保守も知らない靖国神社 (ベスト新書)/ベストセラーズ
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昨年読んだ小林よしのり氏による靖国神社に関する解説本。


小林氏の歴史観とは同一でも共有しているわけでもありませんが、靖国神社の事実関係を把握する一助にはなります。

氏は靖国神社は祀っている御祭神を「奉慰顕彰の対象」=幕末以来の戦没者の霊を奉慰顕彰するための神社であると説明しています。靖国神社に参拝することは、こうした歴史観に直結するだけにそれなりの覚悟(歴史を勉強しておくこと)も必要ということになりますね。

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外交問題化しているA級戦犯合祀の問題は、一宗教法人である靖国神社(松永宮司時代)が独自に判断して行ったことですが、ポツダム宣言及び東京裁判(=A級戦犯らの処断)を受け入れたことは、サンフランシスコ平和条約で敗戦を認め国際復帰した戦後日本の原点でもありますし、それを否定するわけにはいきません。靖国史観と戦後の世界体制との相容れない歴史観。これがなかなか解決できない大きな問題です。

また、本書では触れられていませんが、

靖国神社に祀られている「戦没者」、2,466,584柱のうち、2,342,341柱は満州事変以降アジア・太平洋戦争の戦没者。実に94.9%が靖国に祀られていて、この時代の悲惨な総力戦の結果です。また、アジア・太平洋戦争での戦没者は310万人、うち軍人が230万人、またそのうち140万人が戦病死・餓死とされていて、約6割にのぼります。

「英霊」の半数以上が餓死したのが先の大戦だったということなのです。明らかに国策の誤りでありまして、この方々へただ奉慰顕彰するだけの思いで靖国神社に参拝するわけにはいかないな、とも思うわけです



・靖国神社は幕末以来の戦乱などにおける死者を祀っている


・靖国神社は祀っている御祭神を「奉慰顕彰の対象」=幕末以来の戦没者の霊を奉慰顕彰するための神社であると説明している


・靖国の英霊は神様


・明治維新によって辛うじて日本は植民地化を避けることができた、そのための幾多の志士たちの功績を称えるために英霊として靖国神社として祀られ、顕彰されることになった


・日露戦争のは圧倒的な国力の差がありながら日本が勝利を収めることができ、その勝利は植民地化されたアジア・アフリカの諸民族に自信と希望を与え、その後の民族独立運動を促す契機となった


・歴史は勝者だけがつくるものではあってはならない。敗者には敗者の歴史があり、負けた戦争にも正義はあり、逆に勝った戦争にも悪はある


・「太平洋戦争史観」に従えば、この戦争の戦没者はA級戦犯たちの陰謀によって起こされた侵略戦争に加担した共犯者、あるいは加担させられた被害者ということになり、顕彰などできるわけがない。靖国神社が祀っているのはあくまでも「太平洋戦争」ではなく「大東亜戦争」の戦没者


・「大東亜戦争」の正義とは日本の「自存自衛」であり「アジア解放の戦争」だった。大東亜戦争は米国から仕掛けられた戦争であり、やむなく開戦を決断した。日本を守りために戦い、命を落とした人々を顕彰することは日本人として当然


・東京裁判は、敗戦国だけ「事後法」によって当時は犯罪とされていなかったことをさかのぼって裁き、その一方で戦勝国については、明白に国際法に違反した戦争犯罪もすべて不問に付した


・事後法の禁止と法の平等適用は法治社会の鉄則であり、東京裁判は裁判ではなかった


・東京裁判でパール判事は全員無罪の独自の判決書を書いた


・東条英機は、軍統括部の反発を抑えながら戦争回避のため首相になった


・GHQは天皇を戦犯とせずに占領政策に利用する方針を固めており、東京裁判で東条から天皇に開戦責任がない証言を引き出す必要があった。東条は「この戦争は陛下の命令に背いて自分が始めたものだ」と証言した


・東条は「国内的の自分の責任は死をもって償えるものではないが、国際的な犯罪としては、どこまでも無罪を主張する」


・東条はヒトラーのような独裁者ではなく、天皇の臣下であることを自任していた


・恩給支給の問題で、東京裁判で処刑された者は戦死者と同じに扱い、靖国に祀るべきということは当時の日本人のほとんどの共通認識だった


・靖国神社では、自衛戦争としているが、安倍首相は靖国参拝時の談話で「日本は二度と戦争を起こしてはならない」=戦争は日本が起こしたものだと言っている


・戦没者は「やってはいけない戦争」に行って「死ななくてよかったのに死んだ」ことになってしまう


・英霊とは英でた霊。特別に優れた霊。犠牲者とは、哀悼の対象とはなっても顕彰はされない


・靖国神社は不戦の誓いをする場ではなく国家を守るために戦った人々に対してよくぞ戦ってくださったと手を合わせる場所


・鎮霊社は靖国神社敷地の端に鎮座しているが、1965年に創建され、ペリー来航以降の本殿に祀られていないすべての戦没者と、世界中で戦争のために亡くなったすべての霊を祀っている。鎮霊社は顕彰はせず奉慰のみ(靖国神社の見解)


・日本では自称保守のタカ派やネット右翼が安倍晋三を突き動かす構図に


・靖国参拝は大戦争の火種になりうる。米国政府は日本の首相に対して、靖国参拝をするな、と言うようになっている


・米国にとって中国は第二の貿易相手国であり、米国が巻き込まれる日中間の衝突を避けたい


・大東亜戦争の理念は「八紘一宇」だった


・日本は成熟した国家であり、外に敵を作って排外主義ナショナリズムを煽らなければ国をまとめられないようなかわいそうな国ではない


・靖国神社の国立追悼施設や政教分離はあくまでも国内問題だったが、今は国際問題に移行してしまった。そのことを靖国擁護の保守派の言論人たちは全く認識していない


・海外における戦没者は約240万人。収容された遺骨は約127万体。まだ約60万体が収集可能


・靖国神社の本質(軍人・軍属の戦没者への奉慰顕彰)を米国政府が理解できなくても仕方がないが、日本国内の自称保守派や安倍首相も十分理解しているとは到底思えない


・アーリントンはアメリカ人の英雄の勇気を称える場所であり、戦争犯罪で有罪になった人たちの卑劣な行為を称える場所ではない(FOX)


・日本の戦争は悪魔の戦争で、それを正義の連合国軍が叩き潰したとしか思っていない


・アーリントンは戦死者のみならず、一定の資格を満たした軍務経験者、厳密に追悼の対象となる人物なら埋葬される権利がある


・米国民の多くは、ベトナム戦争を除けば米国が戦った戦争を「聖戦」と認識している。第二次大戦は、民主主義がファシズムに勝ったよい戦争、として誇りに思っている。なので国際法を無視して、都市空襲や原爆投下も正当化される。「欧米こそがアジアへの侵略者で、日本は自存自衛とアジア解放のために戦ったと主張する靖国神社と同じ」と言われて認めるわけがない


・戦死した将兵らの慰霊・顕彰は万国共通にみられる普遍的儀礼であり、慰霊の方法はその国の宗教的伝統に基づいて行われる。その国家民族の伝統にかかわる宗教儀式は尊重されなければならない


・靖国とは日本を戦争できる国にするための神社


・(小林)国を守るための戦争は必要。国を守るために死んだ者を顕彰する施設は独立国家には不可欠であり、それがなければ続いて国を守るために命を賭けて戦う決意をする者が現れなくなってりまうから靖国神社は大切


・安倍首相の靖国参拝は「英霊の皆様、よくぞ戦ってくれました。しかし私は不戦の誓いをします」と言ったことになる


・慰霊も追悼も霊の存在という宗教的感覚を抜きにしては成り立たない


・自衛隊は殉職者は出しているが戦死者は一人も出していない。だがイラク派遣から帰還した自衛隊員が28名も自殺している


・集団的自衛権行使容認によって、自衛隊は米軍と一体になって戦闘に参加しなければならなくなる、今度こそ自衛隊員に戦死者を出す覚悟をしなければならなくなる


・近代国民国家という「フィクション」がある限り、国防のためには命をも懸けねばならないという「フィクション」も生き続ける。そして国家を守るために死んだ者は英霊として祀られるという靖国神社のフィクションは絶対守られなければならない


・靖国神社は日本を戦争のできる国にするための神社である。靖国神社は、次の戦争のための神社であらねばならない。靖国神社を参拝するということは、国のために戦って死ぬということに価値を感じることができるか、命よりも大事なものがある


・小林 「戦争ができる国」とは「好戦的な国」ではない。戦争ができる国とは、自国の安全が脅威にさらされた時に、他国を頼りにせずに、自国の防衛を自国でできる国というごくあたりまえのこと。決して覇権の拡大を狙って他国に侵略したり、集団的自衛権によって他国の戦争に突入していく国を目指せと言っているのではない


・大東亜戦争は朝鮮人も日本人とともに戦い、21,000余が靖国に祀られている。ヘイトスピーチを許してはならない


・幕末の開国はアメリカに武力でこじ開けられた屈辱の開国、だから靖国神社にはペリー来航以来の戦没者等が祀られているがその認識が戦後の日本人にはない


・政治家にとっての靖国参拝は「保守騙し」の手段にすぎない


・国が貧困と位置づける年収114万円未満は、働く世代の単身女性の1/3、110万人に上る


・欧米列強の植民地争奪戦という時代の波にさらされた日本は、植民地化を阻止し、独立を守るために戦わなければならなかった。彼らは愛する故郷を守り、天皇を中心とする国の形を守ろうとした


・「故郷を守りたい」という感情は、実は「攘夷」の観念と一対。攘夷と排外主義は違う


・日本の「伝統」とは歴史の知恵としてのルール感覚であり、「文化」はそのルールの栄養で実った果実

・1931年の満州事変以降、昭和10年代から終戦に至る非常時の間は、信仰する宗教を問わず靖国参拝は全国民の義務であるかのように強制された


・松永宮司「靖国神社は戦前と異質な戦後の国家による国家護持では危険。国民総氏子でいく」「靖国神社は政治的圧力のかかる神社。とにかく権力に迎合してはいけない」


・靖国神社を形骸化し、解体してしまおうとするのは、左翼だけでなく愛国憂国を装った自称保守の政治家こそが、実は靖国問題を深刻化させている張本人


・安倍晋三は自身のコアな支持層の人気とりのために参拝し、尖閣を巡って悪化した日中関係を極限まで緊張させている


・天皇陛下の靖国ご親拝の実現は不可能。代々の天皇は常に世界平和を望まれ、四方の海に波風が立つことを決してお望みではない。なので国際関係が悪化する首相は靖国神社に来なくていい


・ヘイトスピーチをやっている排外主義者たちが靖国神社を聖地扱いする傾向。アジア解放・大東亜共栄圏建設のために命をかけた英霊が多く祀られている靖国神社を排外主義者が聖地扱いすることは決して許されない


・靖国神社は国営化・国家護持しかない


・戦前も戦後も個人主義が未成熟な日本人は、「空気」に押し流される性向を克服できていない。国家神道は国民自らが作った空気が原因であって、神道そのものに危険性が潜んでいるわけではない