- 日本に絶望している人のための政治入門 (文春新書)/文藝春秋
- ¥842
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http://booklog.jp/item/1/4166610104
「朝生」出演で論客として知られる新進気鋭の国際政治学者三浦氏の本。
氏の「山猫日記」http://lullymiura.hatenadiary.jp/
を元に編集された本ですが、入門というにはどうも東大流と言っていいのかなかなか難解で読みにくいのは、まだまだ理解力が私に伴っていないんだろうなあ。
国際政治学者らしく、氏の歴史と現状認識、特に日本の保守的なについては鋭い視点を感じます。が、現実世界と日本の選択肢として、徴兵制や集団的自衛権の行使容認に対して肯定的なのは、???の部分も。
どちらかと言うとリベラル批判の匂いを感じますね。でも歴史認識としては、概ね正確かな。正しい現状認識は大前提だが、よりベターな施策が取れるかどうか、これからも注目です。
読書メモ↓
・政治なんて特に理解できなくても日々困ることはない
- ・ホンモノの保守は国民の統合とか一体感を大切にする、ホンモノのリベラルは真の弱者に寄り添って彼らにこそ自由と自己実現が得られる環境を整備する
- ・ホンモノを見分ける方法は、自由が与えらえた後に何をしたいか、に関わってくる
- ・左派が非武装や中立を主張したことであたかもそのような選択肢が存在するかのような錯覚が生じ、冷戦n当事者ではない平和国家という都合の良い自己イメージが形成された
- ・日本のリベラル勢力は否定形でしか世界を語れなくなってしまった
- ・日本のリベラル勢力があまりにも現実味に欠ける平和のための手段の構想を持ってい
- ・保守主義の本音は、年月を超えて築かれてきた価値観を重視することにあるのでどうしても過去を美化する傾向がある。日本において「戦前の日本のすべてが悪かったわけではない」という形をとる。問題は、「戦前(江戸・明治時代)のすべてが良かった」ということに安易にすり替わってしまうこと
- ・戦後日本に根付いたリベラルな価値観は、保守主義者にも十分に浸透。今日の保守主義者は、戦後リベラリズムが築いた台座の上から安心してリベラルを攻撃できる
- ・保守主義の雰囲気を作っているのはリベラルへの苛立ち
- ・靖国問題を外交関係や経済景気の視点だけで捉えることはその本質を見誤る。それらは功利主義的な立場
- ・日本のエスタブリッシュメント(自民党主流派・官僚・一部メディア)は思想信条は脇に置いて、功利主義を前面にたててこの問題と向き合ってきた。これはリアリスト的な思考に基づくプロの論理
- ・戦後の日本はごく少数の殉職者を除いて新たな戦死者はいないわけで、新たに靖国神社に個人的なつながりが生じた人はほとんどいない。とすれば靖国神社は、国のために命をささげた軍人を敬い、自分たちの歴史を好意的にとらえたいという心情の象徴。+国のために一定の危険を承知で働いている自衛隊員などの生き方の念の象徴
- ・参拝に賛成する立場の問題は、国内における正義が国際関係でも認められるべきだと考えていて、国内における正義はただ一つであると考えている傾向が
- ・世界は摩擦に満ちており、互いへの無理解と反感は当分なくなりそうにない。東アジアの人々は互いに摩擦を高めている現状があり、それに当分付き合っていかなければならないリアリティがある
- ・右から左まで日本には弱者しかいなかった状況
- ・戦後のリベラル勢力は、右派の政治家に対して靖国に参拝するしない、歴史認識はどうか、という踏絵を迫っていた。それによってリベラルが大勢を占めていた戦後日本社会において明らかな右派を排斥することができた
- ・そして、今日本国民は安倍晋三という政治家の歴史認識や価値観をよく理解したうえで、三度総理に選んだ。思想的には決して本流を占めてこられなかった保守派が長い間弱者として押し込められてきたことに対する倍返し的な気分で国内の敵と戦っている
- ・総理の靖国神社参拝には、戦後長らく弱者の地位にとどめ置かれたと認識してきた保守層による国内の敵に対する自己主張という側面がある
- ・自民党は高度経済成長の時代を通じて、拡大するパイの分配と福祉や環境などの左側のテーマをうまく取り込むことで国民政党化した
- ・米国共和党や英国保守党がパッケージで主張する小さな政府の主張はほとんど日本に存在しない
- ・自民党はイデオロギー的に左右めいいっぱい翼を広げてきたので、反自民のイデオロギーという概念が成立し得ない。結果的として自民党の足をすくったのは自民党を自民党たらしめていた利権構造
- ・国によって右の概念は異なる。日本においてそもそも右であるとは
- 経済学の新自由主義に近い立場、小さな政府、経済規制の縮小、グローバルな貿易や投資の自由化、伝統を重んじる立場としては、夫婦別姓導入や婚外子地位向上に否定的、安全保障では拡張主義的な政策
- ・敗戦国である日本という政治空間においては、近現代史への態度という重要な軸がある
- ・左であることは、経済においては大きい政府志向、社会政策は個人の選択の自由や新しい価値観に受容的、安全保障はハト派、歴史認識については戦後の「正統」な歴史観からの逸脱を嫌う
- ・日本には小さな政府主義者は皆無
- ・戦後民主主義が達せきしてきた諸々の成果を否定する勢力も実質存在しない
- ・現在の日本は、政策レベルでは中福祉・中負担の福祉運営国家であり、基本的人権や個人主義の尊重であり、防衛主体の軍事力の保持。逆説的だが、だからこそ歴史認識に焦点があたり、そこが日本の右傾化を論じる主要論点となってしまう
- ・日本の右傾化の主張はほとんどの場合、歴史認識と結びついている
- ・日本の右傾化は杞憂。現政権に代表される日本の保守主義は国民の間に定着している戦後民主主義の果実の上に築かれているから
- ・日本の政治に自民党以外に本気で政権交代を目指す勢力が存在し続けるのか、自民党から部分的な譲歩を引き出すことを目指す勢力にとどまるのかが要注目
- ・日本の地方では名士・名望家によるリーダーシップが非常に重要。地方の首長、地方議会の議員は地域の有力者。この層の大半は経済的文化的背景から保守的な傾向がある。故に彼らを取り込んだ全国政党となるためには保守である以外に、リアリティがない
- ・日本という国には、大変幸福なことに国民との間に深刻な分断が存在しない。これは明治以来の中央集権化の大きな貢献
- ・日本の地方は全部保守で全部自民
- ・自民党は官僚派と党人派がいた。前者は統治利権を代表し、後者は経済利権を代表していた。戦後初期は官僚派優位で、吉田・岸・池田・佐藤・大平・福田歴代総理は官僚出身
- ・自民党は党人派と経済利権に傾いていったのは単純に、小渕・森・小泉は生粋の党人派、安倍・福田康・麻生各総理は官僚を祖に持つ党人
- ・民主党が失敗した理由は①経験不足から統治利権との闘いで空回りした②そもそも地方に根付いた経済利権を築き上げることができなかった
- ・日本を始め多くの国でリベラリズムは権威主義者や保守主義者によって推進されてきた
- ・戦後日本は、統治利権を担うエリート達を世界的に非常にフェアな方法で選別育成してきた。彼らが中産階級出身から大きな権力を振るってきたことは世界的に稀な現象であり、戦後リベラリズムの成果
- ・結果的に、持続的に権力を行使する政商も、キャピタルフライトする層も生まれなかった
- ・日本政治は保守二大政党によって担われるべき
- ・安倍政権が目指しているレガシーとは、戦後レジュームからの脱却にあるように日本という国や国民にとっての誇りや偉大さが中心。政策としては憲法改正であり、経済の回復とともに日本人の自信を回復させることが重要
- ・政権の偉大さとは、その国がもっているくびきを乗り越えるための努力をどこまでできるか
- ・日本人にとってのくびきを考えるとき、戦争への評価、靖国神社、南京大虐殺、慰安婦への評価は日本人を明確に色分ける一体感を損なうテーマ
- ・保守的な思想信条がかえってリベラルな打ち手を繰り出しやすいのは歴史の逆説
- ・日本のくびきとは、くびきを意識させない気風や一体感信仰。一体感を損なう、空気を読めない行動や言説への反発と制裁には激しいものがある
- ・一体感を乱すものを敵対視してしまうところも
- ・米国が後退していく東アジアにおいて開かれた保守とは、世界の問題について自分の頭で考え、自分の心で共感すること。自らの行動が招く結果に責任を持つということ
- ・日本国民は総理になる政治家とそれ以外とを区別して認識している。日本人はヒエラルキーが守られることが心地よい
- ・失われた20年の日本経済の最大の変化はグローバル化の進展。安倍政権はグローバルな文脈における評価を相当程度意識した政権だが、日本の統治機構のほとんどはこの変化についていけてない。いまひとつの大きい変化は労働者の4割が非正規化したこと
- ・そもそも国民国家というものは国家内の公平を実現するために国家間の公平には目をつむるという制度。グローバル化する世界にあって、国民国家は邪魔だとするリバタリアンやビジネスエリートは平和や治安や衛生、福祉、科学技術をはじめとする現代社会の基盤のほとんどが国民国家によって支えられていることを都合よく忘れている
- ・個人主義に立脚するフェミ二ズム運動にはふたつの弱点がある。①個人主義に立脚する以上、個人の選択の自由を尊重せざるを得ず、専業主婦層の権利を取り込む必要があること②出生率の低下という共同体にとって死活的な利益とぶつかってきたこと
- ・現代の共和主義とは、個人の権利より集団の権利を優先する時代遅れの発想ではなく、自由で豊かな市民という強固な土台の上に、共同体の理系との調整を図る試み
- ・集団的自衛権をめぐる論争の本質を理解するには、三つの領域①安全保障②憲法解釈と立憲主義③感情的化学反応の領域に関する状況認識を持つこと
- ・民主主義の仕組みの中で、少数者の利益が害されないように最大限工夫工夫してから立憲主義は持ち出されるべきもの
- ・集団的自衛権をめぐる憲法解釈は、非核三原則とともに、最後まで残されたガラス細工を支える大きな支柱。これを壊したい守りたい立場の間での争いがある
- ・日本の進むべき道は、国際的な問題の解決につながらない武力行使や国内的な不正義に支えられた武力行使に反対する平和国家
- ・日本の唯一のわかりやすい分断が、歴史認識であり、安全保障をめぐる観念論の世界
- ・他日本の重要な分断は、地方であり、女性であり、非正規
- ・冷戦思考の最大の問題点は世界的に重要でない地域紛争にも戦略的意義づけを与えてエスカレートさせてしまうこと
- ・G0の世界とはそもそも国際社会の課題を認識し、取り組むための枠組みがあるかということ。枠組みを自ら作り出す構想力と参加者を募るための説得力が重要に
- ・戦前、米英との協調から距離をとった日本は、自らの頭で考え、自ら破滅に至る道を選んだ。その反省と、冷戦の現実が、米国の世界観を受け入れ、外の世界の現実について自分の頭て考えるよりも、自らが作り出した内向きの論理に拘泥する文化を創り出した。
- 武器輸出三原則も、非核三原則も、PKO五原則も、集団的自衛権を有していても行使できないという解釈も発想は同様
- ・G0の世界を生きるということは、思考停止を自らに許さず、現実を見据えて考え、他者の理解を前提とせず、他者の利益を踏まえた論理の力をもつこと
- ・米国の単純で力強い論理、欧州の巧妙な偽善、中国のすがすがしいまでの厚顔は、それぞれの歴史を通じて形づくられてきた伝統。相手の利益を理解する洞察力、経済力、約束を守る信頼感は厳しい世界を生き抜く日本の財産
- ・核抑止があり、国際法が発展した現在の世界では、主要国間の大規模な戦争にはならない。日本は米国を諌めよ
- ・陸奥宗光の「蹇蹇録」は、日本人が書いたもっとも優れた戦略論
- ・日本は米国が朝鮮半島を統一的に占領する形で降伏すべきだった。ソ連の中立を信じて終戦工作に望みをつないでいたあたりに朝鮮半島の悲劇がある
- ・韓国に日本的な感覚の親日韓国人は存在しない
- ・日本は日米同盟を必要悪や功利主義で説明してきた
- ・日米同盟は、民族宗教歴史を共有しない国同士が戦いを経て冷戦という脅威を前に手を結んだ稀有な例
- ・日本は軍事的財政的、国民感情としても東アジアの現状から単独で対抗抑止する能力はなく、日米同盟は唯一の現実的な選択肢。日米同盟は日本が自らの意思で結んでいる
- ・日米同盟は、戦後ずっと必要だったのに、リベラルな価値観が強かった国民には一貫して不人気。歴代政権はあたかも日米同盟からくる不都合はすべてアメリカのせいにしていた