【マカダチ/海神宮にいるトヨタマヒメの従者】
@art.mochida.daisuke
『古事記』において海神ワタツミの娘トヨタマヒメの従者として登場するのがマカダチ(侍婢)です。このマカダチは個人名ではなく貴人に仕える従者、腰元のような役割の名称です。
山幸彦(ホオリ、ヒコホホデミ)は兄の海幸彦(ホデリ)の釣り針を無くしてしまい途方に暮れていましたが、そこに現われ次のように助言をしたのがシオツチノカミです。
「間无勝間(まなしかつま)の小舟に乗って海神ワタツミの宮に行き、その娘と会いなさい」
山幸彦がシオツチノカミから教えられた水道を小舟に乗って行くと、その言葉の通り魚の鱗のような造りをしたワタツミの宮があり、こっそり門から侵入し井戸の傍らにある桂の木に登って待っていました。
するとトヨタマヒメのマカダチが玉器(たまうつわ)に水を汲もうとやって来たところ、井戸の水面に光が映ったので傍の桂の木を仰ぎ見ると、麗しき立派な男(山幸彦)がいて、甚だ不思議だと思いました。
すると山幸彦は、そのマカダチに水を求めたので、マカダチは水を汲み玉器に入れて差し上げました。
ところが、水は飲まずに御首に懸けた玉を外して口に含み、その玉器に吐き出したところ、その玉は器にくっつき、マカダチは玉を離すことができませんでした。
そこで玉の付いたまま宮に入りトヨタマヒメにお渡ししました。
その不思議な玉を見たトヨタマヒメは、マカダチに「もしかして、門の外に貴人がいるのですか。」と質問し、マカダチはこのように答えしました。
「麗しき男の人がいて、井戸の傍の桂の木の枝に腰掛けています。わが君(海神ワタツミ)にも益してすごく貴い方でありました。
そして、その人が水を望まれたので水を差し上げたところ、水は飲まずこの玉を吐き入れましたが、これを器から離すことができないので、そのまま持ってきてトヨタマヒメ様に奉り差し上げました。」と申しました。
トヨタマヒメはその言葉を聞いて外に出て見たところ、山幸彦を一目見て心が動くのを感じ、見つめ合い、宮にもどり父に「私たちの宮の門のところに麗い人がいます。」と申し上げました。
今度はワタツミ自身が井戸まで出てくるや「あなたは天津日高(あまつひこ)の御子、虚空津日高(そらつひこ)にあらせられますことよ。」と驚いて言い、 直ちに宮殿内に招き入れ、海驢(あしか)の毛皮の畳(たたみ)を八重(やへ)に敷き、さらにその上に絁(あしぎぬ)の畳を八重に敷き、その上にお座りいただき、 百取机代物(ももとりのつくえしろもの、＝多くのもてなしの料理)を用意し饗宴でもてなし、娘のトヨタマヒメとの婚姻の宴を催すことになりました。
このように山幸彦とトヨタマヒメの婚姻のきっかけを齎した存在としてマカダチが登場しますが、オオクニヌシとヤガミヒメの婚姻の予言をした稲羽の白兎と共通した存在とも考えられます。
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