死んじゃいますよ | 救急医の戯言

救急医の戯言

元呼吸器内科医であった救命医が、患者として2回手術を受けたこと、最近の医療について思うことを思いつくまま書いてみました。

 

 頭頸部の癌の発症を知らずに、随分進行した段階である日咽頭部に出血した患者さんが救急搬送された。口腔内や、咽頭、喉頭の出血は量が多いと窒息の原因になるので大変緊張する。この方は、午前3時に救急搬送された。自宅では100ml程度の出血があったそうだ。

来院時は落ち着いていた。とりあえずCTを撮ってみたら、喉の半分以上を占める腫瘤が気道を圧迫している。出血した時にうまく挿管できるか?難しそうだ。緊急で気管の切開が必要になることもありますよ、と奥さんにだけお話し、とりあえず内視鏡で覗いてみた。

 やはり咽頭部は狭く、一部粘膜に潰瘍ができていて、だらだら出血していた。エピネフリン入の麻酔剤を散布したら、とりあえずの出血は止まったので少し安心し、血液を吸引して局所を撮影し、耳鼻科医を呼んだ。

 潰瘍から出血している多分悪性腫瘍なので、早めの気道の確保と治療方針を決定する必要があったため、早朝であったがご足労頂いた。

 30歳代前半の耳鼻科の先生はカルテと患者さんを見るなり、とりあえず気管切開をし、大出血が起こった時に救命することを優先することがまず必要、という判斷。

 この際、患者さんと、奥さんに、喉の下に穴を開けて、出血した時に備えないといけません。そうしないと血液が肺に詰まって、もっと悲惨な死に方をしますので。と説明されていた。

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 油が乗り始めた若手の医師は、最近死にます、という言葉を安易に使う傾向があるような気がする。(最近の若いものは、という言い方でこれも良くないかも知れないが)

 

 先日、急性大動脈解離で搬送された患者さんの処置中に現れた循環器内科の若手医師は、

「いやあ、この病気は半分のひとは死にますからね。とにかく心臓や血管の病気の中で一番致死率高いですから」、と患者さんに向かっていい含めているのか、自分を鼓舞しているのか、とにかくテンションが高い。せっかく降圧しているのに、びっくりした患者さんの血圧が上がるじゃないか。

 

 医療過誤とそれにまつわる訴訟が増えてきたことにより、『大丈夫です』という言葉がけをすることがタブーになっていると勘違いしている医師や看護師が増えているような気がする。

 確かに、大丈夫ですよ、と言ったのに、想定外に重症化してしまったり、亡くなってしまうケースはある。

 だからといって本人に直接『死にます』を連発しなくてもいいのではないか?

 ご家族には、状態が厳しい、あるいは重大な合併症が推定される場合にはそっと別室でそのことを告げればよろしい。ボイスメモを残しておいてもいいだろう。