星図クラブと最後の転校生 | テツになる勇気。

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0|そして誰も、彼女を知らない。

4月30日、昼休み。

私たちは“彼女”の存在を誰も覚えていなかった。

出席番号17番、白井カスミ。
転校生。
学級委員長。
全校集会の司会。
文化祭の演劇の主演。

なのに──クラスメイトの誰ひとりとして、その名を口にしない。

まるで、いなかったみたいに。

でも私は知っている。
彼女は「星図クラブ」のリーダーだった。


 

1|この世界は、いつも見えない誰かが決めている

放課後の教室。
誰もいなくなった廊下の向こう、3年B組の一番奥のロッカーを開けると、そこに“それ”はある。

銀色のコンパス。黒いマップケース。謎の六桁の暗号。そして、宙に浮かぶ立体投影の「星図」。

「ようこそ、星図クラブへ。あなたの星座は、どちらですか?」

私はその質問に、ちゃんと答えられなかった。


 

2|星図クラブとは、世界を決めるクラブである。

クラブ名だけなら、ただの天文系だと思うだろう。
でも「星図クラブ」はちがった。

この学校には“不可視の生徒会”がいる。

名前も顔も公開されない。
でも全校のカリキュラム、部活動予算、文化祭の演目まで、すべて“彼ら”が決めていた。

──そして星図クラブは、その“影の生徒会”の中枢だった。

「なんで私を入れたの?」

と聞いたとき、カスミは言った。

「あなた、見えない“軌道”を感じられるでしょ?」

意味がわからなかった。でも不思議と否定できなかった。


 

3|宇宙とクラスと、心の重力場

私たちの中学には、見えない“軌道”がある。

誰が人気か、誰が孤立しているか、誰が地味か、誰が支配しているか。

それはまるで、太陽を中心に惑星がまわるように、
誰かを中心にクラスが回っている。

一見キラキラしているあの子は、実は恐怖で友達をつないでいて。
地味で目立たないあの子は、じつはクラスの情報屋だったりする。

その「重力図」が、星図クラブには記録されていた。

人の心は光じゃなく、質量で動くんだってことを、カスミは教えてくれた。


 

4|カスミの正体

5月14日、放課後。
星図クラブの部室で、私は“それ”を見てしまった。

──カスミの軌道が、地球から外れていた。

「おかしいの、わかる? 私、この星の人間じゃないの」

あまりに静かに言うので、笑っていいのかわからなかった。

「もっと正確に言えば、私は“この世界に干渉できる存在”だけど、“存在しちゃいけない”存在なの」

彼女は、1年に1人しか選ばれない“外宇宙観測使節”。
この星の「感情重力場」を記録して、別の世界に報告する存在。

「でも私、記録じゃ足りなくなったの。……願いが、できてしまったの」

──願い?

「このクラスの誰か、ひとりだけの願いを叶えて、消える」

それが、任務の最後の報酬なんだと。

「じゃあ、誰の願いを叶えるの?」

カスミは、私の顔をまっすぐ見て言った。

「それは、あなたが決めて」


 

5|選ばれたのは、私

その夜、私の頭から「誰の願いを叶えるか」が離れなかった。

教室の支配者・市ノ瀬ユキは表向き完璧だけど、いつも爪を噛んでる。
いじられキャラの秋山ハルは家で暴力を受けていた。
眼鏡の如月レンは親の期待で押しつぶされそうだった。

みんな、何かしらの“闇”を抱えていた。
キラキラして見えるその裏側に、絶対に見せない影があった。

でも──

私は最後に、自分の願いを選んでしまった。

「私、あのとき妹を守れなかった。……だから、もう一度だけ“時間”を戻したい」

カスミは、うっすら笑った。

「あなたの軌道は、ずっと“交差点”だった」

そう言って、彼女は光に包まれて──消えた。


 

6|そして誰も、彼女を知らない。

次の日、教室からカスミの記録がすべて消えていた。
出席簿にも、ロッカーにも、机にも名前はない。

でも私は、知っている。

4月のある日、転校してきた少女がいて、
私たちの世界を、少しだけ“正しい方向”へ導いてくれたことを。

窓の外を見ると、今夜の空には一際明るい“金色の星”があった。

それは、あの日カスミが指差した星座。

──わたしの星座は、「矢」。

願いを放った瞬間、すべてが変わった。