【私見~~安倍さんの政治理念の本質は国家主義と覇権主義にあり】
安倍晋三首相。この人はとても強い部分も弱い部分も持った人だなあって思います。
強い部分は、政界のサラブレッドであるだけでなく、1回目の挫折を経て2回目の自民党総裁に再登板し、2012年の衆議院総選挙で勝利して当時の民主党から政権を奪還し与野党逆転を果たし、強固な政権基盤を築いたこと。その意思の強さは一国のリーダーに相応しく、小泉政権以降毎年のように首相が代わる日本政治の不安定を食い止めた功労者でもあります。
安倍さんは、過去の自らの失敗・戦後日本政治の失敗の歴史をずいぶん研究分析していて、歴史の教訓を今に生かして日々政権運営をしているのだろうと想像します。そういう人は強い!
危機管理もそう。事件が起こったときは、ゴルフを中断して東京に戻っていることが何度かありましたし、定期的に東日本大震災の被災地を訪問したり、外交に熱心(もっとも中韓首脳会談がなかなか実現できてなかったり、いわゆる「中国包囲網」を構築したいという意欲が見受けられますが)なのも安倍さんならではです。
一方で、自らの生い立ちから関係が深い母方の祖父、岸信介歴代首相を特に尊敬していて、その教えや祖父の理念・方向性の影響を強く受けていてそれをもとにした自らの政治理念でもって今後の政治の方向性に繋げていこうという強い信念をお持ちです。自らが信じている理想と党・政権・国会運営・世論の現実を照らし合わせながら自らの信念を実現しようとしているように見えます。
岸さんは、戦時中は東条内閣の商工大臣の要職にあり、東京裁判ではA級戦犯容疑者でありながら、一流の処世術で公職復帰を果たし、首相にまでなりました。首相退陣の原因となった日米安保の改定も国民の大反対に遭ったものの、吉田内閣のサンフランシスコ講和条約時に締結した旧日米安保の著しい不平等条約の改定を果たしたのは様々な見方が存在するとしても一定の評価を与えられるべきであったと言えるでしょう。
その岸さんと孫の安倍さんの共通点があるとすれば、「大日本主義」。日本は第一次世界大戦の戦勝国でした。英仏米日伊が第一次世界大戦終結時の5大国でした。政治力・経済力・軍事力の世界・そしてアジアのリーダーとして覇権国としてのふるまい(いわゆる帝国主義)をした当時の大日本帝国の栄光を取り戻したかったのではないでしょうか。
安倍さんの一連の政治理念は、日本が過去の栄光を取り戻すための国家主義であり、再び日本が世界の覇権国になる覇権主義であることだろうと推察します。「戦後レジュームからの脱却」「日本を取り戻す」といった安倍さんのスローガンは、決して戦前を肯定する反動とまではいかないまでも、覇権国としての地位に近づきたいという強い意志の現れであることは間違いないものと思われます。
その夢は確かにもっともな部分もあるんです。気持ちはわかる。
しかしながら、結論としては日本がこれから世界の覇権国・アジアのトップリーダーになることは不可能ではないかと思います。それは、中国の台頭であり、中国がアジアトップの覇権国になるからです。
今の国連は第二次大戦での戦勝国「連合諸国」ですから、彼ら戦勝国すべてが認めるふるまいをするために、まず歴史を正面から向き合うことを日本がせまられているからであり、アメリカの傘からどううまく友好関係を維持しながらも、脱却していくかというとてつもなく大きい壁が控えているからです。その壁を超えないと日本の常任理事国入りは至難の業と言わざるを得ません。しかも人口と経済成長の限界が見えてきている。
私は、大学時代ジャーナリズム論のゼミに所属していまして、そのゼミのテーマは「石橋湛山と小日本主義」でした。戦前ジャーナリストだった湛山が「小日本主義」という、日本が天然資源に乏しい島国国であるがゆえに覇権主義ではなく世界の経済に貢献し自らも豊かになる軽軍備の通商国家を志向していたことはよく知られています。まさしく、「小日本主義」が戦後日本の平和と繁栄の国是ではなかったでしょうか。
皮肉にも、石橋首相は首相就任後の体調不良で自らの政治理念を政策に移すことなく、おそらくは対極の政治理念を持つ岸さんが後任の首相となったことは歴史の皮肉ですが、石橋首相が長期政権を保っていたら高度成長期を迎えた日本の理念的支柱がどう変わっていたのでしょうか。
覇権主義を目指している?国家主義者安倍さんのいくつかの政治理念・政策は理念として無理があり、実現がかえって困難になるのではないかと心配しています。
安倍さんの弱点と個々の政策に対する私的な所見は後ほど。