NHKの朝ドラ「あんぱん」の主題歌は結局、最後まで何と言っているのか、聞き取れないまま終わったのですが、「あんぱん」に続く「ばけばけ」の主題歌はなかなか味があります。「日に日に世界が悪くなる。気のせいか。そうじゃない……♪♪」。

 

 年末年始はインフルエンザに罹患し、40度以上の熱に苦しみました。どうやらゼミの望年会で発生したクラスターに巻き込まれたようです。十数年ぶりの罹患です。

 

 年が明け、日常生活に復帰し始めたころ、飛び込んできたのが、アメリカによるベネズエラ侵略のニュース。麻薬の密輸を口実にしていますが、巷間言われているとおり、石油利権の獲得、西半球にまで手を伸ばす中国への牽制、劣勢の伝えられる中間選挙に向けた、いちかばちかの賭け、あたりが真実に近いのでしょう。2022年以降、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザでのジェノサイドなど、「日に日に世界が悪くなる」のを実感してきましたが、トランプ第2次政権発足以後は、本当、「日に日に……」を実感する毎日です。

 

 トランプは2025年1月の大統領就任以来、パリ協定やOECD国際課税ルールからの離脱、WHO脱退、グリーンランド購入、ガザの高級リゾート化、パナマ運河の返還など次々とぶち上げました。USAID(アメリカ国際開発局)を実質上閉鎖。市民のデモを抑圧するための州兵や連邦軍の動員。2025年4月からは相互関税の発動。そして最近では、66に及ぶ国際機関からの脱退を指示しました。その中には、学生諸君にとって、世界経済論や開発経済論の講義でもなじみ深い国連貿易開発会議(UNCTAD)も含まれています。

 

 一国の政権転覆に向けた軍事介入というのは、こうやるんだよと、ロシアのプーチンに教え込むようなベネズエラ攻撃以後、イランへの軍事介入を示唆するわ、軍事力行使をちらつかせながらグリーンランドの購入を一方的に宣言し、反対するヨーロッパ諸国に追加関税をかけるわで、単独行動に邁進しています。「アメリカ第一主義」などと言いますが、トランプの頭の中は「アメリカ唯一主義」に染まっているのでしょう。「自由で開かれた」「ルールに基づく国際秩序」など、もはや風前の灯火です。国際法など必要ないと公言する人物がアメリカ大統領の地位にいるわけですから。文字通り、「ならず者国家」の本領発揮です。

 

 アメリカによる侵略後、高市首相は「ベネズエラにおける民主主義の回復と情勢の安定化」などと呟いていましたが、「民主主義の回復」が必要なのは、アメリカでしょう。三権分立や中央銀行の独立性、学問の自由が脅かされ、自国民に銃口を向ける軍隊派遣が実施されるなど、どこぞの権威主義国家と同じです。本ブログで何度か言及した「ファシズムの初期症候」は、ほぼすべて感知でき、もはや立派なファシズム体制と言えるのかもしれません。そうした体制のもと、格差は拡大し続け、麻薬蔓延、「絶望死」の温床となっています。

 

 ファシズムの初期症候など、わが日本も似たようなもの。というか、程度はともかく、アメリカの先を行っている面もあります。2012年12月以来、三権分立も中央銀行の独立性も揺らぎまくっています。日本学術会議委員人事への介入や防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度などによるにみられるように、学問の自由への侵害も長年続いています。

 

 そして、どさくさ紛れの衆議院解散、総選挙です。議員選出後、400日ちょいで解散総選挙というのは戦後3番目の短さ。内閣不信任案が提出されているわけでもない。国民に何の信を問うのか判然としない。そんな選挙が多額の税金を使って、またもや実施されます。理由はただひとつ。「支持率」が高いうちにやってしまえ、ということです。

 

 高市政権の高支持率の理由など、私のような政治の素人には、まったく分かりません。台湾有事をめぐり、高市首相が官僚の用意した原稿を無視した答弁を行ったもんで、対中関係は最悪です。中国からの旅行客激減、レアアース輸出規制、日本製品の輸入手続き遅延などによって、日本経済にはすでに実害が出ていますが、この状況が3年も続けば、千億どころか兆円単位の損失を被るでしょう(もちろん、中国経済も返り血を浴びますが)。

 

 「責任ある積極財政」などという「無責任」な財政運営は、円安・債券安をもたらし、庶民を苦しめる物価上昇をさらに加速させかねません。債券市場はすでに長期金利の上昇という形で反応しています。

 

 対米公約の軍拡は、防衛予算のGDP比2%どころか、3%、4%も現実味を帯びている。非核三原則の見直しどころか、「核兵器の保有」まで視野に入れている。軍需産業の成長を見込んで富裕層は株高で資産形成できても、庶民は貯蓄すらままならない。実質賃金は相変わらず伸び悩み、11カ月連続の下落。財界ですら推進を望む選択的夫婦別姓も、維新と組んで進めようともしない。ジェンダー平等の停滞は、生産性の向上にも悪影響を与えかねない。

 

 その一方、労働規制は緩和され、長時間労働にお墨付きが出る。周辺住民の避難計画、廃棄物の最終処分場問題などにケリをつけないまま、地震大国日本で原発再稼働・新増設を進める。裏金政治家の禊は、なぜか終わったことにする。国益重視の政権と言われつつ、反日的な統一教会の支援を受けた議員だらけの自民党……。

 

 高市政権の経済・政治・外交運営について問題を挙げればきりがありません。それでも、高支持率!国民はいったい何を期待しているのでしょうか。パンダもおらんようになるんやで!それでも、高市支持かいな、そこのお母さん!

 

 「日に日に世界が悪くなる」のは「気のせい」ではありません。今、ここにあるリスクです。

 

【最近いただいた本】

☆吉弘憲介『アメリカにおける産業構造の変化と租税政策―クリントンからトランプ、バイデン政権まで』ナカニシヤ書店、2024年、3200円;

 2025年、第2回「金沢大学宮本賞」受賞作。1990年代以降のアメリカの法人税制を丹念に分析し、税制と産業構造の変化を関連づけた労作。租税回避を可能とした税制はアメリカにおける脱工業化の進展につながり、米中対立の根源を生み出したのではないか。

☆『農業協同組合経営実務』通巻1000号記念誌刊行会『戦後農協史と『農業協同組合経営実務』』全国共同出版、2025年、4800円;

 記念誌刊行会代表の石田正昭先生よりいただく。農業協同組合の「経営」と「実務」に関する専門誌創刊は1946年5月という。農業、農業協同組合を取り巻く状況が厳しい今日まで公刊され、通巻1000号というのだから、そのこと自体に驚く。関係者の熱意と努力あってのことだろう。農業・農政・農協の変化を振り返る記念碑的出版。