紆余曲折を経てきた本学経済学部推薦入試制度が今年から大きく変わります。 学部の募集定員は480名で、そのうち前期日程が140名、中期日程が240名、残りの100名が推薦入試による選抜となります。推薦入試はAタイプとセンター入試を使うBタイプに分けられ、それぞれ70名、30名の定員が割り当てられます。 すでにホームページ上で公開されていることですが、Aタイプは高崎市内者向けの地域推薦が15名、全国推薦40名、簿記・会計を選択する全国推薦が15名となります。大きな変更点は、全国推薦枠が広がったこと、県内推薦がなくなったこと、簿記・会計選択による推薦入試も全国に門戸を広げたこと、そして推薦入試の会場を高崎に限定したことです(今までは高崎の他、名古屋、仙台でも実施)。 Bタイプは、本学の推薦入試に初めて、4教科4科目のセンター試験を課すものであり、面接、センター試験の成績、自己推薦書、調査書により、総合的に判定します(地域政策学部でも、あとからこのタイプを付け加えましたが、面接は課されません)。 制度変更が入試全体にどのような影響を及ぼすかは未知数の部分もありますが、全国推薦枠を広げたことはプラスに作用すると期待されます。 私が赴任した頃の推薦入試といえば、県内の指定校から1名ずつ(たしか高崎市立女子高校だけは2名)推薦されたものを、面接等は課すものの、そのまま受け入れるという入試でした。大学側でふるいにかけるというシステムではなかったわけですが、推薦で入ってきた子たち(毎年27名ぐらい)は、おおむね真面目で、よく頑張っていたという印象があります。 その後は、指定校制度はおかしい、推薦入試でも大学がきちんと選抜すべきである、競争システムを導入すべきである、入学後を考えれば最低限の語学力はテストすべきである、全国推薦を導入すべきである、等々の意見が反映され、現行システムに移行し、そして上記の制度に至る、といった流れです(これらの意思決定には、私も専任教員の一人として参画してきました)。 推薦入試に関しては、さらなる改革を模索すべきでしょう。一定レベルの学生を早めに囲い込んでおしまい、ではなく、推薦入試で入ってくる子たちに対し、入学前のスクーリングを行なう、ぐらいのことは早急に制度化せねばならないでしょう。合格者に対しTOEICの受験を義務づけるとか、課題図書を読んでもらってレポートを提出してもらう(もちろん、コメントをつけたうえ返却して次なる学習に役立ててもらう)といったことは、本学でも早めに実施すべきです。大手私学では、すでに実施済みです。入学前スクーリングなんて、また雑用を増やす気かと文句を言う専任教員も出てくるでしょう。Bタイプの推薦入試において面接を行なうということにさえ(しかも、ずいぶん前に教授会で合意をみて、すでに公表されているにもかかわらず)、「面倒なことはやりたくない」などと、教授会で、平気で発言する輩がいるぐらいですから。18歳人口の動向を考えれば、今後は本学においても、推薦入試の重要性が、質的にも量的にも増していくと思います。スクーリングぐらいは、早く導入した方がいいでしょう。 このたび地域政策学部で、推薦入試に関し、大げさではなく、「歴史的な」決定が下されました。高崎経済大学附属高校に対して「5名の推薦枠」を設けるというものです。経済学部なら、そしてこれまでの歴史を考慮すれば、考えられないような決定です。「考えられないような決定」はこれまでにもいろいろとありましたが、今回は、隣りの学部の決定だから、と見過ごせないものがあります。附属高校に対して「5名の推薦枠」を設けるなど、「公立大学の理念」としても、「附属高校設置の経緯」からしても、「大学の長期的戦略」からしても、間違った決定だと思います。おそらく将来に禍根を残すことになるでしょう。 指定校推薦は、私学ではよくあるパターンですが、公立大学では、あまりありません。公立大学附属高校からの推薦など、全国的にみてきわめて稀な特殊ケースです。もちろん、ここには受験機会の公平性という原則への配慮があります。普通の公立大学は、こんなことはやらんのです。あえて例を挙げれば、昨年4月、神戸商科大学、兵庫県立看護大学、姫路工業大学を統合して出来上った兵庫県立大学が附属高校に特別推薦枠を設けています。しかしこれは、工学部、理学部、環境人間学部だけ、つまり、旧姫路工業大学の有していた姫路工業大学附属高校への推薦枠を引き継いだだけであり、経済学部、経営学部、看護学部などにはありません。わざわざ積極的に設けたのではなく、姫路工業大学の制度的「遺産」のようなものです。あるもんは、なくせへん、というわけでしょう。他の公立大学では、こんなもんはありません。公平性への配慮があるからです。高大連携は別の視点から検討されるべきことがらです。 附属高校設置の経緯からしても、おかしい!ていうか、そもそも公立大学の附属高校なんて、実はほとんどないんです。附属高校を持つことそのもの、設置することそのものが「異例」なのです。持つ理由がないんですもん。大学にとって。 じゃ、その異例なことが高崎経済大学でなぜ起こってしまったか。その大きな要因は、高崎市立女子高校のてこ入れです。それなりに伝統のある女子校だったのに、街中から浜川に移転し、時間を経るにしたがって、レベルが下がっていきました。その女子校を附属高校にして大学の名前で下支えしよう、というのが狙いだっただろうと思います。附属高校設置に関しては大学では大きな議論になりました。上述のように、そもそも大学側に附属高校を設置する理由はないし(あとづけ的には、いろいろ言われましたが)、附属高校なんて作って、推薦入試で大量に地元出身者を入れるつもりか。そんなことをしたら、レベルが下がるんじゃないか。大学の評価を下げるつもりか、等々。 高崎経済大学の歴史のなかでは、この推薦枠云々は、慎重のうえにも慎重に対処しなければならない問題です。「圧殺の森」の歴史があるからです。「圧殺の森」というと、学生運動の問題かと思われることでしょう。実際そのとおりです。ただ、なぜあそこまで本学において学生運動が盛り上がったのか。一部過激な学生が騒いだからではありません。それだけ大きな問題が学内にあったからです。一般的に言って、悪だくみをする各セクトが平穏な大学に入り込み、運動に火をつけるのではありません。問題のあるところに外部のセクトが入ってきて、火に油を注ぐのです。高崎経済大学は不正入学問題、その後は大手私学への身売り問題で騒然としていました。地元の子弟を入学させるために、まず聴講生として受け入れ、翌年本科編入させる、なんてことが行なわれれば、高崎経済大学でなくても、あのころの普通の大学なら、大きな騒動になるでしょう(もちろん、みんな、私が赴任するよりもずっと前の話です)。あのころと時代が違うのは事実ですが、「地元への推薦枠」というのは、こうした歴史もあって、慎重に対処せねばならない問題なのです。 こうしたことがあったがゆえに、附属高校をいざ作るときにも、附属高校といえども特別な推薦枠を設けないということになったわけです。推薦入試に関しては、他の高校と区別しない。特別扱いしない。これが附属高校を作ったときの「お約束」です。 高崎経済大学附属高校問題は、当時、全国ニュースでも取り上げられました。制度的には高崎市立女子高校の廃校、附属高校の新設です。ですから、同じ校舎、敷地を使いつつ、2年生、3年生は高崎市立女子高校、1年生は共学の高崎経済大学附属高校生で、違う校歌を歌う。女子高生の涙の訴えに教員の処遇問題も絡んで、ニュースのネタになったわけです。附属高校問題は、50年におよぶ高崎経済大学の歴史のなかでも一つの画期をなすものです。今回の決定も、です。 これらと絡んで第3点。附属高校への推薦枠5名の設定は、大学の長期戦略としても誤りです。地元に「安売り」しては、地元からは相手にされなくなる。これが高崎経済大学の置かれた状況です。現在、本学の在籍者の7割は群馬県外の出身者です。高崎市外者ということになるともっと比率が高くなる。つまり高崎市立でありながら、地元の子弟が少ない。これは、地元出身者が若干増えたとはいえ、今も昔も変わらない状況です。 でも、だからこそ、そこそこのレベルの地元の子たちが来てくれるのです。今の日本に残された数少ない全国型大学だからこそ、受けてくれるわけです。これが、隣りの太郎も花子も、誰でも入れるような大学なら、ちょっとできる子は東京に逃げる。一定以上のレベルを保った全国型大学だからこそ、地元の子を引き留めることができる。だからこそ、この全国型大学の良き伝統を存続させることが本学の長期戦略にとって、何より優先されるべきことなのです。そして、全国型大学であり続け、全国各地からこの高崎に若者を集め続けることが、(ほとんど唯一の)実質的「地域貢献」なのです(地域貢献の「ふり」ではなく)。 そのためには、きちんとした教育を施し、世の中に送り出さなくてはなりません。就職先のない大学に子供をやる親はいません。新学科の学年進行中であるにもかかわらず、また新たに学科増設を計ることが最優先課題でしょうか。学科を作るにしても、なぜ来年の4月にする必要があるのでしょう。なぜ急ぐのでしょう。まずは、今ある体制・カリキュラムのもと、今いる学生にきちんとした教育をすることが一番大事なのではないでしょうか。新学科を作るにせよ、なぜ「出口」が非常に心配な「観光政策学科」なのでしょうか。今春の卒業生の進路決定率(「卒業者」に占める「就職者」と「大学院進学者」の割合)は、経済学部と地域政策学部とでは5ポイント以上も差が開いてしまいました。志願者の減少傾向も覆りません。これらの事実は非常に重いと思うのですが、それとこれとは別ということでしょうか。 「大きなお世話だ。入試は学部自治に関わる問題だ。」と地域政策学部の偉い人たちは言うでしょう。でも、今回の決定は、センター試験の科目に何を使う、という類の問題ではないのです。歴史的経緯と現状を踏まえたうえで、大学と附属高校の関係をどのようなものにするのかという「全学的な問題」なのです。学部自治を振りかざし、附属高校への推薦枠を設定するなど、他大学なら評議会が歯止めをかけるでしょう。本学の場合は・・・。さて、どうなることでしょうか。 今は5名と言っていますが、時を経るにしたがい、10名、20名とならない保証はありません。今回の決定のポイントは、5名という数字や、評定平均をいくつにするとかというところにはありません。門戸をこじ開けたことに意味があります。何としても推薦枠を作りたいという人にとっては、ないところに枠を作ったことそのものに意味があります。数字なんて、今後いくらでも変えられるでしょうから。 自分たちはいったい何を決めようとしているのか。何を決めたことになるのか。それは大学の将来にとって、どういう意味を持つのか。それを学生や卒業生に堂々と説明できるか。経済学部でも、地域政策学部でも専任教員なら、いつも自問せねばなりません。授業時間割のなかで割り当てられた講義をこなすだけなら非常勤。専任教員は、大学運営に関し様々な意思決定を迫られます。赴任して、たとえば3年も経ったなら、「いろいろ分からないことが多くて」などと悠長なことは言っていられないはずです。分からなければ聞けばいい。アンテナを張ってさえいれば、いろいろな情報が入ってくるはずです。 気づいていない人もいるかもしれません。見て見ぬふりをしている人もいるかもしれません。「長いものには巻かれろ」式の人もいるでしょう。いずれにしても、高崎経済大学にとって歴史的な決定がなされてしまった。これが私の感想です。

メッセージ
就職率【矢野】
(2005-07-11 16:18:00)

『エコノミスト』2005年7月12日号での「就職率」の出し方は、「卒業者-大学院進学者」を分母とし、「就職者」を分子として計算しています。これでいくと、経済学部は74.2%、地域政策学部は67.9%となり、その差は、6.3ポイントに開きます。卒業時点での就職希望者を分母、就職者を分子とする「あげ底」の数字を出して、「就職率ほぼ100%!」なんていうのは、もはや通用しなくなっています。



逆戻り【矢野】
(2005-07-09 11:17:00)

 伝え聞くところから判断するに、隣りの学部の意思決定のあり方は、15年前、私が赴任した頃に近いものを感じます。時計が逆戻りした感じです。 上述した事柄は、公になっている数字、公開されている情報、歴史的事実、正式に決定されていることに基づいています。たとえば進路決定率。今春の経済学部の卒業者510名中、就職者363名、大学院進学者21名で進路決定率75.3%。地域政策学部の卒業者206名中、就職者131名、大学院進学者13名で進路決定率69.9%です。週刊誌などで一般に用いられる進路決定率はこうしたものであり、卒業時点での「就職希望者」で「就職者」を割る、というものではありません。



無題【新加藤派顧問】
(2005-07-08 19:29:00)

根源的に問う姿勢を大切にし、今後もラディカル路線を邁進していただきたい。



無題【信州りんご】
(2005-07-08 17:55:00)

行間というか、文脈も読んでしまいました・・・・大変ですね。なお推薦合格者ですが、>課題図書を読んでもらってレポートを提出してもらう>(もちろん、コメントをつけたうえ返却>これは外注できます。(ご存知だと思いますが) 能力も意欲もないような教員が、テキトーなコメントをするくらいなら、均質化のためにも外注は必要です。実際、いくつかの大学はそうしています。 念のため。  



これだけ内情【みやた】
(2005-07-08 16:38:00)

を書かれても大丈夫ですか、先生?もちろん、ある程度、公になっていることとは思いますが。逆に、ここまで書かれます状況、ご心労、拝察申し上げます。