プロジェクト・ヘイル・メアリー(下)作 アンディ・ウィアー | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

プロジェクト・ヘイル・メアリー(下)

 作 アンディ・ウィアー
 訳 小野田和子       上巻

感想
エネルギーを食べるアストロファージに侵された太陽を救うため、宇宙に出発した「ヘイル・メアリー」号。
何も分からないまま目覚めたライランド・グレース。
記憶を取り戻す中で、計画の中味が浮かび上がって来る。
その途中で出会う異星人ロッキー。彼も母星を救うためにタウ・セチへの長い旅を続けて来た。
タウ・セチと、二酸化炭素を供給する「エイドリアン」とはペトロヴァ・ラインで繋がっていたが、恒星は健全。その秘密はエイドリアンに棲むアストロファージを捕食する生物タウメーバ。
その究明過程で、命を賭してグレースの命を救うロッキー。
その後もタウメーバの特性を巡って状況は二転三転。

無事にお互いの母星に戻ってメデタシ、と思っていたらまさかの「グレース、エリド星残留」 地球に居る時は自己犠牲を否定していた彼が、異星人の星を助けるために自分を犠牲にした。
この辺りの展開にはグッと来る。
最終章表記がエリド語(さすがに書籍通りの再現は不能)なのが意味深。読んでナットクしたが。
最後に、グレースが小学校の先生だった事が思い出されて微笑。
ハードSFの割りに読後感は爽やかだった。
オマケ
ロッキーの妻がエイドリアンって、直球過ぎるだろう(笑)

登場人物
ライランド・グレース  主人公。      
エヴァ・ストラット   計画責任者
ヤオ           ヘイル・メアリー号船長
イヒュリナ          ヘイル・メアリー号クルー
デュポア           ヘイル・メアリー号クルー
シャピロ           予備クルー。デュポアの恋人
ラマイ博士          昏眠テクノロジー開発者
スティーブ・ハッチ   ビートルズ(帰還機)開発者

超あらすじ
ロッキーとの協調で、タウ・セチから惑星エイドリアンに繋がるルートの秘密を探るグレース。エイドリアンでアストロファージが増えないのは、捕食者がいるから。
10キロ長の鎖でそれを回収。その時事故で死にかけるグレースを、命を賭けて救ったロッキー。瀕死の状況からの回復。

捕食者タウメーバの発見。だがその過程でタウメーバが燃料系に逃げ出し船内が汚染され、燃料のアストロファージが激減。
情報を持ち帰るための4基の宇宙船(ビートルズ)を動力として、ロッキーの母船に合流する作戦を実行するグレース。
その間に「ヘイル・メアリー」号に乗る事になったいきさつを全て思い出したグレース。本船へは意に反し無理やり乗せられた。
途中、窒素に弱いタウメーバの耐性アップに成功する二人。
これで太陽⇔金星間と、エリダニ⇔スリーワールド間のアストロファージを駆逐できる。

ロッキーの母船で燃料の補給を受け、彼と別れて地球に向かうが、タウメーバによる汚染が再度発生。最強と思われた彼らの金属キセノナイトが、タウメーバを通過することが判明。
対策はしたが、ロッキーの船が危険。
ビートルズを地球に飛ばした後、彼を救いに戻るグレース。
ロッキーと合流し、対策を授けたグレース。だがもう地球に戻るための食料はない。タウメーバを食料にする可能性の模索。

ロッキーの母星「エリド」で暮らすグレース。
そこでの生活は16年を数えた。
彼は地球帰還の勧めを保留し続けている。
ロッキーから太陽の輝度が戻った事を知り、感涙したグレース。



あらすじ
第15章
彼はどうトンネルを改造するのか?生存にはかなり高い気圧を必要とするだろうが、この船では耐えられない。ロボットが新しいトンネルを取付け始めた。接合はキセノナイト。
トンネル設置が終わり、音と共にロッキー側のトンネルが霧で満たされ、次いで僕の側も白くなった。

そしてボール状のドームに入ったロッキーが姿を現す。
背中にはエアコンユニット、手には磁石を持っている。外部コントロール装置を、磁石を介して動かす。ドアを開ける僕。
「やあ!」 「やあ!」僕が彼を持って回るという計画の様だ。
だが思ったより重い!彼の質量は168キロだという。
まずはコントロール・ルーム。他も見たいと言うので、あちこち連れ回す。科学の部屋も見たいとうのでラボに連れて行く。
様々な機器を見て感嘆するロッキー。ものを作るところが見たいと言う彼に「それには重力が要る」と言うと、回転させて重力を得ることをすぐ理解した。だがトンネルがあると回転出来ない。
君の船にはたくさんの科学があるから、ぼくがこちらに移動すると言うロッキー。「そうすれば船を回転させて、アストロファージを殺す方法を科学する。地球を救う、エリドを救う」
変てこな新しいルームメイト。この先が興味津々だ。

ラマイ博士を紹介するストラット。我々が採用する昏眠テクノロジーを開発した。アーム・ユニットによる対象者のケア。
また7,000人に一人という昏眠耐性を、遺伝子マーカーによる血液検査で特定出来るようになった。
自分もその適性検査をしたいと、腕をまくるストラット。巻き添えで僕も採血された。これは特攻ミッションだと言う僕。
願って行くたぐいのものじゃない・・・
このミッションへの志願者が何万人もいると言うストラット。

ロッキーは大量のガラクタを持ち込んで来た。内容も不明。
実際に運ぶのは僕。彼はボールの中で、のほほんとしている。
空きスペースがほとんどなくなった。「これで終わりかな?」
「今度はトンネルを外す」「君が作った、君が外す」
「ぼくはボールの中」「オーケィ、僕がやるよ。この人でなし」「最後の言葉、わからない」

ステップ1はアストロファージのサンプリング。同意の彼。
「タウのまわりを回る惑星。アストロファージはタウからそこへ行く。エリダニと同じ。そこで二酸化炭素を使ってもっとたくさんのアストロファージをつくる」
「サンプルを取ったのか?」と聞く僕。装置が壊れてダメだったという。船の製造を急いだための品質問題。
一緒に解決しようと言う僕に同意するロッキー。
互いの時間の必要性を感じ、情報を出し合う。地球単位への整合を取った。その結果、ロッキーはここに46年いると言った。
エリディアンの平均寿命は689年。そしてロッキーは今191歳!

第16章
遠心機の状態をチェックする。ラボ重力の数値は1.00G。
あまり大きくないと言い数値を聞くロッキー。「9.8m/S^2」
「エリドの重力は20.48」そうだと思った。地球の約2倍。
船の中に自分の部屋を作りたいと言うロッキー。キセノナイトで作るという。液体を混ぜるだけで出来る。興味深い。
建設にどれぐらいかかると聞く僕に「なぜそんなに早くしたい」
地球の残り期間に対し、エリドは問題となるまで72年はかかる。
急ぐ理由を理解し、すぐ仕事をしてお互いの星に戻ろうと言うロッキーに「僕は戻らない、僕はここで死ぬ」
帰還のためのアストロファージを作れなかった。それを知ってのミッションに 「きみはよい人間」「ありがとう」
そこでロッキーが地球への帰還に必要なアストロファージの量を聞いた。「200万キロぐらいかな?」
「ぼくは与えることができる」予定よりたくさん持って来たという。過呼吸になりそうだ。涙が出てくる。
「ぼくはしあわせ、きみは死なない。惑星たちを救おう!」

中国空母の甲板に並ぶ、週一定例ミーティングのメンバー。
ストラット、僕、ディミトリ、ロッケン、ラマイ博士そして「サハラ・アストロファージ・ファーム」担当のボブ・レデル。
ヘリが2機、時間をずらして到着。先には「ヘイル・メアリー」の正規クルー3名、後には予備クルー3名。リスク分散のため、彼らは別ルートで行動する。メンバー選出には紆余曲折あり。
正規クルーのヤオ、イヒュリナ、デュポアの3名がストラットに挨拶に来た。その後デュポアが近寄って来て話しかける。
僕が犠牲を払おうとしている、との言葉に引っ掛かる。僕も昏眠耐性の遺伝子マーカーを持っているとの話。ストラットからは聞いていない。僕のDNAなのに。不満が募る。

地球への生還の可能性が出て来たので、ニヤニヤしっ放しの僕。
ロッキーは何十年も前からこの星系を調べて来た。そしてここのペトロヴァ・ラインの全容を知っている。それは最も二酸化炭素の多いタウ・セチの三番惑星「タウ・セチe」に伸びていた。
その行き先に向けての軌道計算をし、メニューを決めた。エンジン噴射を3時間。その後11日慣性航行、減速に3時間噴射。
今は最初の噴射が終わり「遠心機」モードになったところ。
ロッキーはあちこちにエアロックの部屋を作り、それをトンネルで繋いだ。それにより船内のほとんどを移動可能になった。
「タウ・セチe」が退屈な名だと言うロッキー。最初に発見した者が命名するものだと言われ、ある言葉を言うロッキー。

翻訳にない。「僕の配偶者の名前」

こいつめ、一度も言わなかった!
その名の、人間の言葉を見つけなくてはならない。浮かんだ。
「エイドリアン」と僕は言った。(ロッキーの配偶者)

「食べる」と言って下に行こうとするロッキー。
それを見たいと言うと困惑の仕草。「生物学的。下品」
「科学」と僕。また甲羅を揺する。「オーケイ。君は見る」
彼がバッグの中のパッケージを開けて鉤爪で細かくちぎる。
その後部屋の奥に行き、容器を体の下に置くと腹部が割れた。
灰色のどろっとした液が出る。容器に蓋をした。
そして食べ物の所に戻り仰向けになって、開いたままの口?にさきほどのものを手で運び込む。開口部がゆっくり閉じる。
「ぼくは・・・寝る」そしてコトンと寝てしまった。
これが彼らの排泄と食事の仕方か。かなりエグい。

第17章
メインスクリーンに惑星エイドリアンが見える。淡いグリーンで大気上層に白い雲。大地は全く見えず。画像を「分光計」に変える。分析では二酸化炭素91%、メタン7%、アルゴン1%。
サンプラーはうまく動くか、との質問。「船外収集ユニット」をスクリーンに出す。ハエ取り紙の原理。

「採集の後どうする?」僕が取りに行かなければならない。

プールでのEVAスーツ訓練。グローブの動きが不器用でサンプルを落とす。その訓練中にシャピロとデュポアがが来た。彼らにアストロファージの知識を叩き込まなくてはならない。
講義の冒頭、シャピロと性的関係を持ったと話すデュポア。二人ともこのミッションで命を落とすことは承知。その前提での付き合いだという。講義のあとの15分でセックスすると言う二人。

減速を前に遠心機モードを終了した。0G状態となる。
ロッキーがさっきから装置を作っている。パネルの様なもの。

対象物に向けるとそれがパネル上に凹凸形状として現れる。
エリディアン用のカメラ。だが色の表現までは無理。
軌道に入って1日サンプラーを動かしている。それを取りに行くためEVAスーツを着る。そして回収。
アストロファージが地球のものと同じかの調査。更に数量確認。サンプラーのタウ・セチ側とエイドリアン側でアストロファージの繁殖量が同じ。本来はエイドリアン側が倍になる筈。
顕微鏡で調べる。アストロファージだけでない種々の微生物がたくさんいる!「エイドリアンの生物のいくつか、アストロファージを食べる!数のバランス。自然の秩序」
エイドリアンは単に感染した星ではなく、アストロファージの生まれ故郷。またその捕食者の故郷でもある。そうに違いない。
「捕食者を見つけられたら・・・」「それはアストロファージを食べる、繁殖する。星々、救われる!」「イエス!」

第18章
リポーターがロケット発射のアナウンスをしている。「ヘイル・メアリー」のパーツ運搬全16回のうちの9回目。
休憩室でそのTVを観るヤオ、イヒュリナ、そして僕。こういう場にストラットは来ない。ウオッカの2杯目を飲むイヒュリナ。
あなたが彼女の代理だと言われて驚く僕。
だが皆は僕がナンバー・ツーで「プロジェクト・フェイル・メアリー」の副操縦士だとの認識。
イヒュリナなどはストラットとの肉体関係まで勘ぐる。
ロケットの発射は成功した。

「なぜ、うまく行かないんだ?」アストロファージの量が減らない。それは試料の中に捕食者がいないという事。
ロッキーと議論を重ねる。アストロファージを捕食するための領域の存在。それが雲として認識出来る。繁殖高度は地表から91キロ。船は地表から100キロ以下に近づくと燃えてしまう。
長さ10キロの鎖を使って釣ることを思いつく。
エンジン噴射は直下だとIR(赤外線放射)によりイオン化した空気で爆発するから、斜めで行う。
鎖は他と繋ぐため、開口部を持つ楕円形が必要。サンプルを作ったが、材料が大量に必要。共同寝室のベッドも溶かして材料に出来るというロッキー。それが溶かせるアストロファージ。
ロッキーとの会話で、彼が予定より早くタウ・セチに着き、大幅に燃料が残ったと聞き、ある考えが浮かぶ。それは確信に。
エリディアンは相対的物理学を知らない!それが僕の救済につながった。「これからたくさんの科学を説明する・・・」

僕を訪ねて来たスティーブ・ハッチという男。金属製の丸いものを抱えている。これはカブトムシ(Beatle)だという。自律型の小型宇宙船。タウ・セチからの情報を持ち帰るもの。
燃料はアストロファージだという。これが4基ある。
それでテスト用にアストロファージが欲しいと言って来たのだ。
人類の将来に楽観しているスティーブ。
この宇宙船をビートルズと命名している彼。

第19章
ロッキーは相対論の話に驚いたが、何度も話すうちに折れた。
その後は延々と鎖作り。僕が金型を作って、ロッキーがそれにキセノナイトをセット。次々に出来て行く。輪の長さは5センチだから総数で10万個。毎日8時間稼働で2週間かかった。
サンプラー・プローブはロッキーが作った。準備完了。

通常姿勢から、船体を斜めにさせながら高度維持。噴射によるIRで後方が赤熱している。
プローブを投下する。500m単位でまとめたスプールが20本。もつれない様にする工夫。鎖はまっすぐ落下。全てのスプールを投下し、プローブの温度が繁殖地点レベルの温度と確認された。
いよいよステップ2。EVAスーツで船外に出る。強い荷重。
ロッキーの作ったウインチをセットする。そして始動。歯が鎖の輪の穴に嵌り巻き取られると、輪が反転して外れて行く。動作は順調。動作が安定してからスピードアップ。
サンプル装置が近づいたためスピードを落とし、そして回収。
だがその時、船体が揺れる。必死でエアロックに飛び込む。
サンプラーはそのままにしてコントロール・ルームに急ぐ。
安定軌道に乗せるため、10分間ドライヴ全開を保つが偏走する。ようやく軌道に留まれる速度に達し、エンジン停止。
外部カメラで確認すると、燃料タンクに大きな穴が開いている。
船体が溶けたのだ。アストロファージの冷却能力も及ばず。
その穴からアストロファージが二酸化炭素を求めて流出を続けている。止めないともっと悲惨な事になる。高いGに逆らって何とか燃料ベイ投棄のボタンを押す。強烈な衝撃。
まだ破れたベイがある。当たりをつけたものを更に投棄。

外れたベイの反動で船体がコマの様に回転する。
操縦席の椅子が壊れ、シートベルトをしたまま床に挟まれた。
椅子が重すぎて息が出来ない。肺がパニックを起こしている!
と、突然呼吸が出来る様になった。なぜか分からない。

続いて強烈なアンモノアのにおい。振り向くとロッキーがいた。彼が自分のエリアから出ている!

シートベルトを切って僕を解放してくれたのだ。
倒れ込むロッキー。五肢全て丸め込んで震え、動かなくなった。

第20章
強烈な回転は続く。「遠心機」のスクリーンを出しマニュアルで作動させた。ケーブルで繋がれた前部と後部が離れることで、遠心力が軽減。何とか動ける様になった。
ロッキーの所に戻り、綱を巻き付けて引きずる。

何とかエアロックまで到着。そしてロッキーを中に入れる。

だが僕の側のコントロール・パネルが破壊されている。
万一に備えて、ロッキーの側から彼の空気を取り込むバルブが装着されている。行って戻るのに何秒かかるか。
レバーを引くと熱いアンモニアが飛び出して来る。

エアロックから走り出てドアをロック。鼻、喉にダメージ。

ベッドに横になって「助けてくれ!」

コンピュータが即座に診断し処置をする。
ロボットアームが挿管、輸液と鎮静剤静注。意識を失った。

目覚めると、身体中医療器具に覆われていた。目は見える。
僕は一瞬、超高温、超高圧のアンモニアの突風に晒された。
今生きているのは幸運の賜。エアロックの壁を挟んでロッキーの前に座り込む。そして彼の体の情報を集めた。

彼の甲羅のラジエターは血液を冷却する。

それが燃えて酸化物で覆われている。

取り敢えず重力を正常に戻さなくてはならない。コントロール・ルームに入って、指令室の反転指令を見つけて指示。
3分かかって姿勢が正常になった。ロッキーも気になるが、まずは彼の冒険を無駄にしないため、サンプルを回収。
サンプルにとって無難な環境を作り、エサになるアストロファージもたっぷり用意した。

ロッキーをエアロックに入れて丸一日経った。全く動かない。
いろいろな事も考えたが、結局彼の治癒力に任せるしかない。
ただ、ラジエター器官をきれいにする事は出来る。そのための部材を、様々な部品を集めて作った。接着剤が固まるまで待つ。
ラボに戻り、回収したものの変化を確認。チャンバー内に変化が見える。詳細に記録するためウェブカメラをセットしコマ撮り。

コントロール・ルームに戻る。診断システムが異常を表示。

その場所に行くと隔壁にヒビが。霜が盛り上がっている。緊急ではないが、塞ぐためにエポキシ樹脂を塗って15分ほど固定。
そしてロッキーのところに戻る。ロッキーの居るキセノナイト製のボックスに穴を開ける。相当なリスク。開けた穴から高圧空気のジェット噴射でロッキーの甲羅の燃えカスを吹き飛ばした。
煤の様な粉塵が出なくなり、ポンプを止めた。出来る事は全てやった。あとはロッキーが目を覚ましてくれるのを祈るのみ。

第21章
3人の宇宙飛行士を前に、死を前にした時どういう方法を選ぶかの方法を聞き取る僕。
まずデュポアは窒素による窒息。それが最も痛みを伴わない。
次いでイヒュリナはヘロイン。それも最初の何回かは最高の快楽を経験してから。快楽のまま死ねる様医師に処方を作らせる。
ヤオ船長は銃を用意して欲しいと言った。

ベッドで身をよじる。腕の火傷の強烈な痛み。イヒュリナのヘロインが欲しいほど。特攻ミッションだったら使っている。
その時「トン、トン」という音。
音の方を見ると、ロッキーがエアロックの壁を叩いている。
ロッキー!」ベッドから転げ出て向かった。「大丈夫か?」
僕が動かして運んだ事を理解するロッキー。煤が付いて大変だったラジエター器官を心配するが、あれはダメージをカバーするための「かさぶた」だったと聞き、がく然とする。
早く取っていたら致命的だったが、治りかけていたから助けになったとフォローするロッキー。
サンプルを心配するロッキーに状況を報告。だが密閉したまま開ける事が出来ないのを指摘される。働かない頭。
「きみは寝るべき」と言うロッキー。

疲れと薬で、僕は赤ん坊のように眠った。目覚めると、ロッキーが作業台で何かしている。サンプルの入った容器の改造。良く出来ている。ベッドで横になった。ゆっくりやらなければ。
人間とエリディアンとの類似性について話し合った。

音に対する反応、考えるスピードなど。
他者のために死んでもいい、と考える点に言及したロッキー。

「自己犠牲が種全体の存続可能性を高めるから」との返事に

「エリディアンが他の人のために進んで死ぬわけではない」
「人間も同じだよ」「きみとぼくはよい人」

打上げまであと九日。迫って来る期限に向けて、問題点の報告とその対策に忙殺される。作業をしつつも、子供たちが経験するこれからの年月に思いを馳せる。
その時、窓の外に一瞬光が見えた。それからしばらくして、耳をつんざく様な爆発音。衝撃波で椅子から落ちる。
隣りの住宅からストラットの声。「調査センターが爆発した!」
すぐスケジュール表を取り出す。デュポアとシャピロがアストロファージの実験をしていた。二人と連絡かつかない。
送られて来た写真では、ビルがあった場所がクレーター状に。
原因はアストロファージしかない。一体何があった?
そんな時にも後任候補のリストを要求するストラット。
「新しい科学スペシャリストが必要なのよ。今すぐに!」

ロッキーが作った透明キセノナイト製のボックスで、サンプルが管理されている。この三日の間にお互いだいぶ良くなった。
ボックスの中からサンプルを一部出し、顕微鏡で観察する。そこにはたくさんの生物。その中から、アストロファージの凝集塊に近づくアメーバ状のもの。それが凝集塊を包みこむ。
囲まれたアストロファージは器官や膜が見えて機能を失った。
「やった!アストロファージを食べた」 「発見!」
「きみが名前をつける」 タウ・セチ由来のアメーバだから「タウメーバ」にしよう。地球とエリドの救世主。

今はロッキーが作ったタンクでタウメーバの繁殖中。量を増やしたので、次はエリディアン以外の惑星でどうなるかの検証。
今考えなければならないのは金星と、ロッキーの故郷の恒星系にある第三惑星「スリーワールド」
スリーワールドは小さいながらも大気を持ち、84%が二酸化炭素、8%が窒素、4%が二酸化硫黄。
まず一つ目のチャンバーに金星の大気、次のチャンバーにスリーワールドの大気を入れてタウメーバの様子を見る。
「一時間待って結果をチェックしよう」

第22章
真っ暗闇だ。船が突然シャットダウンした。位置を音で把握しているロッキーの助けを借りて、非常ボタンを見つけて押す。
非常用バッテリーが機能して、ごく一部が復旧した。ジェネレーター(発電機)は作動しない。「ジェネレーター、ぼくが直す」
とロッキーが言うが、その場所が分からない。落胆する彼。
あたりをつけて倉庫エリアに行く。真っ暗で何も分からない。
ロッキーの能力で六つあるパネルを順次開く。ようやく見つけてアストロファージ供給ラインのバルブを開ける。ぬるぬるしたものが出て来る。ひどいにおい。まさか、まさか・・・
ぬるぬるをガラスにつけて顕微鏡に押し込み、懐中電灯の光で確認した。タウメーバだ。ジェネレーターの中にいる。
そしてアストロファージを全部食べてしまった。
ラボからいくらか逃げ出したんだろう。先日死ぬ思いをしてから船体はヒビや洩れだらけだ。永遠にここに釘付け。
永遠ではない、とロッキー。「すぐに軌道減衰。ぼくらは死ぬ」

燃料ラインを検査して回った。どこもかも大量のタウメーバのウンチが詰まっている。ほとんどがメタン。燃料タンクはメタンに置き換わっている。メタンを燃料にして飛べるとロッキーは言うが、簡単な計算でも無理な話。とりあえず予備のジェネレーターをロッキーに託した。果たして直るか・・・
本当に今日はハードな日だった。

まさにハード・デイズ・ナイト・・・

「ビートルズだ!」 ロッキーが驚く。
この船に4基の小さい船が乗っている。自律型だから安全。EVAスーツで取りに行こうとするが 「きみは寝る。ぼくは見守る」

目覚めるとロッキーが、密閉したジェネレーターをくれた。
それを使って何とか船の電力が復活。
ビートルズを取りにEVAスーツで船外に出る。

緊急避難で遠心機モードのまま船はまだ回転している。
目的のものは船首にある。綱を頼りに船首に向かう。
パネルを止めているボルトを外すと、ビートルズが4基見えた。
名が刻んである。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴ。
作業用の冷却ボックスを使い僕が回収したビートルズのうち、ポールを分解して機能を把握したロッキーは、コンピュータを迂回させ、音声で稼働する装置を付加した。
リンゴとジョンにも同様の改造を加える。ただ、本来の目的のためジョージだけはオリジナルのまま残した。
改造の終わった3基を受け取り船外活動に入る。

船尾に3基のビートルズをキセノナイト接着剤で固定した。

取付けは船に対して45度の角度。回転を止めるための措置。
戻って準備作業。船として動かすためには遠心機モードを戻さなくてはならない。だがそれはあのGをまた経験する事になる。
クルー・コンパートメント反転後、ケーブルが巻き取られるに従いGが加わる。6Gに達してほとんど呼吸が出来ない。

視野がどんどん狭くなり、真っ暗になった。
目が覚めると、船は無重力になっていた。ロッキーの活躍。
次はロッキーの船に戻るための推進時間と角度の算出。

第23章
ミーティングに呼び出された僕。調査センターで何が起こったかの報告。アストロファージ動力のジェネレーターで、稀に起こる不具合の検証を行っていた。レアケース想定での多量燃焼。
そのアストロファージ 1ナノグラムを要求したのに対して、係の将校が1ミリグラムを渡してしまった。見掛けはほとんど同じ。
想定の100万倍のエネルギーが解放された・・・
打上げ延期かを聞く僕に、予定通りと話すストラット。
軌道計算から言って遅らせる事は出来ないという。次第に僕へ視線が集まる。「クルーへようこそ!」とイヒュリナ。
必死で防衛する僕。・・・僕は、死にたくない。
「考えさせてもらえますか」残された時間は4時間半。

出発時は燃料のため大質量だったが、今は軽くなって3基の力で十分。ただしフルパワーを掛けると接合部はもたない。その補強部品をロッキーは既に作っていた。船外活動で取り付ける僕。
準備作業で方向を定め、ジョン、ポール、リンゴにフルパワーを掛ける。それを3時間行って慣性航行に。11日後に減速する。
それまでは1.5Gの環境下でラボの作業が出来る。金星とスリーワールドの大気下でどうなったか。4日放置を余儀なくされた。
スライドガラスに挟まれたアストロファージが食べられていれば、向こうが透けて見えるはず。どちらも真っ黒だった。
実験は失敗。タウメーバはみんな死んだ。ロッキーも落胆。だが「ぼくらは諦めない」と言う。「ああ、多分そうだよな」
僕はこの仕事にふさわしい人間ではない。僕は身代わり。

ストラットのトレーラーハウスを訪れる僕。その部屋にはテロに備えて兵士がいた。顔も上げないストラット。
「さあ、五時ね。結論は出た?」彼女と視線が合わせられない。
僕は子供たちのためとか、この地での貢献とか様々な理由をつけて、地球に留まりたいと言った。彼女は拳てテーブルを叩く。
「問題は誰が一番適任かということよ!」
プランを話すストラット。打上げ時僕に鎮静剤を打ち、後に目覚める。ヤオ船長とイヒュリナには彼が自ら選択したと伝える。
更に、長期間逆行性健忘症になる薬を完成させたと話す。健忘症が消える頃には、あなたはビートルズを送り出している・・・
彼女に指示されて兵士が僕を部屋から引きずり出す。
「こんなこと、していいわけがない!」
「子供たちの事だけ考えなさい、グレース」

第24章
そういう事だったのか。一瞬のうちに記憶が蘇えった。
「くたばれ、ストラット」 だが彼女の計画は成功。
記憶が蘇えっても、僕はこの先も全てを捧げるつもりでいる。
いつの間にか、トンネルを通ってロッキーが来ていた。
「きみはとても悲しい」なんでもお見通しのロッキー。
タウメーバが強い生物だと言うロッキー。まずは二酸化炭素中から始めて、次第に別の気体を入れて行く。何が問題か分かる。
テスト用のチャンバーはロッキーに依頼。あと34分でメインスラストが終わる。その後は遠心機モードでテスト続行。
「危険」と言うロッキー。元々ビートルズは回転用ではない。かつてのトラブルの再現を恐れる。11日間待とうと言うロッキー。
だが待てない。700年生きる相手には理解出来ないだろう。
「人間の性質」との言葉に「了解、本当ではないが・・了解」

回転速度アップは計画通りに行った。ロッキーは約束通り試験用チャンバーを作った。それによりタウメーバの耐性試験開始。
その試験の中で窒素を加えた時、タウメーバが全て死んだ。
エリドでも地球でも窒素は無害。あとから進化したタウメーバにとっては未知の元素だった。ロッキーの甲羅が沈む。

スリーワールドの大気には窒素8%。金星には3.5%.
生物には耐性があることを説明する僕。ギリギリ生きられる環境を作って、耐えられる者を培養して繰り返す・・・
「イエス!ぼくは作る!」彼が素早く走って行った。

タウメーバの試験は順調だが、もう一つの問題。僕の通常食料は数ケ月で尽き、あとは昏眠状態用のドロドロが4年分。
ロッキーの食料を調べるが、重金属が多すぎて無理。
タウメーバは窒素耐性を獲得しつつある。
ブリップAのための逆噴射まであと17時間。それに備えて遠心機モードの解除を行った。
ロッキーは離船する時、エンジンが20分に一度一瞬オンになる設定を施していた。今それがビーコンとなって位置把握に寄与。
タウメーバの窒素耐性は0.6%まで向上している。
次いでブリップAとの邂逅のための逆噴射。
1時間ほどでブリップAに着く。

第25章
やった!ついにやった!金星大気の窒素3.5%に耐えるタウメーバ35が完成したのだ。
だがこの先スリーワールドでも生きられる8%生存までが必要。
ブリップAとはロッキーが作ったトンネルで繋がれていた。
そのため「ヘイル・メアリー」はゼロG状態。
ロッキーは、タウメーバの改造が実現した先の事を考えていた。
ラップトップを一つ欲しいと言う。地球の科学情報の宝庫。
それと引き換えにキセノナイト情報が欲しいと言う僕。
何週間ぶりかですぐ眠りに入れそうだ・・・

今僕がやっているのはタウメーバのウンチの掃除。ほとんどは死んでいるが、問題は生き残っている者。あってはならない。
それと同時に耐性タウメーバの試験は進む。現在5.2%。
燃料ベイの清掃が済むたびに密閉して行く。
きれいにした燃料ベイに窒素を入れて殺菌し、その後アストロファージを入れて確認。結果的に7つのうち2つが殺菌できず。
燃料ラインも含め徹底的に殺菌したが、5番ベイだけはどうしても駆逐出来ず廃棄した。最終的に残ったのは6個。
それに詰めた燃料で戻る時、多少伸びる事を想定して5年半。
それだけの食料がない。結局通常食料と昏眠用食料で戻るには9つの燃料ベイが必要。
不機嫌な僕を見て寝不足だと警告するロッキー。

燃料が足りない事をぶちまけると「ぼくが燃料タンクを作る」
できるのか?キセノナイトはもうそんなにないじゃないか!
「強い素材なら何でもいい。溶かして君のタンクを作る」
「ああ・・・ああ、オーケィ・・・」

ロッキーの作ってくれた燃料ベイを取り付けるためのEVA船外作業は、もう6時間を越えた。新しいベイの素材は分からない。
耐圧は必要なく、加速時に耐えればいい。
タウメーバの最新世代は7.8%まで来ていた。

興奮するロッキー。
3時間後、ようやくベイの設置が終わった。
そして更に進んだテストの結果、タウメーバ82.5の完成。
騒音を炸裂させるロッキー。その株の繁殖を進める。

イヒュリナが絶対に持ち込んでいた筈の酒を探す。私物一式をとうとう発見。そして見つけたウォッカ。

それを持ってロッキーの待つラボに飛んで行く。

ロッキーは体中を宝石や衣装で飾っていた。
祝う時の特別な服だという。こちらは祝う時の液体。
祝杯を掲げる。「タウメーバ82.5に!。2つの星の救済者に!」
こちらの船への燃料移送装置が出来たというロッキー。
「そしてぼくらは家へ帰る!」だが僕の気持ちを察知した。
しばしの沈黙。「ぼくらは一緒にいる時間を楽しむ。帰ったらぼくらはヒーロー!」酔った頭でレンチを掲げる「ぼくりゃに!」

「ヘイル・メアリー」に満タンの燃料-アストロファージが入れられた。地球出発当時より多い。ラップトップの贈り物に感謝するロッキー。別れの前に残された僅かな時間で事務連絡。
そろそろ時間になる。「きみの顔に洩れがある」
目をぬぐう。「人間の事情だ。気にしないでくれ」
ブリップAのロボットがトンネルを外した。そして離脱。
僕は家へ帰る。

第26章
独房で腰をおろしている僕。打上げ予定日は今日。ドアを開けてストラットが入って来た。「好きでこんな事をしていない」
学生の時、歴史を専攻したという。歴史は、たいていの者にとっては過酷。ほとんどの者は食料を得るために生きていた。
今回の事で、人類の半分がなくなる以上の事が起きるという。
必ず戦争が起き、それが農業を破壊する。抑え込みの破綻。
アストロファージはまさに黙示録。私達にあるのは「ヘイル・メアリー」だけ。成功率を高めるため、私はどんな犠牲も払う。
部屋を出て行く彼女に「地獄に落ちろ」
「ええ、落ちますとも。そしてあなたたち3人はタウ・セチに行く。私たちには地獄が向こうからやって来るのよ」

彼女に何と言ってやろうか。今、4年近い旅の18日目。様々な雑用をして過ごす。戻った時の行動、食料のチェック等。
時々スピン・ドライヴを切ってペトロヴァ・スコープを使い、ブリップAの軌跡を見る。小さな光点を見て溜息をつく。
ビートルズはずっと最優先事項だった。

即席エンジンとして働いてもらったが、本来の目的に戻した。
搭載する、タウメーバのミニ農場用の容器を製作。地球の科学者が扱える様キセノナイトではなく、エリディアンのスチールで作った。そして取付けは下部構造に接着とした。
また、減ってしまった燃料の補給が必要。再利用する様には作られていない。ビックのライターにブタンを足す様なもの

結局ドリルで穴を開けて注入。ジョンとポールには昨日実施。
今日はリンゴの作業。ジョージはエンジンとして使わなかったので、作業はミニ農場の取付けだけ。
備品キャビネットからアストロファージ貯蔵容器を出して、リンゴへの注入を行おうとした時、容器からひどい匂いがした。
これは腐ったアストロファージの匂い。
タウメーバが野に放たれた!

第27章
落ち着け。容器はまだ熱く、生きたアストロファージが多い。

まだ発見の早い段階。燃料ベイに入らせないのが最優先。
タウメーバの移動に関与したのは生命維持だとあたりを付けて、ヒーティング・システムのブレーカを切る。
次いで燃料ベイの数値確認。温度表示は正常。即座にエンジンを停止した。燃料ラインの動きを止めたかった。
どうやって逃げ出した?船内に存在したのはビートルズのミニ農場の中味と、密閉したキセノナイト製の繁殖タンクの中だけ。
タウメーバがどうやって逃げたかの詮索は別にして、とにかく死んでもらわなくてはならない。窒素100%なら必ず死ぬ。
生命維持に関するものを全てオフにする。警報も切った。そして10キロの窒素ボンベを見つけた。それはデュポアの自殺用。
エアロックに飛び込んでEVAスーツを着込み内、外のドアを解放する。室内の空気が放出される。気圧が正規の10%になってから船内を密閉し、窒素ボンベを開く。
ラボに下りて例の容器を見る。まだ生きているかも知れないアストロファージごと宇宙空間に放り出した。
3時間後にブレーカを入れ、船内の空気を正常に戻して行く。
スーツから出て繁殖農場に行く。10個ある農場を全てプラスチック容器に入れて密閉し、窒素を封入。漏れがあれば中のタウメーバは死ぬ。次はビートルズ。

全てのミニ農場をプラスチック容器に入れた。

第28章
タウメーバ大脱走から三日。閉鎖した燃料ベイを全てチェック。幸い九つ全て試験にパス。
スピン・ドライヴを再開し1.5Gの加速で航行中。
事態は落ち着いたが、タウメーバはどうやって逃げ出したか?
スライドガラス・アストロファージのチェッカーが検知に便利。
透明になればタウメーバに食べられた事になる。
まずミニ農場。プラスチック容器の圧力を下げてチェッカーを入れる。二時間経ってもすべてOK。
次いで10個の繁殖農場。最強のキセノナイト製容器。10個全てにチェッカーを入れて容器圧力を下げる。一息ついて寝た。

6時間後に目覚める。寝る前にセットしたものの確認。
透明だ。そこで次の・・待て、透明?10個全てが洩れている。
いやな予感、疑念が湧く。タウメーバがキセノナイトの分子構造をすり抜ける?まずは実験。
キセノナイト片2枚の間にアストロファージを塗り、周囲をエポキシで固める。次いでプラスチック片2枚で同様のものを作る。
夫々2組作り、1組はオリジナルのタウメーバが入った容器に入れて密閉。もう一つはタウメーバ82.5が入った容器に入れ密閉。
タウメーバ82.5はキセノナイトを通過、プラスチックは無事。
オリジナルのタウメーバではどちらも無事。
結局タウメーバ82.5は窒素耐性だけでなく、キセノナイトに潜り込んで窒素から逃れる特性も獲得した!
繁殖農場を見る。キセノナイト部を金属に置き換えればいい。
やっかいなところは全てロッキーがやってくれた・・・
ロッキー! いきなり吐き気に襲われる。
ロッキーの船のタウメーバ農場もキセノナイト製。悪いことに隔壁、燃料タンクもキセノナイト。「ああ、なんてことだ・・」

第29章
アルミニウムで作った新しいタウメーバ農場は順調に稼働。
問題はロッキーの船。軌道計算をし、何度もスコープで見たがブリップAの航跡は見つからない。それが修理可能なら、彼ならとっくに直してる。静止しているのは燃料がなくなったから。
僕は故郷に帰り、ヒーローになれる。だがロッキーは死に、何十億もの仲間も死ぬ。僕はこんなに近くにいる。
一つのオプション。ビートルズを全て発進させたら反転してロッキーを見つけ、故郷のエリドに連れて行ってやる。
ひとつ問題がある。それだと僕は死ぬことになる。
エリドから地球に向かっても食料が続かない。

エリディアンの食べ物は食べられない。
目を閉じるとロッキーの変てこな甲羅が見える・・・

決断してから6週間。心変わりせず頑張っている。時々ビートルズの4つの航跡を確認した。そろそろ見えなくなる。
もっとしょっちゅう、彼の位置をチェックしておけば良かった。
ロッキーの気持ちになってみる。あっさり自殺などしない。
いくらかのアストロファージは残る。それでビートルを作る?
エリディアンの技術では無理だ。無線はどうか?それについても悲観的な検討結果になった。
いいレーダーがあればいいのだが・・・あった!

スピン・ドライヴとペトロヴァ・スコープ。エンジンのIRを進行方向に向けて発射し、その反射をスコープで確認する。
エンジンを光らせたのと同じ方向をスコープでパンする。

全方位でそれを行う。二周目に入った。反応なし。次は下方に向けて同じ作業。繰り返せば全方位見ることになる。

閃光だ!ついに見えた。閃光の辺りの方位を割り出す。船体を反転させ、10秒噴射して元に戻す。反射光が見えるまで28秒。

約400万キロ先だ。9時間半で着ける。エンジンを駆動。

予定時刻になりレーダーをオンにするが、まだ検知圏外。
スコープを使いたいが、スコープとエンジンの同時使用は不可。
角度調整エンジンなら可能。すぐそれを試した。

目標までの距離と方角が判明。そこへ向けてドライブ噴射。

ついにブリップAをレーダーで捕えた!
物体まで500キロになると形が分かる。ブリップAだ。
更に50メートルまで近づき、交信を試みる。

無線、ドライヴの閃光。だが一切の反応なし。EVAの出番だ。
真っ暗で船体は見えない。星が見えないことで確認。綱を付けてのバンジージャンプ。近づくにつれ、こちらのライトで壁面が光る。アンテナめがけて綱を投げ、何とか掴むことが出来た。
レンチで船体を叩く。無線を開き「ロッキー!」と叫ぶ。
「グレース、質問?][ああ、バディ!僕だ!」
エアロック・トンネルを設置してくれと頼む僕。
「きみの船へもどれ!」とロッキー。

エアロックが設置され、ロッキーと対面した僕。ひどいありさまだった。タウメーバのヘドロにまみれ、スーツは焼け焦げ。
タウメーバの汚染食い止めは全て失敗したという。
僕は成功したと話す。キセノナイトに入るタウメーバ82.5の特性を教えた。地球の事を聞くロッキーに、ビートルズに託したと説明。きみが家へ帰るためのアストロファージを作ると言うロッキーに「僕は家へは帰らない」食料が足りないことを説明。
エリドの食べ物は重金属が多くて無理。
「ではきみは家に帰る。ぼくはここで待つ。エリドがいつか別の船を出す」そんなあやふやな推測に種族の運命を委ねるのか?
しばしの沈黙のあと 「ノー」
オーケィ。君の荷物をこちらへ・・・
待て、と言うロッキー。エイドリアンの食べ物はどうか。
アストロファージなんか無理。食べたら焼け死ぬ。
「違う、タウメーバを食べる」あれは生きている。ミトコンドリアがある。エネルギーをグルコースとして蓄える。
そしてエイドリアンの大気に重金属はなかった。
「もしかしたら、食べられるかも知れない」
「ぼくは燃料ベイに2,200万キロのタウメーバを持っている。どれぐらい欲しい?」
久しぶりに混じり気のない希望が湧いてくる。

第∀ℓ章
ミーバーガーを食べてビタミン強化ソーダを飲む。エリドでの2、3年は綱渡り。タウメーバで命は繋げたが栄養失調。

様々な疾病に襲われた。それだけの価値があったかは不明。
「ヘイル・メアリー」計画も、最初から成功の可能性はなかったのかも知れない。
エリディアンはすばらしくもてなし上手。

何としても僕を生かす事に同意した組織。惑星を救い、そして生きている異星人は大いなる科学的関心の的。
僕は都市の中の大きなドームで暮らしている。生命維持は専任の30人で対応。僕にどういう栄養素が必要かも研究された。
僕の筋肉のクローンでの研究。それから16年。そのおかげでついに肉が食べられる様になった。僕はミーバーガーが大好き。
毎日ひとつは食べている。
 

小道を通ってミーティングルームに向かう。透明キセノナイトの向こうはエリディアン側。ロッキーが待っていた。
やっと来た!と小言。そしてニュースがあると言う。
「きみの星は最大輝度に戻ったぞ!」身体が震え出す。
終った。僕らは勝った。理由はひとつ。アストロファージがいなくなったか、もしくは問題ないほど減った。
「おい、君の顔から水が洩れてるぞ!ずっと前に見たきりだ」
「きみはしあわせなのか?」 「もちろんそうだ」
それでどうする?と聞くロッキー。
エリドの組織はずっと前に「ヘイル・メアリー」へ燃料、食料を積んで送り出せると言っていた。

その申し出をずっと受けずにいる。
「勝手な事を言えば、ぼくはきみにここにいてほしい」
「今のニュースは、僕の全人生を意味のあるものにしてくれた」

妻エイドリアンの元に戻ろうとしたロッキーが言う。
「宇宙にいる他の生物の事を考えたことがあるか?」
「もちろん」「アストロファージの祖先が地球とエリドに生命の種を撒いた・・・」「もっと多くいるかも知れないな」
そこで別れた。
地球のことを思う。彼らはビートルズの回収に成功して対策を講じた。それには金星へのミッションもあっただろう。
彼らが協力し合ったと信じる。

お気に入りのミーティング・ルームに入る。子供のエリディアンが30人ほど。そして授業を始めた。
「光の速度が分かる人はいるかな?」