても車が欲しいところだが、普段は家内が車で仕事に出かける。そこで、確実に休みとなる祭日の8月11日に決定。

 

そして、決行日まであと4,5日となったころ、どういうわけか匂いが気になりだした。

自分の部屋に入ると、やたらと線香の匂いがするのだ。

一旦消えたと思っても、またフッと匂いがしてくるような感じで、断続的にくる。

あの試供品の線香か?

とそこまで鼻を近づけても、それほど目立った匂いを放っているようには思えない。

同じことが翌日も、またその翌日も続いた。

 

半信半疑ながら、これはまた父のアピールではないかという気がしてきた。

今度は何を?まさか本当に来るか見張っているのか?

確かに一つ、引っかかっていることがあった。

試供品の線香・・すごくチャチなのだ。

僅か数本、少煙タイプで、しかも香り付き(ラベンダーとか何とか)。

何事も昔風を良しとする父だったので、いかにもアカンと言いそうな気がしていた。

早速、翌日の会社の帰り、駅近の百均で束の線香を買った。

気持ちのザワザワがすっきりした。

 

そして決行の朝、、

サプライズの空想は準備が整わず、というか、やっぱりどこかで何か買えばええやん、と思い直し、

供え物無しの状態で出発。

途中のスーパーで花を買い、ついでに供え物をと思ったけれど、大したものがなく、

結局買ったのは、大福もち1つと小瓶の酒のみ。

 

それでもはやる気持ちに急かされるように、墓へ到着。

早速、草むしりから。

覚悟はしていたとはいえ、夏の太陽が容赦なく照り付ける。

しかし、墓を奇麗にできることに喜びを感じた。

結局、全体を小ざっぱり整えるのに1時間ほど要し、汗だくになったけれど、

周りとは明らかに違う別荘のようになった。

 

そして、大福もちの包みを開け、お酒を盃に注いで供えた。

線香の束に火をつけると、なんとなく整ったお墓の雰囲気。

やっぱり、束の線香にして正解だった。

 

 

そして、、スマホを取り出し、用意していたYouTubeの般若心経。

「チーーン、ぶっせつまーかーはんにゃーはーらーみぃたー・・」

と始まった途端、あら不思議。。

あたり一帯が本当にお寺のような厳かな雰囲気に一変。

2段上で掃除をしていたおばさんもこちらを振り返る。

いや、それだけではなく、隣近所のお墓の住人にも羨望の眼差しで見られているような感じ。

あまりの目立ち加減に思わずボリュームを最小にした。

それでも、自分ちのお墓だけ特別な雰囲気を保つのに十分だった。

 

程なくお経も終わり、それでは、と大福もちをいただいた。

1時間汗水垂らしたおかげか、これがもう、美味いのなんの!

そして、一緒にいただくお酒がこれまた美味。

普段は飲まない小マシなやつを選んだとはいえ、大福もちにお酒がこれほど合うとは思わなかった。

そこで、あっと気が付いた。

しまったー、備えた時に中を割ってあんこを出しておくんだった。

あーあ、この皮だけ味わっても、この美味さは分からんかったやろなぁ。

なるほど、そやからおはぎやぼた餅は外にあんこがあるのかー。

ま、それはまた来年にしよう。

とにかく、大満足でお墓を後にしたのでした。

 

一大イベントを終了し、その後のお盆の期間は何事もなく平穏だった。

ふと思い出したのは、あの連日の線香の匂い。

試供品の線香はまだ本棚にあるというのに、もはや線香の匂いが気になることはなくなっていた。

そして、もはやそのことは忘れていた数日後の夕方、庭木に水を撒いていた時、

突然あの線香の匂いがやってきたのだ。

なんでまた??と思ったのも束の間、ほどなく匂いは消えて、それ以来再び匂いが来ることはなかった。

部屋に戻り、ふとカレンダーを見ると、8月16日。

 

向こうの人はお盆に里帰りするとは子供のころから聞いていたが、

まさか、父が向こうへ戻ることを知らせに来たのだろうか。。

もはやそれに疑いを持つ気はない。

故人とのコミュニケーションも可能なことをあらためて体験した一連の出来事でした。

 

^^^^^^^^^^^^^^^^^

おわり