新聞小説「聖痕」(5)筒井康隆 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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筒井康隆 作  筒井伸輔 画


You Can Fly
挿絵 224

 

感想

レストラン「葉月」の発展を軸に店内の恋愛、土屋、瑠璃の成長が語られる。
グルメ小説的要素は減って来たが、どうしても引き込まれるという感覚に乏しく、俯瞰で見ている様な印象が強い。
夏子についても、貴夫と偽装結婚する様なタマの割りには、健気な継母を演じて涙まで流している。基本的に語られるのは「いい人」。

もう200回を超えて、そろそろ店じまいの準備にかかろうというところ。
最新情報によれば、東日本大震災が発生し、その支援に回る話に展開しそうだが、これってどうよ。ネタには困らないかも知れないが、貴夫の話に必要か?って思うとやや微妙。
大震災出すなら、もっと考える事があった様にも思う。

 

「聖痕」は3/13で終了し3/14から宮部みゆきの「荒神」が始まるという。
最近の新聞小説にしてはメジャーな作家。ちょっと楽しみ

 

あらすじ

177~224(1/10~2/27)

金杉はそれから足繁く「葉月」に通う様になり、田中公子と親しくなった。二人はやがて男女の仲に。公子はまともな結婚を望んでおり、金杉は理想的な相手だった。ついに公子まで、他の2人の様に宿舎を自分の住まいに特定して欲しいという。了承する貴夫。

双子の娘や女シェフの志賀はそれを快くは思っていなかった。

平然としている貴夫。

 

元旦の舞踊発表会。瑠璃の踊りを観た宗家家元が貴夫に、瑠璃を直弟子にしたいと申し出る。
登希夫は大学を卒業し葉月衣料株式会社に入社。

父の満夫から営業部勤務を命じられる。
繁盛を続ける「葉月」。元経団連会長の橘巳之助からの会員申し込みを受けてからは、大物ゆえに厄介な入会申し込みが断り易くなった。

昔は粋人で通した橘翁はこの会の本質を見抜きながらもそのやり取りを楽しむゆとりがあった。

 

古賀流で頭角を現し始めた瑠璃は小学校に入る年齢となった。

登希夫は会社での失敗が目立つ様になり、その度に「葉月」で酔いつぶれた。

双子の娘が登希夫に好意を持ち始めている事に気を揉む周囲。

 

従姉妹の麻衣子。子供の手が離れ、デザート作りを手伝う様になる。
双子の娘を欲望の対象にしようとしている、と登希夫に説教をする麻衣子。反発した登希夫は店のウェイトレス岡野優子に言い寄り、一夜を共にしてしまう。
店のウェイター鞍置秋人は岡野優子と将来を誓い合っていたが、登希夫が弄んだ事を知り激怒。

貴夫は弁護士の安曇に相談。身をすくめる登希夫。
若い2人の結婚費用を全額店が負担する事でその件を収めたが、岡野優子と鞍置秋人は店を去った。遠ざけられる登希夫。

 

ある日、安曇が連れを伴って来店。何とそれはあの土屋だった。

現在では証券会社の部長。災いの予感。
葉月衣料が倒産した。登希夫のせいだと言い張る祖母朋子がいるために、家に近づけない登希夫。
その後も葉月に足繁く通う土屋。
支配人の越野。登希夫が失意の日々を送っているという。

マネージャー見習いとして自分に預けてみないかと提案。
心を入れ替えて店の仕事を始める登希夫。

 

刈谷専務が店を訪れなくなって3ケ月。憔悴する前原都美子。見かねて桐生逸子が佐伯社長に事情を聞くと、佐伯もそれを知らなかった。
土屋はその後も定期的に店へ来たが、登希夫の存在を見つけて口説きにかかるそぶりを見せる。
佐伯社長からの報告。刈谷の妻が血液の癌になり、入退院を繰り返しているという。それを聞いて嫉妬心から開放される都美子。

 

橘翁の要望を受けて作った苺のリゾットを彼がインタビューで話した事で客が殺到し、店は更に多忙となった。
ある日酔って店に来た土屋。名物の苺のリゾットを注文。

だが「食えたものではない」と騒ぎ出す。

支配人の越野が出てなだめるが効果なし。

ますます図に乗る土屋。
登希夫が土屋に歩み寄り小声で悪態の限りをささやく。

逆上した土屋は登希夫の顔に拳を叩き込み、倒れた登希夫を更に殴り続ける。無抵抗の登希夫。
その後皆に取り押さえられた土屋は、貴夫の指示により特別室に連れて行かれる。貴夫の急報を受けて駆けつける安曇。弁護士の立場から土屋を締め上げ、今後二度と店に近づかない様に確約させる。

頬骨と肋骨まで折った登希夫は自分を犠牲にして土屋を追い払った。

 

刈谷専務の夫人が亡くなり、その後半年以上経って刈谷が店を訪れる。刈谷の胸に倒れ込む都美子。

 

男女の営みを敏感に感じていた瑠璃は貴夫に祖父母の家に行きたいと申し出る。瑠璃は11歳になっていた。夏子に相談する貴夫。

一緒に暮らせば出生の秘密も自然に知る機会もある。悲しむ夏子。
申し出を聞いて喜ぶ佐知子と満夫。

 

イタリア時代に志賀と交際していた作家のエミリオが成功して日本に来た。2人は家を買って暮らし始める。金杉と田中公子も結婚。
独り身となった刈谷は都美子と結婚。瑠璃は中学3年になっていた。

 

満夫たち家族が夕食を摂る時、瑠璃がその席に差し出したものがあった。母子手帳。
全てを話す時が来たと、満夫が今までの事を全て瑠璃に話した。
泣いて謝る佐知子に瑠璃は、お兄ちゃんが育てると言ってくれなかったら自分は存在しなかったと泣く。
全てを承知して貴夫、夏子に会う瑠璃。

これからもお父さん、お母さんと呼んでいいかと言う。抱き合う母子。

 

高校2年となった瑠璃。かつて踊りを教えた同級生たちから、また教えて欲しいと言われる。家元に願い出、名取試験と師範試験を受ける事を許される。

そのどちらの課題もみごとに舞い、資格を得て古賀瑠璃となった。
多くの費用を使って瑠璃の舞踊教室が始まった。

意外にも若い男の入門が多く、容赦ない指導を喜ぶ者もいた。

 

双子の片方、未知は結婚して離れていたが、離婚して「葉月」に戻って来た。失意の未知に対して同情した登希夫は彼女と接近していく。

今度は周囲もそれを許した。

 

最近体のあちこちをぶつける事が多くなった貴夫。祖父の猛夫が晩年、この様に痛がっていた事を思い出し、一抹の不安を感じた。大きな不幸が起きる予兆か。