それはそれとして。
機関車。
ノーマルな鉄道ユーザーにはあまり縁のない車両かもしれません。
通勤電車を利用してると、時々ゴォーーっと低くうなって通過する貨物列車にビビるくらい。え、なに今の音?ってスマホの手が止まる、あの瞬間です。
でも、それが機関車です。しかも、今日話すのはその中でも成人鉄道ファン専用マシーン、EF81形のお話。
もうね、これに手を出したら戻れません。そう、鉄としては成人です。
■ 乗るのは高く、見るのは厳しく、買うのは沼。これが、機関車。
まず「乗るのは高く」──
ええ、いま機関車が引っ張る旅客列車なんて四季島とか、クルーズトレイン系。高級すぎて「乗る」じゃなくて「泊まる」みたいなノリ。
庶民が機関車牽引列車に乗れる時代は、もう終わったのか…?と一度は嘆いたものです。
次に「見るのは厳しく」──
新幹線みたいに駅ビルのガーデンから「あっ来たー!」ってパシャパシャできる代物じゃありません。
機関車を狙うには、時刻表だけでなく、「鉄仲間LINE」「ダイヤ改正の研究」「運用追跡アプリ」など、情報戦に身を投じる必要があります。
これはもはや、戦(いくさ)です。
そして最後が「買うのは沼」──
Nゲージ、そう、鉄道模型の深淵にして最大の落とし穴です。
新幹線を一編成買って満足していた初心者が、貨物機関車に手を出した途端に、「あれ?このコンテナも欲しい」「あ、このタンク車、赤いのとグレーの違いも揃えたい」といって、次々に車両が増殖。
連結して並べて、気が付いたら机の上がまるで東京貨物ターミナル駅。まさに「シロウトはすっこんどれ」案件。
この「機関車依存」、あまりに危険なので、某年には「ギャンブル等依存症対策基本法」と並んで「機関車依存症対策法」も審議されるとかされないとか…(されません)
え?なに?ちょっと鉄以外には伝わらない?なら「おでんの具」で考えいっ!
おでんの具を買うのに、「あ、はんぺんいれなきゃ」「大根はマストだよね」「こんにゃく忘れないように」とホイホイ選んでいって、いつのまにやら鍋に入りきらない位に買ってしまった経験のあるアナタはもう十分素質アリ。
悪いこと言わないから、機関車は「買うな」どんとばーいっ
■ 朱色の大人:EF81形は交直流を超えた「調和の象徴」だった
さて、その魔性の機関車の中でも異彩を放っていたのが、1968年に登場したEF81形。
この子がすごいのは、直流、交流50Hz、交流60Hzのすべてに対応できたこと。まさにマルチボルテージ系男子。
このスペックが求められたのが、「日本海縦貫線」。大阪〜新潟〜青森を結ぶこのルートは、まさに電化方式のバラバラ市。
その混沌を涼しい顔して駆け抜けるのがEF81。朱色の車体で“3電化対応型”って、もう厨二設定が過ぎる。
初期型のローズピンク、ステンレスボディの銀色300番台、角目の450番台など、バリエーションも豊富で、それぞれがまた刺さるんですよ。
特に私が推したいのは、関門トンネル用の銀色ステンレス車。なんで銀色かって?
トンネルに染み込んだ海水でサビるから。それを避けるためのステンレス。機関車なのに、潮風との戦いに備えるとか、もうカッコよさが海を渡ってる。
■ そして今、EF81は去りゆく
EF81形は、1990年代まで長く活躍し、寝台特急「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」など、名列車を牽引してきました。
でも、その運用は次々と終了。2025年3月、最後まで定期運用のあったJR貨物・九州地区でもその姿を消しました。
現存は、JR東日本とJR貨物に数両を残すのみ。しかももう「定期」ではなく「臨時」や「回送」が主。
それも後継のE493系やEF510の導入が完了しつつあり、カシオペア運行終了の噂もある。
これはつまり、朱色の大人、ついに“社会的引退”間近なのかもしれません。
■ 最後に:あなたも、あの日見た朱色の機関車を、覚えているか
常磐線沿線で育った私は、朱色のEF81がゴォーーっと走るのを見て育ちました。
子供の頃は、それが「大人の世界の象徴」だなんて思ってなかった。
けれど今、あの頃よりほんの少しだけ大人になった私は、EF81にこう言いたい。
「ありがとう。君のおかげで、“大人鉄”になれました。」