~その20 特攻戦隊~ | 山本昭彦のブログ

~その20 特攻戦隊~

 

 

 

参加は自由ですが必ず参加していただくことになっています。

 

 

言語の法則を完全に超越しとる。

欧米人であればおそらく脳が腸捻転を起こす。

しかし我らが日本は、このフレーズを平気で使える国だ。

イマドキでは同調圧力というユルい表現が使われているが、

法律や条例や制度に関係なく

社会全体の雰囲気によって個人に参加や賛同を強要する、

こういう精神をファシズムと呼ぶ。

 

 

特攻はボランティアだ。

参加は自由である。

日本軍では、この参加の意思表明を志願と呼んだ。

昭和19年10月にフィリピンで初めて編成された神風特攻隊も、

その隊員はすべて志願者だった。

ただし、これは「行かせた者」の証言に基づく。

 

 

戦後になって「行かせた者」はそう口を揃えた。

「行かされかけた者」からは正反対の証言も出ているが、

事実がどうであったのか、それはどうでもいい。

全員が志願者であったというのが仮に嘘でもいい。

少なくとも私は、そこに納得できる理由を感じるからだ。

 

 

戦後日本は連合国軍の占領下に置かれた。

GHQの命令は、日本のあらゆる法律や道徳や習慣に優先した。

その時から独立の回復は日本人の悲願となった。

愛国心とかの観念的なものじゃないよ。

インテリだけがそう言ってたわけでもない。

女性が米兵にレイプされる。そんなの日常茶飯事だった。

しかし日本の警察が容疑者を逮捕することはない。

米軍のMP=ミリタリーポリスがそれをやる。

でもって容疑者が、

「アレは商売女だった。俺から5ドル受け取った」

必死こいてそう主張すればたいていは無罪放免だ。

日本人なら誰だって独立=主権の回復を望むだろう。

吉田 茂の国葬に対してそれほど文句が出なかったのは、

独立を達成した彼の功績を、国民の大多数が認めていたからだ。

 

 

戦争が終わった段階で、

連合国、特にアメリカ合衆国は日本をどう見ていただろう。

ルーズベルトは開戦を決定した日の演説で、

日本海軍をジャパニーズインペリアルネイビーと呼んでいる。

うまいよなーこのオヤジ。

市民国家である合衆国の人びとにとって、

帝国とはもっとも嫌悪され否定されるべき国家体制だ。

それを盛り込むことで国民の共感は10割増しになるだろう。

ルーカスだってそういう文化の中で育ったひとりだ。

そんなアメリカ人の目にカミカゼはどう映ったか?

 

 

帝国とは、あくまでも一般的な認識としてだが、

それは専制君主が権力と軍事力で国民を支配する国だ。

人間は歴史に学ぶ。

欧米の民主主義者にとっての専制君主の代表は

市民が革命によって打倒したルイ16世やニコライ2世だ。

そして帝国や皇帝を名乗ってこそいないが

本物よりそれっぽくて、しかも最悪なやつがヒトラーってことになる。

だからルーカスの銀河帝国はまんまナチスやんか。

当時のアメリカ人なら、

とーぜん日本の皇帝=英語にすりゃ同じ もそんなものと思う。

 

 

カミカゼはインペリアルネイビーの命令によって実施された。

合衆国がそう認識することは、

帝国の絶対権力者であり命令者であったヒロヒトこそ、

体当たり自爆戦法を強要した極悪非道の専制君主であるはずだと、

そう確信することだ。

そうなると独立問題はちょいとややこしい話になる。

 

 

ポツダム宣言は、

日本に対する降伏勧告ではあったが、同時にそこには、

降伏した日本が、将来その独立を回復するための条件が、

あらかじめちゃーんと盛り込まれていた。

「日本に民主的な政府が成立したら占領軍は撤収する」

という一項がある。

 

 

さてそこでだ。

天皇が国民に死を強制できる絶対権力者であったなら、

日本は西洋史観で言うところの絶対王政の国だったということになる。

そこに新たな民主国家を成立させるには、

専制政治の核である皇室を解体しなければならない。

天皇は絞首刑か銃殺か島流しにでもしなければならない。

ということになるわな。

なので。

 

 

ちがいますよ。特攻はボランティアでした。

完全志願制でした。強制されたやつなんかいません。

ましてや陛下が命令したとかありえない。

みんな国を守るために自ら進んで特攻に参加したんですってば。

てな具合に、テッテ的に口裏を合わせる必要があった。

「行かせた者たち」の恥知らずな嘘にも、

そんな武士の一分がある。理外の理がある。

私はそう解釈している。

 

 

ついでに書き留めておくが、

特攻が個人の意思ではなかったにしても

それを命令したのが昭和天皇だったということはありえない。

私は勤皇主義者ではないし彼の人を弁護する義理も持たないが、

当時の天皇にそのような権限が付与されていなかったことは

歴史上の事実である。

 

 

と、ここまでアレコレ弁護したので言い切ってしまうが、

特攻が完全志願制だったなんてでたらめの嘘っぱちのでっちあげだ。

「行かされかけた者」の証言を持ち出すまでもない。

第八特攻戦隊司令官。

清田が受けとった辞令の官名が何よりの証拠だ。

 

 

戦隊と言ったって、

ナントカ戦隊ヤッタレヤーとかの戦隊とは意味が違う。

それは国家の公式な組織名だ。

れっきとした制度上の集団に与えられた名だ。

特攻戦隊という公式名称は、

国が特攻を公式戦術として組織化したことを証明している。

過ちを承知で日本は走り続けていた。

 

 

102号はそのまま第八特攻戦隊に所属することになった。

出口たち乗組員にとっては、

今までは戦いに勝つことが仕事だった。

それが自らの生存の可能性を高めることにもつながっていた。

しかしこれからは、戦って死ぬことが仕事になったのだ。

出口さんはそのことを、山本家の人びとに話したのだろうか。

それについては、私は彼に問うていない。

 

 

次回 穴掘り塩づくり に続く