Kが「末永くよろしくお願いします」と、わたしの指に指輪はめた。
 
「その時々で考えます」と、答えた。
 
「いい子にしていてください」と、わたしがKの指に。
 
「その時々で考えます」と、答えた。
 
Kに渡した指輪は、わたしがお金を払った、出さなくていいって言ったけど、約束の指輪交換なら、それが筋でしょ。
 
同じ材質とデザインでも、わたしのほうは、側面にメレダイヤが埋まっている。
 
いわゆるスイートテンとは違い、側面のメレは珍しい。
 
表は艶消し、裏には互いへのメッセージを掘った、老眼鏡をかけても小さくて読めないよ。
 
がんでなければ、無条件に喜べるイベントのはずだ。
 
刻印された「ETERNAL」に胸が苦しくなる。
 
告知から今までで、死にたくないと、初めて思った。
 
 

 
 
 
追記
 
正直なことを言うと、治るんだったら、がん経験は、ないよりあったほうがいい、くらいのことを、わたしは思っているの。
 
がんになって得られたことは、これまでの人生で学びえたことと、同じ質量ある。
 
あくまで、治るんだったら、の話よ、後遺症もさほどなくて。
 
まぁ、そうじゃないから、命というものを実感できるわけだけど。
 
一番大きいのは、人生の断捨離。
 
がんじゃなかったら、いつまでも、しがらんで終わっていたと思う。
 
いま、嫌なこと、なんにもしてないもんね。