今の日本において就活をする学生で、日本経済新聞を読まない人はほとんどいないでしょう。不偏不党であるとか、日本の現実がより分かるとか、とは思いませんし、財界の御用新聞だと言われれば、そんな気もします。それでも、ゼミ生には日経新聞の購読を勧めています。何かと役立つ新聞だからです。 「明日から就活なので、今日から日経を読む」というのでは遅すぎます。自分なりの読み方が身につき、内容がそこそこ理解できるようになるには時間がかかるからです。なので今は、就活まで1年を切った2年生に日経の購読を促しています。日頃の講義内容の理解にもつながりますから。 矢野ゼミで日経新聞というと、4期A君を思い出します。 「どうやらAが日経を取り始めたらしい。」そんな話がゼミ内でチラホラ。今よりも就活がのんびりしていた時代ですから、3年の早くから日経を取り始めるというのは、何らかのやる気を見せている証拠とこちらは受け取りました。噂を聞いてからは、ゼミでの議論の最中、「昨日の日経に載ってたよな」って、A君に話を振ることが多くなりました。 学生さんの場合、日経を「取り始める」のと「読み始める」のとではタイムラグ(?!)のあることが多い。そのラグを少しでも早く埋めるべく、「今日の1面に話が出てたけど、A君、解説してやって。」という感じで、ゼミではほぼ毎回指名することになりました。なかなか期待に応えてくれませんでしたが、「ニッケイのA」という言葉だけは(!)、矢野ゼミ内で確立されました。 しかしながら、そんなレッテルがいったん確立すると、格好ぐらいは付けなくてはなりません。だいぶ後ろの方から、遅れてではありますが、A君がその言葉を追いかけました。すると、それなりに話ができるようになるものです。少なくとも、1面だけでも読もうという習慣は身につきます。「ニッケイのA」という言葉に、A本人が追いついたわけです。 A君、今では立派な経営者であり、良きパパです。北海道で頑張っています。  就活真っ盛りの3年生(19期生)は全員、毎日、たとえ少しでも日経新聞に目を通しているはずです。もちろん、そうじゃないと困るわけですが、就活を終えた4年がダメですね。個人差はありますが、就職が決まってホッとしているせいか、卒論の執筆に時間を取られるからか、読めていない人が多いように思います。来年4月以降、日経抜きに仕事をするのはなかなか大変だと思うのですが、まあ、あとは本人の自覚しだいです(英語も、ね)。 3年生の場合、日経をたしかに購読してはいるのですが、全員、朝刊だけなんですね、これが。どうせなら、1ヶ月分、あと800円ほど足して、夕刊も取ってみてはどうでしょう。朝刊にはない、捨てがたい魅力があります。 もちろん夕刊でも、1面には最新の経済記事が載りますが、それよりも、いろいろなコラムや特集記事が面白い。深イイ話があったり、思わずメモったりする話が結構あります。 1面には一定期間、6人の執筆者が代わるがわるエッセーを書く「あすへの話題」があります。当ブログでも紹介したことがありますよね。朝刊には、匿名コラムの「大機小機」がありますが、夕刊には、署名コラムの「十字路」がある。たまに掲載される童門冬二の短いエッセーも好き。「人間発見」では、様々な分野の著名人が仕事と人生を振り返る。朝刊の「私の履歴書」や「交遊抄」もいいけど、こちらもなかなか味がある。 「漢字パズル」を1秒もかからず解けたときは、子供に、どや顔で自慢する。50も越えた今、「健康」欄も必読です。育児・子育て欄も、様々な取り組みが紹介されており、必ず読みます。作家や学者のエッセー「プロムナード」もよく読みます(今のシリーズは、森岡正博のファン)。最終文化面もほぼ毎日読みます。ついこの間の「こころの玉手箱」は、歴史学者・上田正昭先生のシリーズで、湯川秀樹博士(私のなかでは、博士というのが一番ぴったりくる人。次は鉄腕アトムのお茶の水博士!)とのエピソードなど、興味深く読みました。土曜日だけの「シニア記者がつくるこころのページ」も深イイです。 いろいろ書きましたけど、つまりは、日経の夕刊は面白いということです。朝刊だけだと、日経新聞は何とも無機質な感じがするかもしれませんが、夕刊と合わせ読むと、「新聞」らしくなるように思います。日経は朝刊だけだともったいない。就活中の3年生もぜひ、あと800円ほど足して夕刊を読みましょう。 経営者としていろいろな苦労を重ね、夫として、父として、そして年老いていく親を持つ一人の人間として、日々いろいろな思いを胸に生きているはずの「ニッケイのA」君。きっと、日経「夕刊」の魅力が身にしみて分かるようになっていると思います。【最近いただいた本】☆平川均他編著『東アジアの新産業集積―地域発展と競争・共生』(学術出版会、2010年、7200円): 名古屋大学国際経済政策研究センターの共同プロジェクトの成果。大部の書。どこから読もうか。大企業主導・金融主導のグローバル化、経済統合ばかりが注目されてきたようにも思うので、まずはF・Cマキト氏と平川氏の手になる第21章「共有型成長としての東アジア経済統合―日本のヴィジョンの再発見」からめくってみる。その次は、第11章から13章にかけての日韓中小企業金融の実証研究へ進んでみる。☆寺西俊一・石田信隆編著『自然資源経済論入門1 農林水産業を見つめなおす』(中央経済社、2010年、3600円): 一橋大学における農林中金寄付講座の成果。「自然資源経済論」という新たなコンセプトのもと、農林水産業とそれに立脚する地域社会の持続可能性について論じようとするもの。「農林水産業の役割を考える」「農林水産業の未来をひらく」と続くシリーズ本の第1弾。 日本においては、TPPをめぐる議論がこれから喧しくなるだろう。ターゲットとされるのは、もちろん農林水産業である。マスコミを使いながらのTPPキャンペーン(「これが最後のチャンス」「開国に備えよ」等々)が激しくなることが予想されるが、私たちはいろいろな視点を保持しておかなくてはならない。本書は、そうした視点のいくつかを提供してくれるだろう。

メッセージ
日経だけでなく【10期Y】
(2010-12-16 12:06:00)

今回お送りした本も必読だといっていただけると助かります。全国どこでも購入できます。アマゾンなどを使えば。q



RE:日経だけでなく【矢野】
(2010-12-17 13:23:00)

ということだそうです。みんな、お年玉で買ってください。



無題【名無し】
(2010-12-15 11:13:00)

 残念ながら北海道では、ニッケイの夕刊を読むことはできません。所詮、ニッケイも「東京の」新聞。地域間格差を象徴していると思います。 規制緩和を強く主張する一方で、新聞の再販制だけは維持でも守ろうとする。ただ、それでも地方は、ユニバーサルサービス(夕刊の配達)から除外される。2重に矛盾を感じます。 しかしながら、学生の皆さんにはニッケイを勧めざるをえない。3重の矛盾です(笑)。



RE:無題【矢野】
(2010-12-15 21:45:00)

 北海道では日経夕刊は読めないんですね。たしかに、ご指摘のとおりの問題がありますね。 「日経の夕刊を読みませんか」は、とりあえず高崎にいる現役学生諸君へのお誘いということにしておきましょう。



無題【おおあまちの4期Tです】
(2010-12-14 22:18:00)

こんばんは、4期Tです。懐かしい話題ですね、「日経のA君」。前回の2009年ゼミ総会は新型インフルエンザBCPで急遽欠席せざるをえず会えませんでしたが、次回はきっと再会できると楽しみにしています。日経の夕刊は、特に文化面の水準が他紙に比べて充実していて私も大好きです。様々な国・地域の人々と仕事をする時、自分の出身地のことと相手の生まれ育った国・地域のことを、音楽、芸術、宗教などの観点で知っておくことは、ビジネスを進める上で、お互いを理解しあい良い関係を築くことに繋がります。実務知識も勿論必要ですが、グローバルなビジネスをする機会が増えているいま、学生のうちにぜひ教養面も深めていただいて、社会で取り組むフィールドを充実させていただきたいと思います。



血縁【矢野】
(2010-12-15 09:19:00)

 ゼミ19期には、4期A君のいとこが在籍中です。彼が「ニッケイのK」になれるかどうかは、彼の精進次第。期待しています。 ちなみに……ゼミ14期Iさん、17期I君は、姉弟。14期Hさんのお父さんは高経出身。16期H君のお兄さんも高経出身(2人とも体育会本部員)。結構いるものです。