高崎経済大学産業研究所では、4年1サイクルの研究プロジェクトが順繰りで常時4つ回っていて、4年間の研究を終えたプロジェクトの報告書が毎年1冊ずつ出版されています。もう何十年も続いており、高崎経済大学が誇るべき事業のひとつです(単発の「イベント」、期間限定のプログラムではなく、この「続いている」ということが非常に重要です)。 先日公刊された産業研究所の紀要『産業研究』(47巻1号)に、私も加わっていたプロジェクトの成果報告書『地方公立大学の未来』(日本経済評論社、2011年刊)に対する書評が載りました(研究プロジェクトを終えたら、外部の専門家を招いて成果報告書の合評会を行い、書評を載せてもらうという「きまり」になっています)。 以前、ブログにも書いたとおり、私は本報告書に「地方公立大学にとっての卒業生の重要性―ゼミを媒介としたネットワークの形成」と題する論文を寄稿しました。 国公私立を問わず、全国の大学が「ホームカミングデー」を設定し卒業生を呼び込もうとしている、その意図や目的に現れているように、これからの地方公立大学にとって「卒業生ネットワーク」がいかに重要であるか、そうしたネットワークがいかにして形成されるかについて「試論」を展開したものです。「構成」は以下のとおりです。 はじめに 1 卒業生ネットワークの重要性に目覚め始めた国公立大学  (1)ホーム・カミング・デーの開催  (2)資金源としての卒業生  (3)現役学生の就職支援  (4)卒業生との交流―高崎経済大学の状況  (5)ステークホルダーとしての卒業生の同窓意識 2 同窓意識の涵養と卒業生ネットワークの形成  (1)学校的記憶の集合的再構成  (2)「社会関係資本」としての卒業生ネットワーク  (3)現代日本社会における同窓会、卒業生ネットワーク 3 地方公立大学における少人数教育システムの可能性―高崎経済大学の事例をもとに  (1)高崎経済大学経済学部におけるゼミ  (2)ゼミ活動―集合的記憶の「素」  (3)ゼミ活動の充実化―地方公立大学の戦略 むすびにかえて―ゼミ活動充実化を通した卒業生ネットワーク構築のために 依拠した枠組みは、パットナムやコールマン、バートらの「社会関係資本」論、船曳建夫氏の『大学のエスノグラフィティ』、黄順姫氏の『同窓会の社会学』などですが、論文のメインは、わがゼミ活動の歴史です。ですから第3節の(2)が一番ボリュームがあります。矢野ゼミの活動をもとに、「ゼミ」の様々な可能性を述べています。 言いたかったことは、次の一文に集約されています。 「学びの本質からしても、卒業生ネットワークの形成という意味からも、地方公立大学の未来にとってはゼミが重要であり、ゼミ活動の充実こそが、生き残り戦略の中心に据えられるべきである。ゼミの諸活動は、地方公立大学の人的・物的資源を活用することで十分豊かなものにすることができる。いまだ発展途上とはいえ、筆者のゼミ活動の例にも、その可能性の一端を見いだすことができるのではないか。」(156-57頁) 書評を寄せていただいた文部科学省のM氏は、拙稿へのコメントのなかで、「愚直なまでにクラシカルなゼミナール活動の充実」という表現を使ってくれました。まさに「わが意を得たり」という気持ちです。他のゼミがどうあれ、奇をてらうことなく、「骨太なゼミ」を心がけてきましたからね。卒業論文、進級論文、原書講読。これが柱です。この柱を中心に据えつつ、「ゼミという形式を成り立たしめ、その効能を高めるべくいろいろな『仕掛け』を工夫すれば、タテ・ヨコの関係が深まっていく。それが結果的に卒業生ネットワークの礎石になるのではないか」(157頁)。まさにこの「仕掛け」の工夫が、プロとしての我々専任教員に求められることです。本学において、私もいつのまにやら「古株」の一人になっていますから、本稿執筆時には、後輩諸氏への「参考資料」という意味もどこかで意識していたのかもしれません。 「愚直なまでにクラシカルな」ゼミ活動のおかげで、ゼミを通じた関係は卒業後も続きます。2年に1度のゼミ総会もそうですが、ときたま本ブログでネタにする「結婚式」なども、私と卒業生、あるいは卒業生同士が顔をあわす機会になります。 先日も、16期K君の結婚式で、久しぶりに16期生たちと会いました。卒業生とのネットワークの充実。地方公立大学云々よりも、私自身が楽しむ機会になっているのかもしれません。でも、ただ一つ問題なのは、懐かしくて、楽しすぎて、年甲斐もなく、はしゃぎすぎてしまうことです。今回も真っ昼間から飲み始め、2次会の途中に1.5次会をはさみ、2次会のあと、3次会!そして3次会では例によって「テレフォン・ショッキング」で弾けてしまいました。今回は、ゼミ生だけではなく、彼女やら奥さんやらがターゲットになり、話の流れで、私の妻にまで電話をし、居合わせた全員で挨拶する、ということになってしまいました。 年です。飲み過ぎるとダメですな。翌日から何日間か、体調不良でした。楽しいさなかでも、摂生への意識は忘れないようにします。卒業生たちとは長く交流したいですからね。【最近いただいた本】☆アリス・H・アムスデン著/原田太津男・尹春志訳『帝国と経済発展―途上国世界の興亡』(法政大学出版局、2011年、2800円): 重鎮アムスデンの初邦訳。私自身、待ち望み、楽しみにしていた。 第一のアメリカ帝国(国際政治経済学で言う“benevolent”なヘゲモニー国)は、冷戦という状況もあり、開発に向け、途上国にはいまだ政策選択の余地があった。しかしながら、ベトナム戦争、OPEC結成、そして累積債務問題勃発後登場した第二のアメリカ帝国(同じく“predatory”なヘゲモニー国)のもとでは、「ワシントン・コンセンサス」にがんじがらめにされた。 本書はアメリカ帝国の盛衰と途上国世界の興亡を重ねて戦後開発史を論じた名著であり、来年度の講義やゼミで言及する機会が多くなるだろう。