武士の家計簿 2010年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

監督    森田芳光
脚本    柏田道夫
興行収入 15億円

キャスト
猪山直之 (いのやまなおゆき)  - 堺雅人
猪山駒                - 仲間由紀恵
猪山成之             - 伊藤祐輝
  幼少時:猪山直吉 - 大八木凱斗
猪山信之             - 中村雅俊 直之の父
猪山常                - 松坂慶子  直之の母
おばばさま           - 草笛光子  直之の祖母
猪山政                - 藤井美菜  成之の妻  
猪山春                - 桂木悠希  直之の妹。
西永与三八(よさんぱち) - 西村雅彦  駒の父
大村益次郎          - 嶋田久作
前田斉泰              - 山中崇    第十二代加賀藩主
奥村丹後守栄実     - 宮川一朗太 加賀藩の重臣

予告編(中文字幕ですが・・・)


感想
城の「算用方」という財務部門に焦点を当てた、異色の時代劇。
生真面目ゆえに部門内の不正解明に首を突っ込み、飛ばされそうになる直之だが、却ってそのことが身を助ける。その思いが息子にも影響を与え、四文銭を拾う事さえ厳しく戒めた。
晩年、その息子に背負われながら労わる姿にホロっとした。

猪山家の借金についてちょっと解説。
六千二百六十匁は銀の事。銀一匁は現代で約1,250円。よって借金としては783万。親子の年禄を合わせてもその半分にもならないと言うから、さほどの地位でなかった事を考えると妥当なところ。
武士というのは見栄を張る文化でもあるから、こうした家計はごく一般的なものだったのだろう。
今でもクレジット会社がこれだけ繁盛しているのだから、一般家庭で数百万の借金などはザラにありそう。

感動巨編、というわけではないが、下級武士の慎ましい日常を淡々と描くことで、その時代の生活がじんわりと浮かび上がる。

いい作品。

あらすじ
江戸末期の金沢城。算用方として勤める猪山信之、直之親子。
算用方とは藩の理財会計を司る部署。
その大多数が下級武士だが、信之が江戸詰めで功績を上げたため七十石取りに出世した。


直之は「馬鹿」がつくほどのマジメ人間であり、融通が利かない。

そんな折り、信之が直之の縁談を画策する。

相手は剣術道場を開いている西永与三八の娘、お駒。
直之は道場にも通っていたが、剣の腕はからっきしダメ。
父から縁談を聞かされるお駒。「算盤馬鹿だ」と言いながら、面白いかも知れんと言う父に首をひねる。

一方この地方で飢饉が起こり、藩ではお救い米二百俵を出して対策した。だが街に出回る炊き出しは少なく、途中で抜いている者がいるとの騒ぎが起きる。
密かにこの件の調べを始める直之。
検地の折り、お駒に偶然会う直之は握り飯を食べている時、お茶の気遣いを受ける。

直之は調査の結果藩内での不正に気付くが、上役は帳尻が合っていればいいと揉み消す。
見合いの話は進み、直之とお駒は祝言を上げる。


その晩にも婚礼費用の確認をする直之。

「これしか生きる術がない、それでもいいか?」と問うと
「イヤです、と言ったらいかがなさいます?」とお駒。
・・・困る!と言う直之に「私も加えてください」

翌朝から気合を入れて働こうとするお駒だが、姑の常は使用人に侮られてはならないと戒めた。
直之が進めていた不正の調査が勘定奉行の耳に入り、咎めを受ける。そして能登の輪島への左遷が内示された。
だがその後、農民たちが一揆を起こしたことで藩内の不正が明らかになり、藩主の前田斉泰がお救い米を供出。
不正を行った者は処分され、人事は一新。
その時、奥村丹後守栄実が直之の力を評価し、能登への転任を取り止め、殿の側近(御取次ぎ部屋)へ取り立てた。

だが足元の猪山家の財政危機が迫っていた。

お駒の訴えでそれが判明。息子直吉の四歳を祝う袴着の行事で、親類にお披露目しなくてはならない。
行事の〆となる御膳で、小魚の背後に鯛の絵が並ぶ。

絵はお駒が描いた。

気まずい雰囲気の中「鯛じゃ!鯛じゃ!」と直吉が喜ぶ姿に皆気を取り直して祝う。


その夜、直之は両親とおばば様を前に、猪山家の財政状況を説明する。各方面からの借金を総合したものは六千二百六十匁。

放置すれば利息は年一割八分で増えて行く。
直之と信之の禄を合わせてもその半分にもならない。

よって直之は手持ちの金だけで息子の祝宴を営んだ。
そこで直之は、売れるものを全て金に代え、借金返済に充てると宣言。それはお駒の嫁入り道具にまで及んだが、祭りの夜に直之が買ってやった櫛だけは見逃された。

業者が乗り込んで品物の査定を行い、一方で貸主と交渉する直之。元本の半分を一括返済する代わりに残金を無利子の十年賦にして欲しい・・・
それからは直之自ら家計簿をつけ、お駒も自分のつけた帳簿を検算してもらう毎日。
そのうちに直吉は父から算術はじめ書道、論語、礼儀作法の手ほどきを受けるようになる。

直吉は、日々の賄いについても帳面につけて業者への支払いをする様、父から命じられた。
 

母方の祖父与三八に、何を目指せばいいか問う直吉。
お家芸を身に付けねば家が継げない、と諭す与三八。


ある日会計が四文合わないことを咎める直之。それは支払いを済ませた時に小銭を落としてしまい、見つからなかった分。
探せと命じられ、雨の中をはいずり回る直吉。

それを見て傘を差し出すお駒。

一緒に散歩をしている時、祖父信之が突然苦しみ出す。
うろたえる直吉。
あっけなく死んでしまった信之の葬儀。

その時にも葬式費用の算盤を弾いている直之。
算盤侍だから・・・・父のことが理解出来ない直吉。

ある日、直吉のなくした四文が解消されている事に気付く直之。
それは直吉が河原で拾ったもの。道に落ちているものを拾うのは物乞い。返してまいれ、と言う直之。
合点がゆかぬ、と逆上して算盤を投げ付けた直吉を突き飛ばした直之。
直吉は額に傷を作り、お駒はやりすぎだと叫ぶが意に介さない直之。河原まで行き、後ろ向きに四文銭を投げ入れた直吉。

おばば様が亡くなり、常も病の床。容体が悪化した常のために、手放した友禅の着物を買い戻したお駒。
もう借金はございませんゆえ、着て下され!と着物をかける直之。満足して亡くなる常。

元服した直吉は名を成之と改め、御算用者として城に出仕した。
そして十九歳で妻お政を娶った。

黒船来航により世の中が大きく動く中、直之は殿前田斉泰の側に着くが、後継の前田慶寧は、長州との戦いを避ける。
そして大政奉還となり、成之は出兵する。
その混乱の中、成之が戦死したとの報を受け落胆するお駒。
実は茂之は、新政府軍の大村益次郎に算用者としての力を認められ、重用されていた。

明治の世となり、成之は海軍軍人として出世し郷里に帰った。
足腰の弱った父をおぶって河岸を歩く成之。四文銭を投げた場所
の事を聞き「かわいそうな事をしたな」と呟く直之。


父は明治十一年に亡くなり、成之もまた葬儀の晩に算盤を弾いた。
猪山家は一家で東京に移住。成之は明治政府の財政管理に尽力し、彼の息子も海軍に入った。
お駒は明治三十年、成之は大正九年に死去。
猪山家の家計簿はその時まで付けられており、現在も残されている。

 

 

今日の一曲
The Spotnicks - Karelia (1966) 邦題:霧のカレリア