九十歳。何がめでたい(映画)2024年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

監督    前田哲
脚本    大島里美
原作    佐藤愛子
『九十歳。何がめでたい』『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』

キャスト
佐藤愛子  :草笛光子
吉川真也  :唐沢寿明    編集者
杉山響子  :真矢ミキ    愛子の娘

杉山桃子  :藤間爽子    愛子の孫
水野秀一郎 :片岡千之助   若手編集者
倉田拓也  :宮野真守    出版社部長
吉川麻里子 :木村多江    吉川の妻
吉川美優  :中島瑠菜    吉川の娘

海藤ヨシコ :清水ミチコ   人生相談の回答者

一橋壮太郎 :三谷幸喜    タクシー運転手
電気屋   :オダギリジョー
美容師   :LiLiCo
病院事務  :石田ひかり

感想
最近あまり観たい映画がないので、という訳でもないが普段観ない部類の映画を視聴。
エッセイ集が以前TVで集中宣伝されていたのは知っている。
何か、その高圧的な題に「婆さん作家が言いたい放題書いてるんだろう」ぐらいにしか思っていなかった。
今回もその先入観は維持したままだったが、草笛光子の実年齢も90歳と知り、ちょっと食指が動いた。

特にドラマチックな展開がある訳ではない。88歳で断筆宣言した老齢作家と、パワハラで鼻つまみ状態の中年編集者のコラボ。
唐沢寿明がイヤなオッサンを好演している。
演出上で面白かったのは、最初新聞の人生相談で相談者だったのが、実は吉川の妻だったこと。要するに愛子が新聞読者として言いたい放題言ったことが現実とリンクしていたという仕掛け。
見ようによっては一種のSFか(笑)
耐える女の代表みたいな木村多江が、終盤で

「あなたのこと、嫌いなの」と微笑む姿が秀逸。

各所に差し挟まれるエッセイの中でも、犬の話には泣かされた。
大した愛情をかけたつもりもないのに、当の犬は命の恩人として尽くし続けた。
このエッセイを買って読みたくなった(映画の目的でもあるな)
オマケ
そこそこの役者を、ホントに軽くチョイチョイと使っているのも楽しかった。
雑誌「ハルメク」の特集記事に出た草笛光子。

ほんとカワイイんだな、これが。

 

予告編

公開前夜祭インタビュー(面白い♪)

 

 


あらすじ
断筆宣言をした作家 佐藤愛子
毎朝ヨボヨボと玄関に新聞を取りに行き、目を通す毎日。


その中の人生相談に目をとめた。
「夫が嫌いです。結婚して20年。グチっぽくて家のことは私に任せきり。主婦を下に見ている。何か言えばムキになって攻撃して来る。子供が成人するまではとガマンを重ねて来ましたが、もう耐えられそうにない。私はどうすればいいでしょうか?」
「頑張って来られましたねー。貴女のストレス、痛いほど迫りました。夫とこのまま暮らすのか、別々の人生を歩むbのか。冷静に考える時が来たのではないでしょうか」と回答者。
「大変ねー、こういう相談に答えるのは」と愛子。
「私はどうすればいいでしょうか?」愛子を見る質問者。


「どうするもこうするもない。20年も、キライな夫にいいようにされて、何をしとる!そんな夫どもにはハッキリ言ってやった方がいい。「あたし、あんたのこと、キライです!」」
納得して帰って行く主婦。
紙面に向かって「人生相談の回答者、失格」と言う愛子。

テレビのキャスターが、クジャクを追う猫の事件を報道。
娘の響子にグチる愛子。ちょっとは体を動かしたら、と響子。
今何月?との問いに、階段から降りて来た孫の桃子が10月と教える。出掛けて行く桃子。

ある出版社。編集部で、若い者に怒鳴り散らす古参の編集者 吉川真也(きっかわまさや)は、人事部に呼び出された。
若手女子社員が移動を希望しているという。原因は吉川のパワハラ。励ましただけだと言う吉川に容赦ない人事部スタッフ。
他の部下からも高圧的な態度を指摘されている。
処遇が下るまではリモート勤務を命じられる吉川。
帰宅した吉川だが、妻も娘も愛犬もいない。
テーブルの封筒から、妻の側が記載された離婚届が出て来る。

久しぶりに美容院に出掛けた愛子。馴染みの美容師との会話。
「白寿を目指して頑張ってくださいね・・・」
家の事情を話す愛子。娘のダンナは単身赴任で女3人の家族。
商店街を歩く愛子に、方々の店から声がかかる。
90歳、何がめでたい」オープニング。


「ウチではどーか、大人しくしていて下さいね」
と頼む倉田部長。昔の恩をくどくど話す吉川。


若手の水野が取り組む、佐藤愛子へのエッセイ依頼。
愛子を訪れる水野。麻布十番の有名店「パティスリー」のサブレが手土産。喜ぶ愛子。だが2年前に最後の小説を書いて引退したので、依頼は受けられないと言った。
そうですか、と土産を引き上げようとする水野の手を押さえ
「遠慮なく頂戴致します・・・」

佐藤愛子の経歴を読む吉川。
25歳で小説を書き始め、昭和44年「戦い済んで日が暮れて」が直木賞。昭和54年に「幸福の絵」で女流文学賞。平成12年「血脈」で菊池寛賞。88歳の時に最後の小説「晩鐘」を書き上げた。
作家生活63年。凄まじい経歴。プライベートでは2度離婚。
元夫の多額の借金を、子育てしながら完済。面白い婆さん・・
佐藤愛子のエッセイ提案で力説する水野。


先生がウンと言わないと成立しない、と言う倉田に
「別案を考えてみます」と言う水野。
「別案?!」とそれに噛み付いた吉川が担当を申し出る。


愛子の家に、手土産の菓子を持って毎日訪れる吉川だが、適当にあしらわれる。持ち上げる吉川に「何を読んでそう思ったの?」
愛子の著作を山ほど集めて読み始める吉川。
その後も延々と吉川と愛子の攻防は続く。

ある時は「腱鞘炎・・」と包帯を大げさに巻いた演技。
延々と通うが、色良い返事がもらえない吉川。

「これが最後のお願いです」「ハイ、さようなら」
玄関先でうずくまる吉川。愛子にとりなす響子と桃子。


桃子が走って来て紙を渡す。そこには「仮題 90歳。何がめでたい 佐藤愛子」露骨に喜ぶ吉川。


「ゼンゼン元気みたいで」と響子。「このヤロー・・・」

愛子と散歩をしながら、テーマは何でもいいから自由に書いて下さいと頼む吉川。保育園の子供たちとすれ違う愛子は何か思う。
家族の事を訊かれ、娘がダンスをやっていると答える吉川。
 

保育園新設に反対」の新聞記事を読んでエッセイを書く愛子。
新聞で知った保育園新設への反対運動。近所でも老人が苦情を言う話を聞いている。この国が衰弱に向かう前兆。私は子供が騒ぐ声が好きだ。未来に向かって駆け上がる勢いがある。戦争体験者である私は、空襲警報を流された街の、恐ろしい静寂を知っている。街はうるさいぐらいがいい。活気が満ちていてこそ生まれる音である・・・
5回も読んだと言って感激する吉川。隔週の筈が毎週に。

タクシーに乗る愛子と響子。最近はタクシーもスマホで呼べると言う運転手。双方で「スマホ分からない」談義に花が咲く。
何かと言うと後ろを振り向く運転手。

だが運転手が「着きました」と言っても延々話を続ける愛子。
とうとう運転手が「もう一周しましょうか?」
差し挟まれるエッセイ。今、蛇口をひねれば水が出る。昔は井戸からつるべで汲み上げていた。それがポンプになって便利だと喜んだ。今は全てが便利。出来ないことがあるとすぐ文句・・・
おおいに賛同する吉川。お母さん元気になった、と話す響子。

愛子の特集記事のため、アルバムを借りに来た吉川。

そこには愛子が桃子と一緒に撮った、年賀状用のコスプレ写真があった(桃子が20歳まで続く)
何でも本気でやらなくちゃ面白くない・・・
「来年の年賀状、一緒に撮る?」姫と王子の空想。断る吉川。


「つまんない男!」

水野が退職したことを倉田から聞く吉川。

ネットメディアに就職したという。
妻からのTV電話を受ける吉川。

相手は人形(顔を見せたくないと言う)
離婚届に判を押して欲しいと言う妻。

稼ぎもないのにと言う吉川に、会社を興したと言う妻。

パートナーがいるという話に「騙されてるぞ」と言う吉川は
「意味が分からないだろう、突然こんな・・」電話が切れた。

桃子の誕生日のバーベキューに呼ばれた吉川。
捨てられた子犬みたいな顔してたから、と話す愛子に桃子が
「なあに、ハチの話?」それから飼い犬の話になる。
ぐちゃぐちゃ飯
14年前、北海道の別荘の玄関に捨てられていた子犬。キタキツネに咥えられて行こうとしたのを怒鳴って阻止した愛子。愛子を命の恩人と思った子犬。昔、犬に死なれて飼うのはやめていたが、結局東京まで連れて来た。桃子に「ハチ」と名付けられた。
当時忙しかった愛子は、ハチを気にかける事もなかった。


いつも食べさせていた、残飯を混ぜた「ぐちゃぐちゃ飯」

今までの犬はこれで長生きだった。だが昨年の夏頃から食事を受け付けなくなった。医者は「腎不全」だと言う。2ケ月ほど経ったある日亡くなる。昆布入りのご飯がいけなかったのか。
ハチと仲の良かった犬の飼い主(自称:犬の言葉が分かる)が来て話す。写真を見て「ハチがあのご飯をもう一度食べたいと言っている。あのぐちゃぐちゃしたご飯・・・」
とたんに私の目からどっと涙が溢れた
それを読んで涙する吉川。

単行本になった「90歳 何がめでたい」を初版14000部出すと愛子に報告する吉川。「そんなに刷っても売れないわよ」
だがどんどん増刷されベストセラーになった。
発売1ケ月で5万部突破!と愛子に報告する吉川。

あの運転手も愛読者。


各紙の取材を受ける愛子。

人生で最も大切なことを一言で 「知らん」
この世を去る時食べるものは? 「死ぬ時は死ぬ。何も食べん」
最近ハマっていることは?   「何もない」
1日の過ごし方は? 「死にかけの芋虫が針で突かれている状態」
記者たち大爆笑。

娘の美優をレストランに呼び出した吉川。
父さんに会いたくないと言ったのは私だと言う美優。好きな時に好きなことを喋るだけ。私の話を聞いてくれた事もなかった。
今さら何なの。何でもママに任せて。おばあちゃんが死んだ後、父さんの実家の整理をみんなママがやった。
一言のありがとうも言ってない。何年もママが隠れて泣いていたこと、知らないよね。何にも見ていない。
ママを自由にしてあげて。去って行く美優。

愛子を訪れた、元出版社の水野。お土産は「パティスリー」のサブレ。ネットメディアで愛子の連載を頼んだという。
それを引き受けた事を怒る吉川に「私いつからアナタの専属作家になったの?」と反発する愛子。口論になる。
そんなんだと奥さんにあいそ尽かされて逃げられるわよ、と言ってしまう愛子。あいそ尽かされて妻にも娘にも逃げられた、と言い捨てて帰って行く吉川。

テレビが点かなくなり、響子を呼ぶ愛子だが不在。

吉川に電話しようとするが止める。結局電気屋を頼んだ。
原因はボタンの押し間違い。

修理出張費¥4500だという担当。5千円札を出し渋る愛子・・・
 

今度はファックスの紙が詰まる。愛子が吉川に電話を入れるが電源が入っていない。会社に電話すると吉川は体調を崩して休んでいるという。帰って来た響子にグチる愛子。
葬式もいらん、坊主もいらん、その辺の川にでも捨ててくれ・・
急に体調がおかしくなる愛子。

病院の待合室に居る愛子と、付添いの響子。予約したのに2時間も呼ばれない事に不満の愛子。
ようやく呼ばれて事務員が来る。

絶食が必要な検査だったが、桃を食べてしまっていた愛子。

「今日の検査は出来ません」とニベもない事務員。

検査は心臓なんだから胃は関係ないのでは?と食い下がる愛子だが「1/3でもひと口でも、食べたんですよね?」
「食べました・・」「2週間後、3時に来て下さい」
一方同病院に、吉川も通院していた。十二指腸潰瘍の投薬治療。

海に来て美優の言葉を反芻する吉川。
電話をしてご無沙汰を詫びる吉川に冷たい愛子。憎まれ口を話すうちに倒れた愛子。異変を感じて走り出す吉川。
必死で這いずる愛子。
何とか愛子の家に辿り着いた吉川の前で泣く響子。その前でソファに寝て顔に布をかけられた愛子。「せんせぇー!」と絶叫して抱き付く吉川に「生きてるわよ!」と愛子。
だが顔のアザを見て「病院に行きましょう!」と背負いかける吉川だが、重くて腰が上がらない・・・「病院なんて二度とイヤ」

ホールに入って着席する吉川。その隣に座った愛子。
「ダンス見に来ただけよ・・・」それは美優の発表会だった。
「娘にも妻にも愛想を尽かされてしまって」「ご愁傷さま」
「人生百年、あと五十年もあると途方に暮れます。俺、いい爺さんになれますかね?」
いい爺さんなんてつまらない。面白い爺さんになりなさいよ、と言う愛子。暴れイノシシ。人様に迷惑かけて、呆れられて、憎まれて、それでもめげずに突進する。
吉川ぁ、真っすぐに生きろー!
そして娘の美優の演技が始まった。しみじみとそれを見る吉川。
演技のあと場違いな拍手をして白い目で見られる吉川。
振り返った女性が妻の麻里子だった(冒頭人生相談の女性)

ロビーで会う吉川と麻里子。仕事の様子を訊いた吉川は、今までの事を謝り、もう一度だけチャンスをくれないかと言う。
「無理、あなたのこと、嫌いなの」とにこやかに話す麻里子。


記入捺印した離婚届を麻里子に渡した吉川。
「私、愛子先生と出会えてよかった。背中押してもらえたの」と話す麻里子。「あなたも」「うん、そうだな」
笑って別れる二人。
どうだった?と訊く愛子。まっしぐらに突進して砕け散ったと言う吉川。生きてりゃいいのよ、と愛子。


吉川のスマホに美優から「見に来てくれてありがとう」
更に、愛子の受賞の報せも響子から入って来た。

旭日小綬章の受章インタビューを受ける愛子。


最後の小説を書いた後は、もう書くものがないと思っていたが、だんだんうつ病みたいになって来た。そこに編集者が来て、断ったのにしつこくて。でも書いているうちに元気になった。
世の中に反応する事自体が生きる力になっていた。
つまり、その編集者さんに命を救われた・・・



人間、のんびりしようなんて考えてはダメだという事が、90歳過ぎてようやく分かりました。
百歳まで、どうか現役で、の声に
「そうねえ・・・百歳、何がめでてえ!」

 

実際の佐藤愛子

佐藤愛子が実際に出した年賀状