民法条文研究~錯誤~ | やぱたんのブログ

やぱたんのブログ

専門学校で20年超講師をしている行政書士・宅地建物取引士です。
また公務員対策として経済・財政、民法、憲法、行政法分野も担当しております。
宅建試験情報、行政書士試験情報、公務員試験情報をはじめ、経済・財政分野の記事も書いてまいります。

 

  権利関係第8回

 

 11)錯誤とは何ですか?

 

錯誤とはいわば「勘違い」のことです。

(錯誤)

第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

一.第1項、第2項

✅錯誤に基づく意思表示は「取消し」できます(95条1項柱書)。

✅この取消しは、錯誤に気付いてから5年、錯誤に気付かないまま20年経過すると言えなくなります。

(取消権の期間の制限)

第126条 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

✅ただ、錯誤というのは錯誤をした張本人(表意者という。)にしか分からないことが多く、相手方としては突然の「取消し表明」に不測の損害を被る恐れがあります。

そこで、民法は95条1項の1号および2号に該当する錯誤で、

法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき

のみ取消しを認めています。

つまり、「些細な勘違い」による取消しを認めていません。

この「重要性」は、

勘違いがなければ表意者は意思表示をしなかったし、
同様の勘違いがなければ、世間一般の多くの方が意思表示をしなかったであろう

という観点から判断されます(大判大正7.10.3参照)。

 

(1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤 

ローンが通ると信じて土地の売買契約書にサインしたが、まさかのローン審査落ちに遭ってしまい、買えなくなってしまった。お金の都合がつかないまま契約を続行しても債務不履行で訴えられてしまうからキャンセルしたい。

ローンが通らなければよほどお金持ちでない限り土地の売買をしようとは思わないですし、世間一般においても、お金についての算段がつかないまま土地を買うなどとは考えません。ローンが通らなければ土地を買うという意思も存在しないので、取消しできるということになります。

 

(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

近くに駅が新設されると聞き、きっと値上がりするだろうから今のうちに買っておいて、いずれ地価が高騰したら他人に譲って差益を出そうと、ある土地を購入する意思表示をしたが、結局新駅新設の噂は、真実とはならなかった。

✅従前の「動機の錯誤」とされたケースですが、錯誤の多くが動機であることを考慮すると、同機の錯誤にも取消しの余地が認められるものと考えられます。

✅ただ、表意者の動機は相手から見えにくいものなので、95条2項で修正しています。

前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

✅ここでいう「表示」というのは

明示的なもの(・・・だったら買う)

黙示的なもの(「・・・で買うんですよね」という発言にうなずくなど)

のどちらでもよいとするのが判例です。

通常は意思表示の縁由に属すべき事実であっても、表意者がこれを意思表示の内容に加える意思を明示または黙示したときは、意思表示の内容を組成し、その錯誤は要素の(=重要なものの)錯誤となり得る。(大判大正3.12.15)

動機が黙示的に表示されているときでも、それが法律行為の内容になることを妨げない。(最判平成元.9.14)

二.第3項

(1)原則

表意者に重大な過失があるときにまで取消しを主張できるとするのは、相手方の信頼を大きく傷つけますので、第3項柱書は、「錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、~意思表示を取消すことはできない」と規定しています。

 

(2)例外

✅しかしながら以下ケースでは表意者に重大な過失があっても、錯誤取消しを主張できるとしています。

相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

表意者の勘違いに相手方が気づいているので、相手方は「ひょっとしたら取消しされちゃうかも」と予測できます。不測の損害は生じません。相手方に重大な過失がある場合も同様です。

 

相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

相手方も表意者と同一の錯誤に陥っていた時、いわゆる共通錯誤の際も、相手方としては契約の法的拘束から逃れたいという思いは同じでしょうから、重過失のある表意者による取消しができます。「贋作と思って画廊に売却した絵画が実は真作だったが、画廊も同様にこの絵画が贋作であろうと信じてしまっていた」というケースがこれに当たります。

 

三.第4項

✅改正前民法では、第三者保護規定が置かれていませんでしたが、「欺罔行為による錯誤」で取消した場合における第三者保護規定である96条3項との均衡から、改正民法では、95条4項において、「錯誤について知らず(善意)、かつ、表意者は錯誤に陥ってはいないと、とことん信じた(無過失)場合」は表意者による取消しの効果を第三者に主張できないことになっています。