「悪夢は三度見る」
日下圭介
これは彼の初期の長編。「折鶴は知った」「蝶たちは今」のように、二時間ドラマを見るような小説となっています。それだけにベタなのですが、読みやすい小説としては稀有かも知れません。
本書は、ある女性の自殺、ある上流家庭で起こった不可解な殺人が、やがて結びついて行くというもの。
人物相関が複雑で、話が行ったり来たりするのですが、物語の先が知りたいので、どんどん読み進めることが出来ます。
ただ、この作家の欠点は(彼は意識してしているのだろうが)、主人公と言える人が決定的にいないことで、読者は力点を置く人がいなくて宙ぶらりんになることです。この本では一応、上流家庭の二男ということなのでしょうが。
作者は1960年代のフランスのフィルムノアールを意識したと、ある本の解説にありましたが、そう考えると納得できます。
善人がおらず、ハッピーエンドではなく、犯罪が描かれる、アランドロンの映画のようなものを彼は想定していたのでしょう。
「灰色の手帳」
仁木悦子
ジュブナイル集。年齢が低い世代向けに書かれたものは読みにくい感がありますが、上の世代向けのものはおとなでも楽しめると思います。
エッセーでは作者のミステリー愛が語られて興味深い。
姉が寝たきりの作者にミステリ本をいつも貸してくれていたそうで、兄は勉強を教えてくれ、彼は本の登場人物にもなっています。
残念ながら姉は先に亡くなったそうで、兄は作者の葬儀の時にもいたとあとがきの人が語っていました。
江戸川乱歩も後押しをしてくれた人だそうです。
「もう書けない」と弱気なことを言うと、「あなたそんなに怠けものだったの?」と励ましたそうです。
「キリオン・スレイの生活と推理」
都筑道夫
再読:
大昔に読んだものです。キリオン・スレイというアメリカ人が日本でいろうそうをしながら、事件を解決するという連作短編。
大分以前に読んだものです。
ちょっとホームズを意識したような話。しかしキャラクターに魅力はありますが、トリックは、この作者にありがちなのですが、懲りすぎていて、複雑に成り過ぎてしまっている感があります。
もっとひねらないで素直にした方が良いと感じました。