PICU | 救急医の戯言

救急医の戯言

元呼吸器内科医であった救命医が、患者として2回手術を受けたこと、最近の医療について思うことを思いつくまま書いてみました。

 土曜日の午後から夕方は、地域の診療所の業務が終わった後の時間帯でもあり、救急外来は多忙を極める。

重症、軽症問わずだ。

 そんな中、小さな幼児を抱きかかえたお母さんと、お父さんが診察室に飛び込んできた。余程慌てていたのか、受付も無視して入室したようだ。看護師によると、2段ベッドの上から仰向けに落ちたらしい。メソメソ泣いているが、ぐったりしている。元気の良い子なら大泣きしているが、嘔吐も2回あり、まずい感じだ。

 まずは緊急CTを行った。

 やはり、頭蓋骨骨折、脳挫傷がある。ただ、緊急で開頭手術を要するような状態ではなさそう。大人であれば、早速当院に入院して経過観察というコースを取るべきケースだ。

 が、骨折線も多く、しかも幼児。百戦錬磨の当院脳神経外科も子供の外傷は全く別に考えるようだ。小児病院に搬送すべきだ、との結論となった。

 幸い、当院からそう離れていない場所にPICUを備えている小児専門の病院がある。県に一つだけある重症小児疾患治療の最後の砦だ。そういえば、1年ほど前にドラマでもやってたっけ。

 すでに真夜中であったが、PICUに電話をしたところ状況をすぐ飲み込んでいただけたようだった。細かい患者情報をあれこれ聞かれたあと、これから迎えに行きます、とのお返事。

1時間後にはPICU専門のドクターカーが横付けされた。

 医師1名、看護師2名で来訪し、意識レベルが思ったほど悪くないことに安堵し、お預かりしますね、と言ってドクターカーで去っていった。

 まあ、たったこれだけの出来事であるが、地域にPICUがあるというのは本当にありがたいこと。首都圏、近畿圏にはPICUは多数あり、合わせると全国に30箇所程度になるが、実は、地方にはPICUを有する病院はほとんどないのだ。小児の集中治療を専門とする医療機関がこれほど乏しいことに驚かされた。