自民党の裏金問題をめぐる議論で「尺」がとられ,国会でも,報道番組でもたいした議論にならないまま,ついに「重要経済安保情報保護法」が成立してしまいました。特定秘密保護法制定,国家安全保障会議創設,集団的自衛権行使容認と,先々代から続けざまに,日本国憲法に抵触するような悪法が作られてきましたが,このたび,公明や維新,国民はもちろん,立憲民主党の賛同(!)も得て,経済版特定秘密保護法ができあがりました。

 

 その昔,忌野清志郎はRCサクセションを率いて「空がまた暗くなる」を歌いましたが,残念ながら「空はもう暗くなっている」のかもしれません。

 

 たびたび指摘されることですが,今回の保護法の問題点は,概略,以下のようにまとめられます。

 

 まず,国会における正式な改正手続きを経ることなく,特定秘密保護法の内容を「防衛」「外交」「スパイ防止」「テロ防止」から,サプライチェーン管理やサイバー攻撃対応など,経済安全保障分野にまで拡大したことです。「特定秘密保護法の運用基準」の見直しを閣議決定(!)し,法案成立にまで持ち込みました。今に始まったことではありませんが,立憲主義をないがしろにする暴挙が繰り返されたわけです。

 

 第2に,政府による秘密指定を監督する仕組みが不十分であり,政府の違法行為が秘密指定されかねないこと,秘密指定された情報の公開時期が明示されないこと,公共の利益に関わる情報を公表した市民・ジャーナリストらの保護が不十分なことが挙げられます。

 

 第3に,秘密指定の範囲が法律で限定されないため,政府による恣意的運用の恐れがあることです。新法では,漏洩によって国の安全保障に支障を与えるものを「重要経済安全情報」に指定し,さらに機密性が高いと判断した情報は,漏洩時の罰則がより重い特定秘密保護法の対象になります。何が「秘密」になるのか,法律で明記されなければ,まともにビジネスもできません。

 

 第4に,セキュリティ・クリアランス制度のもと,経済安全保障上の機密情報(上記の通り,何がそれに当たるかは法律に明記されず)を扱う数多くの官民技術者・研究者が身辺調査の対象となり,プライバシーの侵害が起こりうることです。

 

 技術者・研究者などは,家族や同居人の氏名や国籍,犯罪や懲戒の経歴,情報の取り扱いに関する違反行為,薬物乱用,精神疾患,飲酒の節度(!),信用状態などの経済状況などが調査されます。国会では,「ハニートラップ」の危険があるので,個人の「性的行動」も調査対象になるのではないか,とか,政治活動,労働組合運動,市民運動まで調査されるのではないかといった論点が出されました。

 

 自由と民主主義を浸食しかねない悪法に対し,日本共産党やれいわ新撰組は反対しましたが,「よ党」「ゆ党」はもちろん,「や党」たるべき立憲民主党までもが,国際共同開発への企業の参画がよりスムーズになるという理由で賛成に回りました。大企業の労組を大きな支持母体とする政党など,そもそもこんな程度なのかもしれませんが,いやはや困った時代になりました。

 

 軍事研究を含め「国益」に奉仕させるべく,現政権は,日本学術会議を管理下に置く動きをやめようとしません。学問と研究の自由の外堀は埋められつつあります。大軍拡のうえ,自衛隊を米軍の「二軍」とする動きも着々と進んでいます。アメリカと安全保障政策を一体化させる方向にどんどん突き進む先に何が待ち受けているのでしょうか。