NHKスペシャル 松本清張と帝銀事件 第1部(ドラマ) 12/29放送 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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NHKスペシャル 未解決事件 File.09
松本清張と帝銀事件 第1部 松本清張と「小説 帝銀事件」

感想
「小説 帝銀事件」は20代の頃、全集に入っていたものを読んだきりだが、いくら仮名を使っても真実の事として読んでいた。
だがあれから40年を経て、毒物が青酸カリでは話の辻褄が合わず、またGHQの干渉があったという事も忘却の彼方・・・
今回、サラっとドラマを観て片付けようと思ったが、若い頃の自分をサルベージしようと、気を取り直してレビューした次第。
この小説に深く関与した編集者 田川が生き生きと描かれて、ドラマの印象としてはなかなか良かった。

清張は、朝日新聞の小倉支社で記者をやっていたと思い込んでいたが、実は一介の図案描きだったと知って愕然。
小学校卒という学歴の壁が彼のデビューを遅らせたが、それがまさしく彼の作家人生を支えた。
このドラマに度々出て来る「壁」が象徴的。
オマケ

オープニングで清張が汽車に轢かれそうになる場面。

合成だからって、完全に轢かれるタイミングにびっくり!

とろサーモンの久保田が情報屋の役でちょっと出ていた。かつて上沼恵美子の件で叩かれてたが、こういう使い方もある・・・


あらすじ
キャスト
松本清張  大沢たかお
田川博一  要潤
松本ナヲ  井川遥
竹内理一  迫田孝也
松田昭信  山崎銀之丞
池島信平  千葉哲也
竹内正子  桜木梨奈
佐竹充   久保田かずのぶ(とろサーモン) 

平沢貞通  榎木孝明
山田義夫  佐野史郎
福本征治  豊原功補

1950年の松本清張。

線路で落とした万年筆を探して列車に轢かれそうになる。

もう40歳。何者にもなれると思っていなかった。
 

1957年東京。講演を行う清張。「点と線」「眼の壁」の連載中。事件のカギは動機と狂気・・・
今興味を持たれている事件はありますか? 「ある」
文藝春秋編集者 田川博一が割り込んで来て記者を撒く。
興味を持っているのは「帝銀事件」

「ウチで連載しましょう」「書くとは決めてない・・」
編集長を拝命すると言う田川。目玉となる作品が欲しい。
事件に着想を得た小説。これはウケます。
「だがこの事件は謎が多い・・・」
平沢貞通は無実ですか?・・・

日本中を震撼させた「帝銀事件」
1948年1月26日に発生。都の衛生課職員を名乗る男が、赤痢の予防薬と言って行員他16人に毒物を飲ませ12人を殺害。

そして現金と小切手を奪った。
4人の生存者から犯人のモンタージュ写真が作られた。

名刺は実在する元軍医 松井蔚(しげる)氏のもの。
警察は延べ2万人を動員し捜査。7ケ月後画家 平沢貞通を逮捕。
取り調べ1ケ月後、平沢は犯行を自供。
だが裁判では一貫して犯行を否認。

死刑判決に上告するも1955年、最高裁で死刑が確定。
凶器は青酸カリ。動機は金目的とされたが、毒物の入手経路は不明。現在も再審請求が続いている。

1957年、新居に移った清張。社会派推理小説家として注目されていた。「点と線」完結。他にも原稿を待つ編集者。

雑誌の寄稿を読む清張「平沢は果して真犯人か」

著者は読売新聞記者 竹内理一。

帝銀事件での生存者の一人 村田正子の夫でもあった。

毒物が遅効性である事から、青酸カリではなく青酸ニトリールと推定。それは第九陸軍技術研究所が開発したもの(要人暗殺用)


山田法律事務所を訪れる清張。平沢の弁護人 山田義夫。

彼に質問する清張。注入したピペットで4~5ccを16人分に分ける。訓練された者にしか出来ない。
平沢は過去に詐欺事件をやっており、世間の空気が変わった。
何を期待したいかと聞く山田に「動機は?なぜ自白したか」
彼はコルサコフ症候群だった(相手が望む証言をしたかも)
膨大な裁判記録を山田から借り受ける清張。

平沢を救って欲しいという市民の声。


メモが出て来る。田川に会いに行く清張。
警察の手配書は軍関係者を疑うもの。

その捜査方針が突如変わって、平沢に逮捕状が出た。

山田弁護士のメモは、特命班の松田刑事に証言を依頼するも断られたという内容(軍関係者の捜査を担当)

関係者に食い込んで欲しいと言う清張。
書くという返事をもらってないと言う田川に
「君の雑誌で書く」
その話を後ろで聞いていた男。

警察を定年退職した松田昭信に会う清張と田川。

「今なら話せる事もあるのでは?」
731部隊の名を出す松田。驚く二人。

警察には当初から731部隊の関係者ではないかとの情報が来ていた。731部隊は青酸ニトリールを開発した第九陸軍技術研究所に繋がっている。731部隊長 石井四郎にも接触した捜査一課。
部下に居る様な気がする、と言った石井。
中野学校出身者にも会った松田。なぜ平沢に逮捕状が?
分からない。ただ、GHQが絡んでいる。

下級の者には石井を恨んでいる者もいたらしい

元731部隊にいた少年兵の手記を入手して清張に見せる田川。
731部隊がハルビンで人体実験を行った。実験に使われた捕虜はマルタと呼ばれた。被実験者は毒殺の上焼却された。
それは5年行われ死者は1000~3000人に上った。敗色が濃厚になると証拠隠滅が図られる(少年兵が事後処理)
この手記が出されたのは1955年。GHQの監督下から外れたから出せた。やっと言論が自由になった(田川)
事件当時の1948年、公安はGHQの管轄下にあった(報道も)
我々は知らされていなかったのではないか?

1948年、松本は小倉にいた。朝日新聞西部本社勤務。

小学校卒では記者にはなれず、図案描きをやっていた。
敗戦国日本の主権は制限され、GHQの指導下にあった。
1949年に下山事件発生。1950年に朝鮮戦争勃発。
同年、小倉の米軍城野キャンプで、朝鮮に送られる米兵が脱走する事件が発生。多数の窃盗、傷害、強姦が起きた。
だが市民にそれはほとんど知らされず。
同年松本に転機。応募した「西郷札」が入選を果たす。
1952年、サンフランシスコ平和条約で独立を果たす日本。
翌年松本は「或る小倉日記伝」で芥川賞を受賞。

1956年、日ソ共同宣言を締結。抑留者の帰国。
731部隊のメンバーも釈放された。人体実験に関与した柄沢軍医死亡(自殺かも)
松本も外地から帰還した経験を持つ。
731部隊の幹部は責任を問われず。
石井四郎の責任を誰も言わないのは何故だ、と憤る清張。
「既に、お考えはあるのでしょう?」と田川。

報道へ脅迫状が届く「天誅」
竹内理一宅を訪れる清張。
彼が書いた手記の事を聞く。平沢がシロとは言い切れない。
何故突如方向転換したのか? 
GHQ幹部との裏取引き。アメリカは人体実験のデータが欲しかった。幹部の安全を保証したが、帝銀事件が起きた。
秘密を守るためGHQを通じて警察に命じた? そうです。
当時刑事部長が公安から呼び出しを受けていた。

あなたは告発したかったのでは?
妻は平沢が犯人とは思っていない(直感)
だから調べた。事実だけを書いた結果がその記事。

私はジャーナリスト。憶測では書けない。
警視庁捜査資料の出所を訊く清張。甲斐文助刑事と話をしたのでは? 沈黙がその答え。

田川を訪れる清張。甲斐文助に会いたい。私は書かねばならない。ノンフィクションで行きたい。少し考えさせて下さい・・
あの日、線路で万年筆を探した事を思い出す清張。一顧だにされない者の心の叫び。

田川に雇われている特派記者 佐竹が情報を持って来た。


それは田川が、清張には教えるなと言ったもの。

教えるなと言われれば、教えたくなる・・・
GHQはマスコミにも圧力をかけていた。
GHQ公安課のイートンが、警察を介して日本新報社会部次長に、軍関係者の調査から手を引いて欲しいと要望(命令ではなく)
731を洗うのを止めれば他の情報を渡す・・・

田川に詰問する清張。やはり取引きはあった。これで書ける。
佐竹の話だけでは不足という田川。何があった?
編集局長 池島信平から忠告される田川。編集者は作家を守らなくてはいけない。言論と暴力は、意外に距離が近い。

社長宛ての脅迫状を見せられる田川。
「今回は小説で行きましょう。ノンフィクションでは敬遠される。読んでもらわなければ意味がない」と諭す田川。
私が読者なら人の心情が知りたい。人の心を描くのが松本清張。
--私を守ろうとしているのか・・・
フィクションを盾にすれば、言いたい事が自由に言える。
--分かった。

1959年5月。「小説帝銀事件」発表。大胆な推理。
小説は大反響を呼ぶ。

 

連載の最後をどうするか迷った松本。
GHQの介入に関し、小説とはいえ書き切って良いのか。
確証が欲しい。
捜査の全容を最も把握していた元捜査一課の甲斐文助。

だが一切話は聞けず。〆切り二日前で田川を呼び出す清張。
服部と有末に会いたい・・・
元陸軍大佐 服部卓四郎と、元陸軍中将 有末精三。

GHQに雇われて帰還兵に情報を流していた。 
会えません、危険すぎます。ここにも壁があるのか・・・
介入は絶対にあった。だが決め手がない。

もう一人いる。「日本新報」元社会部次長 福本征治。


731について書くなと言われたのは事実ですか?
今さらどうやって平沢を救うんです。影響力があるのは読者。
情報は精査しなければ伝えられない(福本)
情報の選択権は市民にある(清張)
あなたの言うような事実はない。介入はなかった。
立ち去る福本。

小説の結びを書く清張。
日本は本当に独立したのか?
ある組織が占領軍の保護下にあったら、これは壁である。
世論は平沢を真犯人にしてしまった。これは台風の様に強い。
帝銀事件の犯人は誰か。私は書き切る事ができなかった。

1959年秋、田川が事故に遭う。見舞いに行く清張。
今度こそノンフィクションを書きたいと言う清張。
もっと自由に書けば良かったと言う田川。GHQの介入も、真犯人も書いてしまえば良かった・・・・
帝銀事件はまだ続いている。
だからこそ掴めた事実はノンフィクションで伝えたい。
僕は新聞記者になりたかった・・・

下山事件の下調べを始める清張。

田川が問う。帝銀事件の真犯人は誰ですか、動機は何ですか?
犯人は世の中に知らせたかった。
我々はこんな残虐をいとも易々とやった。それが戦争。
人間が人間でなくなる。その人間性を奪った奴は誰だ。

「日本の黒い霧」の執筆に取りかかる清張。
平塚に面会する清張。「お会いしたかった・・・」と平沢。