夜中の救急あるある | 救急医の戯言

救急医の戯言

元呼吸器内科医であった救命医が、患者として2回手術を受けたこと、最近の医療について思うことを思いつくまま書いてみました。

 真夜中の救急外来には、時にとんでもない急患が訪れる。

午前3時、ホットラインが鳴った。

ウイークリーマンションの住人で23才。自宅のオートロックが解錠できなくなり、なんと廊下側入り口の窓を素手で叩き壊して中に入ろうと試みたが、二重ガラスが割れるべくもなく、自分の手の甲をザックり切って救急要請したとのこと。自宅内にスマホも置きっぱなしなので、友人や知人とも連絡取れず、ということであった。別に酔っているわけでもない。

小銭すら持っていないので、帰宅する手段もないらしい。

 

ということが、ホットラインでの情報で知り得た事柄。傷自体は大したことはないようだ。

 

では、どうやって119通報したのか?あとから疑問に思ったが、まあどうでもいいか。

 

真夜中の救急患者さんで、タクシー代わりに救急車を利用する人は、案外帰宅手段がなく、来院してからトラブルを起こし、挙げ句逆ギレして病院に苦情メールなど送り付けたりすることが多いのだ。そういう背景もあるので、救急隊には、搬送はいいけれど、傷の処置が終わったら、帰る方法は自分で賄うよう伝えてください。それが搬送の条件です、と申し上げる。

 

考えてみると、意地悪な医者だ。が、これも自衛手段。

 

さて、救急車到着してみると、やはり、大した傷ではない。僕が飼い犬に噛まれた傷より余程軽い。と、悪態をつくわけにも行かないので、傷はきれいに洗い、丁寧に縫合した。

 

連れてきた救急隊の隊長は、搬送中ウィークリーマンションの管理部の電話相談口に連絡し、オートロック解除の段取りも調べてあげたようだ。

更には、もし変える方法がなければ、おじさんに連絡するように、と電話番号のメモを渡していた。(迎えにでも来るつもりか?)

公的な電話か、私的な電話かは知らないが、業務範囲を超えている事は事実だ。

とはいえ、その親切さは意地の悪い私からすれば、穴に入りたいようなもので、どんなに疲れていてもかくありたいもの、と思わされた。

 

が、次に同じような案件があっても、私は同じような対応をするだろう。