![]() | ヤクザと日本―近代の無頼 (ちくま新書) 842円 Amazon |
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日本の歴史に深く入り込んでいたヤクザの地域的・経済的・政治的・社会的役割を歴史的にわかりやすく取りあげた本。
ヤクザは社会の「絶対悪」として、国の法律のターゲットとして徹底的にマークされ、壊滅されかかっているようにも見えます。それに異論はありませんが、ヤクザと歴史と社会と権力の変遷や位置づけを考えてみると、ヤクザ(現代はヤクザもどきか?)を生み出す社会構造もさることながら、「本当の悪」な何なのかを考えさせられます。
私は、「本当の悪」とは、結局はヤクザを利用してきた「政官業電米」という日本を支配している権力ではないか、という結論に達するのです。これらは戦後復興と高度成長の立役者ですが、今世紀のベストな構造かどうかは疑問です。権力を悪と規定してすべてを否定することは非現実的ではありますが、この根は裏社会以上に深いことには違いありません。
読書メモ↓
・無法者ー特定の社会の反逆者と同時に寄生者
・近世ヤクザの流れの源に位置するのは「カブキ者」
・カブキ者は権力によっていったん根絶やしに
・江戸初期は町奴という集団が登場
・町奴は、武士のやりかたをまねしながらそのやりかたで町人自治を守る。ヤクザは時として反権力であり、時として権力
・任侠道も武士道に対する模倣と反抗からつくりあげられた
・ヤクザは近代都市から生まれてくる。明治期に産業化を進めたことにより新しい産業都市が成立し新しい型のヤクザが成立してくる
・日清日露戦争から、軍艦に燃料や物資を積み込む仲仕の組織が発達し、その請負からヤクザ組織が生まれていった
・港湾労働組織だけでなく炭鉱鉱山の周辺の労働組織と関連したヤクザ組織が発生成長していった
・近代ヤクザの特質
①近代社会に新たに形成された最底辺層から這い上がってくる男たちによって形成された
②近代ヤクザは同職組合・同業組合的性格をもつ団体から始まった
③ヤクザ組織の事業としては労働力供給業を担ったことが特長
④相撲や芸能興行と結びつくことで成長した
・近代ヤクザは暴力を背景にしながら、地域の顔役として社会的権力を確立し、身分制社会と周縁社会をつなぐ役割を果たしていた
・近代社会・資本制社会の周縁仲介者としての近代ヤクザの役割は政治的な意味を帯で近代国家と国家権力に対しても関わりを生じていく
・下層社会が流動化しはじめればそこにおける社会的権力であるヤクザも流動化する
・義理は、社会的規範と個人的感情という一般的な問題ではない日本的な内容をもつもの
・厳しく要求する日本の道徳が個人の欲望や快楽についてそれを充足させることを罪悪と考えず人情として許している
・義理の果たし方とは、好意に接してくれたことに対してお返しをするという性格をもっている
・戦後当時は談合は過当競争・手抜き工事を防ぎ、業者の共存を図る経済的合理性をもっていると裁判所が判断していた
・土建業会から出てきて土建業会の社会的権力となったヤクザはその自治の仕切り役であり警察役であった
・初代山口組は、沖仲仕だけでなく、造船所の錆落とし、市場の運搬下請けなど労働力供給業の幅を広げていった
・博徒には渡世人(ばくち打ち)と稼業人の二種類
・米騒動のときには山口組の組員は大衆行動のリーダーとして働いていた
・芸能興行に進出。吉本興業と結びついて用心棒兼興業仲介者の役割
戦後は第三国人との争闘で町の保安官、闇市自衛隊としてふるまった
・戦後港湾民主化で排除されたヤクザだが朝鮮戦争勃発によって下請けや労働力供給業を解禁し、組が復活した
・当時の日本社会では、法の支配が確立していない社会の周縁部分の秩序を守るのはヤクザの役割と決まっていた
・山口組は神戸港の裏を支配した
・山口組のような近代ヤクザは、近代都市の下層にできた共同体の中で下層労働者を統括する役割を通じて生まれ、もともと地域の共同社会根づいたものだった
・山口組は、荷役事業を展開していくことを通じて、地域共同社会に根ざした分権的ヤクザから地域を超えた利益社会に根ざした集権的ヤクザに脱皮していった。芸能興行は全国区市場でもあった。山口組は大阪進出を図り、東京進出をめざしていた
・1964年山口組系企業の収入は60億円を超えた。ヤクザの構成員は184000名に。これが頂点。高度成長が近代ヤクザの足元を掘り崩していった
・港湾荷役では、荷役作業の機械化、荷姿の規格化が進められ、港湾運送全体の近代化・合理化が進められ、山口組が臨時労働力を提供する形が必要なくなってきた
・また資本が末端労働者まで管理できるようになり下請け労働者を統括している山口組のような存在が邪魔に
・芸能興行テレビが普及し、テレビ局と大手プロダクションの資本の力が大きくなり、両者が政治権力と組んでヤクザを排除する方向に向かっていった
・岸政権に代わって出てきた池田・佐藤政権は官僚派政治家。低姿勢・経済優先でクリーンな政治、ヤクザの要らない政治を実現しようとした。「暴力団一斉取り締まり」(頂上作戦・1964)が始まった
・1966年までに山口組を除いてすべて解散させられた
・山口組壊滅作戦で、山口組企業系列は壊滅し、山口組は企業社会に入り込み生きていった
・日本の近代そのものを根本的に考え直すことが必要。近代ヤクザ史の考察がその助けになる
