自死の保険請求 | 救急医の戯言

救急医の戯言

元呼吸器内科医であった救命医が、患者として2回手術を受けたこと、最近の医療について思うことを思いつくまま書いてみました。

 ある生命保険会社から、ある死亡患者さんに関する照会の書類が来た。だいぶ前のことで当時の担当医は退職して居ない。

 この患者さんは、トラックに轢かれて多発外傷で意識不明の状態で運ばれ、翌日亡くなっている。

 カルテ上にはどうやら自分で走行中のトラックに飛び込んだようだ。

 精神科の通院歴もあり、事故前に奥さんに自殺をほのめかす言葉もあったらしい。

で、照会内容は事故と精神疾患との関連を問うものであった。

 そもそも、御本人は意識不明で搬送され、事故の状況も自分で飛び込んだらしいとか、奥さんによると、大分悩んでいたらしいとか、〇〇病院に通院歴があるらしい、といった伝聞の情報しかない。

 この事を知りたければ、当時通院していた精神病院に問い合わせればよいのに、と思ったが、恐らくは、保険会社としてはこの事故の治療を担当した病院の見解が必要なのだろう。

 結局、そもそもいかなる精神疾患に罹患していたかもわからないこと、自分で飛び込んだかどうかは目撃情報と、奥さんのインタビューからの推測に過ぎないことを記しておいた。

 

 恐らくは自殺企図で走行中のトラックに飛び込んではねられてなくなったというのが真相だと思うが、生命保険に加入していてご家族が保険金の支払いを請求したのだろう。

 

 そもそも、自殺に関して保険金は支払われるのか?一般的にはNoだ。保険会社には支払い義務はないらしい。

 

 で、トラック運転手はこの死亡事故について責任を問われるのか?答えはYesだ。

前方不注意による過失運転致死に問われる。なんと前科がついてしまうのだ。

では、賠償はどうなるのか?

 民事的には被告であるが、原告にもなりうる。

 難しい判断になりそうではあるが、トラックの運転手側からすれば、損害賠償を請求されたら断固拒否すると同時に、この件に巻き込まれた精神的苦痛に関して逆に賠償請求を求めることもできる。結果どうなるかは、、知らない。

 

 電車に飛び込んだ場合は、飛び込んだ方の遺族は、運送会社からとんでもない額の損害賠償を請求されるが、、、、

 

 照会に対する返答の文章を書きながら、このようなことを考えていた。