日本劣化論 (ちくま新書)/筑摩書房
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日本の戦後からみえる日本の弱点を笠井・白井ふたりの学者が論じた本。

敗戦を否認する保守と、空想的な平和主義で現状を打開しえないリベラルへの批判と日本の現状認識の一助となる本。


読書メモ↓(Kは笠井・無印は白井氏)

・大東亜戦争という大失敗は明治維新以降の近代日本の悲劇的結末であり、「戦後」とはこの失敗への反省に基づいて歩まれた時代であったはず


・有力な政治家たちによる歴史修正主義を支持する言動、軍事への傾斜や排外主義者たちの攻撃的言動など「現実の否認」がまかり通っている


・安倍さんが掲げている「戦後レジュームからの脱却」というのは言葉としては正しいしそうしなければならない。だが実際はその反対で「戦後レジュームの純化」


・安倍さんが言うところの「積極的平和主義」の実質とは安全保障政策の方向性、すなわち「積極的安全保障政策」日本の戦後の平和主義は消極的なものに過ぎなかったことをほのめかしている


・「積極的平和主義」で自衛隊の専守防衛の原則は無効化される


・伊藤憲一氏 「これからの日本人は世界市民としての自覚と責任を果たすことが必要。だが、日米同盟強化がその実現につながる」と言っているが論理的なつながりはない。世界=アメリカになっている


・2000年代になるとアメリカが対テロ戦争を始めた。アメリカ自身が国連中心主義をかなぐり捨てた


・積極的平和主義とは軍事的な意味でアメリカの一部となっていろんな活動をするということ


・アメリカは「日本と我が国は、価値を本当に共有しているのか?」と疑問を突き付けてきている。第二次世界大戦について歴史の解釈の問題をめぐって価値を共有しているのは、日米ではなく米中


K・安倍首相による「侵略の定義」「河野・村山談話見直し示唆」「靖国参拝」などは自民党右派の出発点である「大東亜戦争肯定論」歴史修正主義の必然的な産物


K・自民党憲法改正草案は、立憲主義を否定し、人権より国家権力を優先する自民党の新憲法案を含めて、安倍路線が欧米諸国の立場と対立している


K・自民党右派勢力は教育問題に力を入れていた。イデオロギー的に大日本帝国の復活を目指す。アメリカは反共親米なら独裁政権とも同盟し援助する無原則な実利主義があって外交問題とはならない


K・冷戦崩壊で、アメリカ独覇の新時代が到来したが、9.11でイスラム革命勢力のテロ戦争とアメリカの反テロ戦争の応酬で、世界は新たな混乱期、21世紀的な世界内戦の時代に突入していく。東アジアも流動化している


・日本の昔懐かし派が歴史を修正することができる範囲はアメリカによって決められている。歴史修正主義的な歴史観が成立しえたのも、アメリカによる対日処理の結果、旧支配層が根絶やしにされなかったため。納得しなければ対米戦争をやるしかない


・日米の妥協点は田中角栄をトップから降ろしたが、実質的な最高権力者として留まるところに落としどころがあった


・安倍首相の登場は、偶然ではなく必然。社会全体に反知性主義が蔓延していて、見方によっては日本国民を正しく代表しているともいえる


・岸信介首相時代の防衛大綱は、「憲法上の制約があるから、我が国は遺憾ながら自分で自分の国の安全を軍事的に守ることができない。であるがゆえに、将来国連を中心とした世界的かつ普遍的な安全保障のシステムができるまでの暫定処置として米軍に駐留してもらう」


・岸は安保改定によって対米従属を永続化した張本人だが、彼だってこれはあくまでも暫定的な措置であることを十分認識していた


・世界=アメリカと考えるような日本人は永続敗戦レジュームの中で日本人が成熟するわけがない


K・戦後日本はアメリカの属国だったし、いまも同じだが、冷戦崩壊後の20年の過程で属国支配のシステムが老朽化してきた


・アメリカはアフガン戦争とイラク戦争の「敗戦」によって世界の警察官であり続けることがもうできないところまで弱体化した。また中国という巨大な経済的パワーを無視できなくなった、この2010年代に日本は何を目指し、どのように行動するべきかをめぐる戦略がない


・対テロ戦争が始まって、対米従属派が権力を独占する方向へ向かっていった。外務省には親米派・中国派・地政学派3派閥があったが親米派が全面勝利した


・日本の官僚機構の駄目さの本質は、アメリカを仮想敵国になるかもしれないという可能性を担保していないこと


K・大東亜戦争肯定論を靖国参拝などの形で実行していくとサンフランシスコ体制を認めないのか、ということになる。「戦争には負けたが、あれは正しかった」という言い草は国際政治のレベルでは通用しない


K・自民党改憲草案では、自民党が理想とする国家や社会は旧西側諸国ではなく、中国や北朝鮮のほうではないか。それは自民党右派イデオロギーには、戦前戦中の国粋主義が流れ込んでいるから


K・自民党右派には、神国思想を水増ししたような文化的右派と、日本帝国の復活を狙う政治的右派が混在している


K・旧西側先進諸国が高度成長を再現するには20世紀後半の家電自動車に代わる基軸商品が必要


・永続敗戦レジュームのなかで繁栄と平和のうち繁栄の部分が戦後日本のすべてを支えたきた。戦後を永遠に継続させるためには、嘘でもいいから繁栄しているということにしなければならない


・安倍政権の経済政策は、一部の大企業だけがしっかりしていればいい、としているが、日本の製造業の強みは技術力の高い中小下請け企業が分厚く形成されていることであるので、大企業ももたなくなる。この層を壊せば日本資本主義全体が立ち行かなくなる


・日本人は国連加盟が持つ大きな意味をすっかり忘れてしまっている。あの戦争において枢軸国は単に軍事的に敗北しただけでなく、道義的にも敗北した。そのことを潔く認め、連合国の仲間に入れてもらうのが国連加盟の意味


・対米従属をよろしくないと見なすのは、それが戦前の国体の構造とまったく同じになっているから


・戦前の国体の最大の欠陥、軍部の独走を許してしまったのは、天皇の意思がブラックボックスでありながら絶対の権威を有していたから


K・占領体制が終わってから日本の主権者は名目的には日本国民だが、実は占領時代と同じでアメリカがこの国の主権者。戦後憲法とは主権者アメリカが日本国民に与えた欽定憲法


・戦前の天皇が占めていた地位に、戦後、アメリカが代入された。ワシントンの大御心を輔弼するというかたちでずっと政治が行われてきた


・日本の特殊性は、従属国に天皇制のごときものとして機能していること。天皇が臣民を愛するように、アメリカは日本を愛するはずだという現実離れした信条が入り込む


K・現天皇にはアメリカ人の家庭教師に精神的に影響された皇太子が天皇位につき、アメリカが作った戦後憲法の最大の守護者となっている。戦後天皇制は、アメリカによる属国支配お有力な政治装置


・戦後でも昭和天皇の共産主義にたいする恐怖感はすさまじいものがあった


・戦後体制というのは日本国民の主観世界では「アメリカ幕府」だったのではないか


・対米従属問題というのは、実は国際問題ではなく国内問題ではないか。特殊な対米従属の構造を内的に改革するしかない


・中華人民共和国は、日本が戦った中華民国の後継者として国際的に認知されているため、中華人民共和国は戦勝国であり日本は敗戦国


・日本の対アジア諸国との緊張の問題というのは敗戦の否認ということと深く結びついてしまっていて、どう打開していくか


K・19世紀はイギリスがインドを植民地化しても問題はなかったが、第一次世界大戦後、植民地を続けられないという流れに切替わった。日本はそれに無自覚で植民地拡大と利権拡大を強引に進めようとした


K・19世紀の国際法を振りかざして領有権を正当化する日本に旧植民地・従属国は反感を抱く


・安倍首相ほど、河野・村山談話を認める、と表明する羽目になった政治家はいない


・何千年の歴史単位で考えると中華思想からすれば日本は野蛮人、毛沢東が日本を許したのはそれ


・東アジア共同体という方向性を強引に目指すのは欧州以上に多様なアジアでは危険


K・極東裁判や南京虐殺や従軍慰安婦をめぐる自民党右派の歴史修正主義的主張は国際基準でいえば極右そのもの


K・欧米に見下されながら、欧米を模倣して今度はアジアを見下してきたのが要するに近代日本


・戦後日本は国家の独立性という観点からすればそれほど悪い状態ではなかった。自民党はアメリカの傀儡だけれども、親分の無茶な要求に対してはノーと言えた。その切り札は社会党の強力さと憲法9条


・戦後革新勢力もアメリカにやられてしまって、アメリカが発明した陸軍悪玉説・東京裁判史観を徹底批判しなかった


K・改憲と安保をセットにした自民党も、護憲と反安保の社会党も空想的。自民党は大東亜戦争肯定論や日本帝国の復活が本音だった点で自己分裂は社会党より少なかった


K・冷戦下の日本には、反米・反安保の道を選択しうる歴史条件として国際環境と地政学的条件が欠けていた、これが55年以降長期にわたって自民党政権が続いた理由。社会党が政権と無縁だった理由は9条平和と一体の反米反安保という空想的な国際路線


・ドイツは東西に分断され、加害者性に対してはっきり罰が下された。日本は沖縄などの例外を除いて分断されず、地政学的な幸運のために、免責されて永続敗戦レジュームが成立した。つまり加害者性を自覚しなくて済む客観的条件が揃ってしまった


K・議会政治とは、街頭で闘われる叛乱の政治の結果として生まれたにすぎない。デモこそが議会制民主主義の生みの親


K・戦中派や学徒動員時代の日本人は1980年代に一度は負けた対米戦争に経済戦争という形で今度こそ勝ったと思い込み、勝利に酔いしれた。このとき日本人の意識のなかで戦後は終わった


・保守二大政党による二大政党制はとてもじゃないがもたない。55年体制の自民党は寄り合い所帯だったが共有された唯一の理念は反共主義。二大政党制を機能させるには、グローバルな新自由主義に対抗するナショナルな社会民主主義しかありえないと小沢は気づいた


K・冷戦の開始でソ連が安保理で拒否権を行使すると国連は機能マヒに陥った。日本はアメリカの従属国として冷戦を闘い、憲法9条は日米安保と相互補完的な関係になった。アメリカの軍事力に依存して、ソ連の脅威を封じ込め冷戦の中で平和を維持してきた


K・ドイツと日本が平和に対する罪で裁かれたのは、連合国が枢軸国の戦争を侵略戦争と規定し、連合国の戦争は自衛戦争として正当化された