艦長ウンコフスキー大佐 | 山本昭彦のブログ

艦長ウンコフスキー大佐

記事の内容はタイトルに暗示している。

いつ読もうが自己責任。

 

 

日露戦争のとき日本海軍に広瀬武夫という若い士官がいた。

「坂の上の雲」 でもメインキャスト格。

決死の作戦に率先して志願し、

沈み行く船の中で行方知れずとなった部下をギリギリまで探し、

ついにそこで戦死する。死後進級で中佐。

その敢闘精神、責任感、部下思いの情の深さなどが

海軍士官の模範として喧伝され、軍神と称えられ軍歌にまで謳われた。

 

 

文太郎さんは広瀬中佐を好いていた。

息子たちに良く彼の話をした。

正確に書くと、息子たちに、良く、彼の、おんなじ話を繰り返しした。

しかしそれは、先に述べた勇壮悲壮な英雄譚ではなかった。

 

 

彼の死の10年ほど前。

日清戦争に勝利した日本は、

賠償の一部として得た清国海軍のふねを日本海軍に編入した。

その中で最大最強だったのが戦艦 「鎮遠」ちんえんだ。

 

 

当時まだ下っ端士官だった広瀬が、

たぶん旅順か大連かで鎮遠に乗り込むことになった。

正式な職名は知らんが、彼が率いていたのは、つまりおそうじ部隊

鎮遠は連合艦隊との戦闘で損傷し、

かつ清国敗戦前後のゴタゴタでまともな整備なんかされていない。

だから艦内はけっこう毛だらけ猫灰だらけ、ついでに便所は糞だらけ。

お偉いさんが乗り込む前にキレイにしとけ、という命令だった。

 

 

広瀬の部下たちはその便所の汚さに戦慄した。

常にピカピカに磨き上げられていた日本海軍のそれとは天地の差。

便器には自主規制がべったりで地肌が見えぬほど。

足下にも自主規制がこんもりでハエがたかっている。

なぜそうなるのか想像するとワヤになるが、左右の壁にも自主規制。

 

 

広瀬は率先して便器の前にかがみこみ掃除を始めた。

便器にこびりついた自主規制はタワシでこすったぐらいでは落ちない。

彼は素手のままそれに爪を立て、こそぎ落として磨いた。

 

 

文太郎さんが広瀬ばなしで息子たちに繰り返し教えたこと。

「人が嫌がることを誰よりも進んでやれ」

エエ話やろ。だけど息子たちはげんなりだ。

 

 

文太郎さんの教えは確かに立派だイイことゆうてはる。

だけどそれを、その時の彼らの現実に当てはめるとこういうことだった。

息子たちは親の野良仕事の手伝いをするのが嫌だった。

その中でも何が嫌って、肥タゴを担ぐのがいちばん嫌だった。

コエタゴがわからんか? ちょっと待て画像を探してやる。

ないわ。

 

しょーがないからこれで説明。

  これは水売りの図。肥タゴには普通フタがついていない。

 

 

ふたつの桶の中にはんことしょんがまざりあってペースト状。

しかも長期醗酵ずみだからすいーにおひがぷんぷん。

リズム良く歩かないと桶の中でハネたやつが手にも足にも。

あの祖父ちゃんだってそらやだわ。

 

 

 

江戸末期の日本と通商条約を結ぶ、

その一番乗りをペリーと争ったのが帝政ロシア海軍の提督プチャーチン。

彼が座乗する旗艦パルラダ。その艦長こそウンコフスキー大佐だった。

 

   この人な

 

広瀬は当然その名を知っていたはずだ。

鎮遠のべんじょそうじやりながら、きっと思い出していたに違いない。

それにしてもスゲー名前。

ウンコスキーと読んで笑ってるんだったら甘いぞ。

これはカンチョー・ウンコスキーと読むのだ。もういいってば。

 

 

さて今回こんなネタを持ち出したのは、

ソ連旅行の際に出くわした、かの国の当時のトイレ事情を述べるためだ。

リアルに描写したのではさすがにアレだからな。

なので広瀬ばなしを借りることにした。

 

 

広瀬の部下たちが戦慄したという鎮遠のトイレのワヤぶり。

まるで見てきたように書いているけどね。

そんなの坂の上にも書かれていないし、

文太郎さんの話だって私が直接聞いたわけじゃない。

かといって私のでっちあげでもない。

あの3行は、私がモスクワのオデッサ駅で見たまんまなのである。

 

 

おそらくケフィア由来の、生涯最凶の下痢に苦しんでいた私は、

当然のこととして頻繁にトイレに行く必要があった。

しかもオデッサ駅では病状を悪化させるような真似ばかり。

よしゃいいのにファンタオレンジは飲むわ、

人々のアメリカ文化への憧れに付け込んだ

食パンにソーセージを挟んだだけの自称ホットドッグは食うわ、

好奇心って奴は体に良くないことを臨床実験中だったからな。

 

 

ソ連のトイレは当然ながら洋式便器だ。

その便座に自主規制がついてるんだぜ。どないせーと。

日本なら京急品川駅のトイレがうんこまみれなのと同じこと。。

公徳心に欠ける、で説明できる問題かコレわ?

私が考えつく理由はひとつしかない。

 

 

社会主義の国にはこういう思考というか論理というかがある。

たとえばトイレなら、汚れていてトーゼン。

なぜならそれによってこそ、トイレ掃除の仕事が発生するからだ。

あらゆる労働は革命における人民の崇高な義務だ。

その仕事の担当者を楽にしてやろうなどと考えることは

ブルジョワ的発想であり反革命である。

 

 

まさかと思うかも知れんがね。私も自信はないが。

あのパリでだって犬の糞が歩道にゴロゴロ。

マドモアゼルあなたのワンちゃんの忘れ物をなぜそのままに?

ウイ私がそれを掃除したら、掃除係の誰かの職を奪うことになるからよ。

断っとくが洒落じゃない。フランソワは大マジでそう答えるだろう。

 

 

世界は広い。日本人のモラルなんざ1/70。

歴史は深い。戦後75年の価値観なんぞ1/20 当社比。

それを忘れないでおこう。