懺悔します | 三白眼でしましょう。

三白眼でしましょう。

ササリンモームしょっぱいね

まだ若い終活アドバイザーにうながされ、渋々ながらメディアの整理に取りかかった。それが事の発端です。
 
古いハードディスクの中に携快なるファイルが並んでいました。
 
軽快を謳った携帯データのバックアップだと気づき、見なければよいものを、ノスタルジーに誘われて、フォルダを開くと案の定、リベンジポルノどころか、己の足を引っ張り、息の根を止められそうな写真や動画が山ほど出てきた。
 
顧客の特徴を(カッコ)内に記したメモリは悪魔の電話帳と呼ぶにふさわしい。
 
たとえば、アリサ(上野キャバ若干デブ)とか、エリ(彼氏闇金そこそこDBM)とか。どうしようもないぶすなのにマネーを落とす達人の略とは大きな声では言えません。
 
わけてもラ行は名前がかぶり、私のつけた雑感からして女狐っぷりが目に余る。レイナは三名、レミは五名、ロン子は一名、どなたでしょう。使い捨ての源氏名にしてもいかつい。
 
データは命と言えるホスト時代のお宝は、今や汚物でしかない。恥ずかしさのあまり、ひきつる視線が三枚の画像に留まった。当時、写メと呼んでいた携帯写真です。
 
もう時効でしょうから、思い切って打ち明けます。
 
昔々、新宿のあるところに犬が売っていました。
 
ペットショップではなく、いかにも怪しい何でも屋さん
 
そこは歌舞伎町の外れ、韓流ブームのおこぼれも及ばない一角とだけ申し上げておきます。
 
お金をくれても飼いたくない、それは実に日本らしい雑種でした。
 
小さな画像を貼りますが、なにぶんガラケー全盛期の話なので画質の粗さはご容赦ください。
 
 
 
光沢シールで一桁プライスダウンした痕跡が乱暴な値札に8000円とある。
 
沼で犬かきをして溺れても、そうはならない。
 
値札は売る気満々だが、雑種の彼からは買ってもらう気がいささかも見受けられず、おまけに惰眠をむさぼっていた。
 
どんな夢を見ているのやら、森脇健二より邪悪な寝顔を尻目に私は立ち去りました。
 
翌昼、シャンパン漬けのアフター帰りに白目が合った。
 
雑種の彼はまた牙と白目をむいてひっくり返っていたのです。
 
飼いたくないけど買おう。ここで動かないと後悔しそうな気がする――。
 
かなり酔っていた私に、そう決意させるだけの体たらくでした。
 
値札を見たら8に例の光沢シールが貼られ、1と書き殴られていました。
 
一夜にして七千円下がったということよりも、あられもない寝相でたった千円で売られる彼のことが不憫に思い、これください、私は申し出ました。
 
はげ頭のこぶボクロから毛が自生した店主と、このようなやり取りがあったと記憶しています。
 
「お兄さん、カード?」
いえ、現金で
「払えんの?」
ええ、まあ
「冗談はよせ、バッグを持ってないじゃないか」
千円ですよね
「は? よく見ろ。一千万」
また来ます
「中華ジョークだよ、すみやかに千円よこせ」
 
リードは二千円、首輪は三千百円でした。
 
「百円まけとく。もってけ泥棒!」
 
私は舌打ちをこらえました。起きたまま追い剥ぎに遭ったような感覚です。
 
表に出た途端、彼はすこぶる元気になりました。
 
よっぽど木箱の中が窮屈だったのでしょう。
 
手足の機能を確かめるように、尻尾を振ってやんやん飛び跳ねました。
 
そのはっちゃけ方を見て、ぱっちんと名付けました。
 
非常に活発でバカな旧友のあだ名です。
 
故郷の友を懐かしみ、やんちゃな犬との新生活を想像しながら、私は軽やかな足取りでマンション一階のスーパーに寄りました。ホクロ毛の虐待販売から救い、童心に返ったような心持ちだったと思う。
 
何でも屋さんで受け取る際、濡れタオルで軽く拭かれたぱっちんは、ひどく汚れていた。衛生面を気遣い、駐輪場のポールにリードをくくりつけたのが、私の落ち度と言えます。
 
スーパーで買い物を済ませると、ぱっちんがいません。
 
我が家が燃えるのを見た主婦のごとく、私はドッグフードの入った袋を落としました。
 
キモンくん1雨
呆然と立ち尽くし、あれこれ疑念が芽生え、はっはーんとなりました。
 
「これは犬詐欺だ。ホクロ毛の店主らしい原始的な売り逃がし。ぱっちんもグルに違いない。あの糞雑種め」
 
ええ、ことのほか酔っていました。そのうえ邪推が過ぎる糞ホストだったということもあります。
 
私はドッグフードを振り回して帰路につきました。
 
奇跡を目の当たりにしたのはあくる日です。
 
最寄りのコンビニでばったり再会しました。
 
彼はホクロ毛の元に帰ってなかったのです。
 
疑って、ごめん――
 
 
 
 
ぱっちん……うちに帰ろう
 
そう声をかけると
 
彼は常連のようなそぶりで店内に入っていきました。
 
 
 
 
レジから飛びのいた店員が後じさり
 
いつもふきげんな顔をさらにしかめ
 
自動ドアにへっぴり腰を擦りつける彼女をよそに、ぱっちんはずかずかと店の奥へ
 
ふけた店長のコンパクトな悲鳴が裏返り
 
「誰か、ひゃくとおばん!」
 
やんやん!
 
私は素知らぬ顔できびすを返しました。
 
告白は以上です。
 
orz
 
言い訳がましいですが
 
悪意はこれっぽっちもないので
 
動物愛護協会ならびに保健所の方
 
私を責めないでください
 
あれから二十年、ずいぶん悔やみました
 
忘れた日はありません
 
犬つながりで何ですが
 
デッドキャッツ&スネイルドッグを一週間
 
無償配布いたします
 
ぱっちんも登場するのでお見逃しなく
 
ブックウォーカーと楽天にて
 
 
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そこ、そこ、もれなく鬼門
 
まじキモンcity01