桐野夏生

 

・公共という語が都合よく使われている気がする。個人の自由の拡大と結びつけるのは乱暴すぎる

・日本は女性が個人として自由に生きづらい国

・個人の尊厳は憲法でうたわれていたのに、なかなか実現できなかった

・個がなければ公への認識は生まれない。公への奉仕が強制的に求められるとしたら、ファシズム。日本ではむしろ「私」を強くどんどん「私」を主張すればいい。しっかりとした個の土台の上にほんものの公共が育まれていく

・公とはもっと人類全体の普遍的理念・人権尊重であるべき

 

 

中島岳志

「立憲主義と保守」

・立憲主義とは本来保守的な考え方に立った思想

・保守とは、本来フランス革命の背後にある(英国の思想家バーク)人間観。バークの人間観は人間の理性は不安定。不完全な人間が構成する社会も永遠に不完全。安定した平和的秩序は、長年の良識や慣習、伝統といった経験知に依拠すべき、という考え方

・立憲主義は、国民が憲法という禁止条項で権力を縛るもの。人間の理性には限界があり、間違いを起こし、権力者が時に暴走してしまうかもしれないという保守的な人間観がある

・保守は、死者の経験知を踏まえた安全弁として憲法を考える

・日本国憲法は不完全な人間でつくった不完全な憲法である以上、少しずつ変えていくべき。でも抜本的書き直しをすると革命になってしまう

・自民党改憲草案は、非常に革新的。これまでの規範や憲法解釈を一気に変えてしまおうとしている。その態度は保守というより、むしろ左翼的。

・安倍さんのような改憲派も護憲派も特定の人間が正しいものを設計できるという設計主義に立っている点では同類。本来の保守はその考え方どちらもとらない

・憲法9条を変えていかないと、平和と立憲主義を維持することが難しくなると考える。立憲主義は憲法で権力を縛るものだが、9条では自衛隊を縛れていない。9条のあり方では立憲主義的とはいえない

・国際秩序を維持する上で、一定の軍事力が必要であるなら、自衛隊を憲法で規定して歯止めをかけるべき。9条を変えるな、というのは、自衛隊廃止論を採らない限り、解釈改憲を拡大させることになり、立憲主義を空洞化させてしまう

・戦後の日本は9条と日米安保の微妙な綱引きを絶妙のバランスでやってきた。日本の主権を9条が担保していた

・しかし、安倍政権が解釈改憲で集団的自衛権を認めたことで、バランスが崩壊した。自衛隊を明記していない9条は弱い。ならば国民的議論をした上で、9条で自衛隊はどこまでやるべきか何をしてはいけないかを明示すべき。それが平和主義的で保守的な改憲論であり、かつ護憲論である

・日本では保守もリベラルも本来のかたちからは逸脱していて、本来は保守こそがリベラル

・リベラルのもともとの意味は寛容。保守も人間は過ちを犯しやすい存在で意見の違う相手を排除せず耳を傾けて合意形成することを重視する

・政治思想の歴史から寛容を重視してきたのは保守。保守は20世紀を通じて全体主義と共産主義というきわめて非寛容な政治体制を批判してきた

・戦後の日本は米国に引きずられ、保守とリベラルを対立するものと捉えリベラルが左派を指すようになってしまった

・日本では左派は自民党の一党優位体制で保守が力を持ち続けてきたと思い、保守は言論界や教育現場やアカデミズムも左翼に牛耳られてきたとみなした、その怨恨から攻撃し合う、一種の共依存になってしまっている

・重要なのは護憲か改憲かではなく、平和を守っていくためには憲法をどう考えるべきかということ

・この静かな日常を次の世代に受け渡すことが保守の最大の目標