日本戦後史論日本戦後史論
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S政治哲学の世界では、「愛国主義」や「愛国心」と訳されるには二つのものがあると言われてきた。ひとつは アトリオティズム もうひとつはナショナリズム。

前者は、民衆の生活から自然に湧き上がる郷土愛が拡大したもの

後者は、国家のエリートが作為的に作り出し、民衆に押し付けるもの

だが、実際を区別するのは簡単ではない

 

S20世紀前半の二つの世界大戦では、人々が熱狂的な愛国心に駆り立てられることで未曾有の規模で殺戮が行われたため、愛国主義が危険視されてきた

 

S若い世代の眼には「日本は主権国家ではない」という認識が当たり前のものとして見えてきており、その世代から戦後史を見直す動きが出てくるのは当然

 

U日本では敗戦経験を正面から総括する事業ができなかった。敗戦を「なかったもの」にしても現に「あるもの」はそこにあり続けており、アメリカの従属国でありながら、主権国家のようにふるまっている自己欺瞞から抜け出せないでいる

 

U戦勝国フランスでも、対独協力したヴィシ―政府についての歴史学的研究が始まるまでには戦後40年という歳月が必要だった

 

U安倍政権誕生以来、戦争責任や敗戦責任をめぐる政治的言説の質はますます劣化している

 

S東日本大震災の原発事故により、少し運が悪かったなら東日本が壊滅していたかも知れない

 

U親米路線・日米同盟基軸しかない、と言う人たちはそれ以外のオプションについて考えること自体を抑圧している

 

U日本のどういう虚偽や欺瞞の上に、何を隠蔽することによって現在の表層的な安定状態が成り立っているのかを見なければならない

 

Uどこでも敗戦国のナショナリズムはねじくれたものになってしまう。それは戦争を始めて、さまざまな戦争犯罪を犯し、負けたときの国のかたちを肯定することに心理的抵抗が働くから

 

U戦後の日本人はついにナショナリズムを徹底できなかった。左翼はナショナリスティックに見られることに神経症的に忌避してきたし、右翼は中韓に排外主義的に振る舞うけれど、アメリカにはおもねるダブルスタンダードを採用しているから

 

U外国の軍隊が国内に永続駐留している事態を右翼が別に恥と思っていないことは日本以外の国では理解不能。本来なら右翼が反米・反基地闘争の先頭に立っているはず

 

U敗戦国のナショナリストが敗戦後に最初に言うことは「次は勝つ」、日本なら「アメリカに勝つ」こと。「次に勝つ」には「なぜ負けたのか」を徹底的に精査しなければならない

 

S日米同盟以外の外交戦略について考えられないのは日本の政治学者だけ。選択的に歯垢が停止している

 

U日本は徹底的に負けたからナショナリストがいない

 

U台湾は「次は中国に勝つ」というマインドを手放してはいない。これが主権国家のかたち

 

U日米同盟は、それ以外ありえないと言い募っている人たちが仕方なく選択したものであって、主体的に選び取られたものではないということから眼を逸らしている

 

U世界中の国が日本はアメリカの属国だと思っていて、日本だけが自分は主権国家だと思っている。そのような奇妙なことになったのは、すべて70年前の敗戦の総括ができていないことに起因する

 

S負けた原因をきちんと精査できなかった第一の原因は、戦前から連続する支配層が責任追及されることから逃れた、すなわち冷戦構造の中でアメリカ陣営に付いたことによる

 

U韓国軍はアメリカに対して不快感を持っている。でも軍略的には米韓両国にとって同盟関係は相対的によりましなものだから採択されている。これが主権国家のふつうの態度

 

U戦後日本の国家戦略は「対米従属を通じて対米自立を果たす」という大変にトリッキーなものだった。これは「のれん分け戦略」

 

S戦死者300万人のうち、200万人は最後の1年(1945)で死んでいる。国体護持は、支配層の自己保身だった。自己保身のために若者を中心に見殺しをした

 

U靖国神社は、A級戦犯の合祀の問題もあるがもっと深い問題は、靖国神社が戊辰戦争の官軍の死者を祀るためのものであって、賊軍の兵士たちの鎮魂のためではないということ。

政治的戦争の陣営の死者だけを祀り、敗者を朽ちるに任せたのは日本の宗教的伝統からの逸脱

 

U最近の日本は右傾化したと言われるが、むしろ「シンガーポール化」と呼びたい。シンガポールは経済成長が国是の東日本で最も成功した資本主義国家であり、建国以来の一党独裁国家。シンガポールをモデルにして日本の制度も全部作り変えればいいと思っている人たちが現在の安倍政権の熱烈な支持層を形成している。金儲けだけに特化した社会の仕組みにしてほしいので民主主義は邪魔なだけ

 

S今の政治で目に付く傾向は右傾化と新自由主義であり、新自由主義がより優越した要素

 

Sこの国は何も提示てきていないので、近視眼的に効率効率と喚いている

 

U民主制は効率的に金儲けをする上で邪魔になり、民主制は物事の決定を遅らせるための仕組み、それこそが民主制の取り柄であるのだがもう現代日本では少数派

 

Sイデオロギーは信じていないがイデオロギーは絶対に必要

 

U仙谷由人は森喜朗と山崎拓を評価した。理由は「いいやつ」。食えない親父たちは懐が深い

 

S55年体制は談合政治だったが、今の体たらくを見るといい政治だったかも

 

Sソ連はオリンピックをして10年で国がなくなった。東京オリンピックは1940年開催すらできなくて、5年後に国がつぶれた。2020年の東京オリンピックは大丈夫か?

 

S安倍さんが何を考えているのか不思議。オリンピックを無事に終わらせるためには2020年まで対中国、対ロシアの領土問題を先鋭化させるという政治的な選択肢はない

 

U岸信介・佐藤栄作・安倍晋三とこのラインは長州閥が続いている。血族のトラウマがそのままになっている。近代日本のトラウマは維新から150年経ってもいまだに主題化されないし、言語化されない。その精神史の中で現代日本の政治家たちは政治的決定を下している

 

S永続敗戦レジュームを片づけてしまわないとどうしようもないが、どうやって片付けたらいいかというアイデアがなかなか出せない

 

S日本人の対中戦争認識では、第二次大戦では中国に負けたわけではない、という思い込みがある。日本は中国に勝ちきれなかったと。でもこれは非常に危険な歴史認識。アジア唯一の一等国という地位は揺らいでいないことになる。その構図を変更しようとする相手に対しては不愉快だということになる

 

U戦後世代は戦争に関してはまったく責任がない、という言葉を先行世代から繰り返し告げられてきた。それから隣国から戦争責任をどう取るか迫られてびっくりした。戦中派が戦争について語らないまま鬼籍に入ってしまったことの否定的な帰結のひとつ

 

S加害経験についてきちんと語った人たちはほんとうに少ない。大衆に拡散する語りにならなかった。それだから空襲や原爆体験など被害者意識の方が優越してしまう

 

U私たちの世代の仕事は、先代世代が封印して、埋葬した過去を掘り起して、成仏してもらうよう儀礼をするつらい仕事だがするしかない

 

S震災以降、この国の社会、国家のあり方がはっきり違ってきた。覆い隠していたものが、覆い隠せなくなってしまった。戦後日本が覆い隠してきたものが永続敗戦レジュームと呼ぶべき体制

 

S永続敗戦論の内容について

・1945年の敗戦を戦後日本は「敗戦の否認」という形でごまかしてきた

・冷戦構造が形成されアメリカは日本を自由主義陣営に留めておく強い要請があった。そのためアメリカは元ファシストに日本を統治させる方がまし、として戦前の保守勢力に戦後日本を統治させた

・戦後日本の民主国家は虚構。日本を敗戦に導いた連中がそのまま留まり、その後継者たちがずっと権力の座にとどまって現在まで続いている

・日本の保守政治勢力はアメリカの許しの下で権力の座に留まったため、対米従属と呼ばれる構造が戦後定着した。日本はアメリカに永遠に負け続ける

・国内向けに対米従属をごまかすために、アジア諸国に対する敗戦をごまかした。これが可能だったのは冷戦構造

・永続敗戦構造は1990年前後の冷戦終了で賞味期限が尽きた。アメリカは日本をアジアでの最重要パートナーとして位置づける必要がなくなったこと、中国韓国の成長もある。にもかからわず永続敗戦レジュームが続いている

 

U対米従属と対米自立は「のれん分け戦略」として矛盾しない。豊臣秀吉の例

 

S対米従属はけしからん自立すべき、と言っているわけではない。対米従属をのものを批判しても仕方がない。右翼観念や反米主義は荒い議論でかえって危険

 

S55年体制はCIAから金をもらって結成された自民党であり、アメリカの傀儡。社会党はソ連のエージェント。だがこんな構造だからこそ国家主権や相対的な自立性が確保された

 

S自民党は、社会党の反対・また平和憲法への支持を盾や言い訳にしてアメリカの要求を拒否してきた例もあった

 

S冷戦構造がなくなった後も、対米従属が続くどころか完全な属国に

 

S軍部の独走に至る昭和前期の政治的混乱は、「天皇の意思」というブラックボックスをでっち上げて既成事実を作り、臣下が好き勝手なことをしてきた構造。戦後は天皇が占めていた地位にワシントンが入ってくる

 

U市や市教委は政治的中立に配慮しているわけではなく、現政権に配慮しているだけ

 

Uさまざまな毒のある情報が並存することで、毒性が中和される

 

S安倍さんが言う「戦後レジュームからの脱却」は永続敗戦レジュームと同じで永続敗戦レジュームをより純化するもの

 

U戦後レジュームからの脱却、路線はどこか破局願望によって駆動されている

 

S日本国民の安全を本気で守りたいと思っているなら国際的緊張を高めるような政策をするはずがない。本当にやりたいのはアメリカのやる戦争に付いて行って自衛隊員の犠牲者が出る既成事実をつくること

 

Uアメリカ人が、独立宣言や人権宣言に始まる近代市民社会の理想を明文化して与えたのが日本国憲法。これを否定することは、アメリカの理想の根幹を否定することになる

 

U集団的自衛権は、アメリカの世界戦略に追随して、軍事的に側面支援するという目的のための解釈改憲

 

U私たちは自発的にアメリカに隷従しているのだ、対米従属は自由意思に基づくふるまいなのだこれが主権国家日本にとっての主体性の発露なのだという倒錯したロジックが生まれた

 

U保守政治家への共感は、「アメリカの寝首を掻くために、アメリカに添い寝している」感じが日本人に無言のうちに伝わるか部分が共感されているのではないあk

 

S佐藤健志氏は「日本人は敗戦をちゃんと受け入れていない。歴史のつじつまが合わなくなっていることで日本人のアイデンティディが分裂している」

 

Uすべての国は国の正当性について何らかの作り話をしている

 

Uフランスは第三共和政の正統な後継政権であるヴィシー政権が対独協力して、事実上枢軸国であったという事実を否認している。フランスは日本軍と植民地共同統治協定を結び、ユダヤ人をアウシュヴィッツに送り込んでいた。フランスは第二次大戦の敗戦国。パリを解放したのはシャルルドゴールの一交戦団体だった

 

Uイタリアはムッソリーニ失脚後、連合国とひそかに講和条約を結び、ドイツの傀儡政権であるイタリア社会共和国と内戦を戦って、これを破っている。イタリア王国は終戦時に戦勝国を名乗り権利があった。フランスのドゴールとイタリアのピエトロバドリオ将軍の差

 

Uドイツはナチスの戦争犯罪人をニュルンベルグ裁判で「一般ドイツ人はナチス独裁の犠牲者だった」という物語を何とか基礎づけた。日本の戦争の名目上の最高責任者は大元帥だった天皇だった。が、天皇追訴が日本人を憤激させることを考えるとその選択肢はあり得ないものだった。だから日本は日本独自のしかたで「敗戦の否認」を行った

 

U日本はある段階から、対米従属戦略そのものが自己目的化してきてしまって、それがアメリカから日本の国益にかなう譲歩を引き出すための戦術的迂回であったことを忘れてしまっている

 

S戦前の天皇制が戦後は国際化して、天皇の位置がアメリカにとって代わられたというのが私の持論

 

U中曽根首相(当時)が85年から靖国神社の公式参拝を取りやめたのは、親日派の胡耀邦の立場が悪くなることに配慮したためであると本人が書いている

 

U日本では70年代80年代を通じて、中国とアメリカにいい顔をして、その勢力均衡を利用して国際社会の中でのプレゼンスを高めていく戦略は自民党田中派を中心にしてかなりの支持者がいた。最終的にアメリカ派が勝利して、日本の指導者の中における親中派の勢いは減殺されてしまう

 

U韓国社会の反日機運の存在が見えない。おそらく日本のメディアがある種の特殊な政治運動だけを選び出して選択的に報道しているのではないか。日本社会と韓国社会の問題は多くを共有しており共生を欲している

 

U個人的には旧植民地民に対して旧宗主国民は「収奪してすみません」と言うべきと思っている

 

S日本国民の感覚がヨーロッパ大陸の国々と違うのは、四方を海に囲まれているから攻め込んだり攻め込まれたりする歴史的経験が少ないこと。これは幸福な事だが、戦争のあとの和解への経験があまりに少ない

 

S日本が戦争に負けたときと、世界的に植民地主義の時代が終わった時が重なったのでどうして日本だけが、という不満が出てくることになった

 

S人口が多い国は重症視せざるを得ない

 

U日本はアメリカにとってパートナーであると同時にリスク要因でもあった。日本が衰退してきてリスクではなくなり、パートナーとしてもたいしたことのない存在になった

 

S現場を知らない連中に限ってタカ派的な言動をする

 

S「積極的平和主義」とは「積極的安全保障政策」ということ。「平和主義」とは「安全保障政策」。「積極的」という言葉づかいはこれまでの日本の安全保障政策が「消極的」だったということを示唆している

 

消極的な安全保障政策は、憲法9条がこの方針のシンボル。できるだけ戦争から身を遠ざけることで国家の安全を保つ

 

積極的な安全保障政策は、積極的に敵を名指しして、その敵を攻撃したり無力化したりすることによって安全を保つ。代表はアメリカ。アメリカの軍隊の動きに自衛隊の活動を一体化させることが「積極的平和主義」

 

S日本国民のほとんどが脱原発派。でも国家があやゆる反対意見を踏み潰して推進してきた政策なのでこれを転換させることはとてつもなく大変

 

U誰が望んだものでもないもの、が最終的に帰結するのが民主制

 

U安倍さんは、「対米従属」のポーズをひとつすると、その後に「アメリカの嫌がること」をひとつする。安倍さんは対米従属とアメリカが嫌がることをする権利がバーター交換されている

 

U属国的状況からの離脱という政治目的だけに限定すれば、日本がアメリカの51番目の州になるというのが一番効率的なソリューション。唯一の問題は天皇制。

 

S慰安婦問題報道をめぐる朝日新聞たたきでは、あたかも慰安婦問題がなかったかのように、さらに日本の侵略行為そのものがなかったかのように言いつのる勢力が活気づけられた。これは歴史修正主義

 

U戦争犯罪について史料が残ってないケースが多いのは当然。日本もドイツもフランスも戦局が悪化してくると、戦時国際法を犯していた事例を組織的に隠滅した。生身の証人が死んで文書がない時点になって歴史修正主義者が登場してきた

 

Uフランスはナチスに加担して、敗戦国として終戦を迎えるところ、ドゴールの力業で手の白い戦勝国として戦後国際社会に登場しようとした過程でさまざまな隠蔽工作をした。これらがフランスの「敗戦の否認」につながっている

 

S極右イデオロギーというのは、語りにくい語れない部分の抑圧から生じてくる

 

U占領期の時期のことを調べていたのは江藤淳。占領期に占領軍と通じた人間たちが、その後の日本政府の中枢を占めている。自民党のある部分は敗戦時に軍隊の物資を私物化したフィクサーとCIAとの合作。当時の関係者の末裔たちが政権中枢に居座っている

 

SCIAの資料は自動的に何年か経てば公開していくはずだが、岸ファイルについては例外扱いで、公開されていない。日米関係の根幹を揺るがしかねないという判断では?