昨日は、今春卒業する29期生が謝恩会を開いてくれました。謝恩会が開かれるのは3年ぶりです。新型コロナのパンデミックにたたられ、27期、28期と2年続けて流れましたが、3月22日に群馬県の蔓延防止等重点措置が解除されたこともあり、できるかぎりの感染対策をして実施ということになったわけです。
 1期生から続けてくれている謝恩会は、ゼミとしての「卒業式」です。学位記の代わりに渡されるのは、それより「重い(?)」(実際に重い!)卒業論文集『経済学研究年報』(上製本・くるみ製本1冊ずつ)と文集『梁山泊』、そして私からの卒業記念品です。ゼミで卒業論文を書いた人だけが参加できるゼミの卒業式ですが、それはまた、先生抜きに、大学という空間を離れ、大学時代という時間を越えて、続いていくであろう「ゼミ」の「始業式」でもあります。ゼミの仲間とはこれからも、ことあるごとに集まり、語り合い、ともに学んでいくことになるはずです。
 謝恩会は、どの期も印象深いのですが、昨今の状況に照らすと、2011年の3月に卒業した18期生の謝恩会が思い起こされます。東日本大震災、福島原発の爆発直後で「計画停電」が実施される中、謝恩会は日中に行われました。ただ、やはり太陽が高いうちに「さようなら」では名残惜しい。というわけで、居酒屋「三幸」に頼み込み、ロウソクの火を灯しながら、飲み会を続けました。
 そんなことを思い出したのは、もちろん、まずは先日の地震後から続く電力の需給逼迫です。地震の被害がそれだけ大きかったということですが、明らかになったのは、一向に進まない電力改革、あるいはいびつな形で進む電力改革です。
 電力の販売は「自由化」が進んだものの、送電網は今なお地域独占の電力会社がおさえており、広域送電網の整備が遅れています。今回の地震で火力発電所が停止し、東京電力・東北電力管内で「電力需給逼迫警報」が発せられましたが、地震がどうのこうのというより、送電網を整備し広域で電力を供給し融通しあうという体制をとってこなかったことのつけが回ってきたわけです。電力需給逼迫警報から「計画停電」に至りかねませんから、18期生の謝恩会に思いをはせることになりました。
 保守派、財界による原発再稼働の動きも気になります。ロシアによるウクライナ侵略、それに伴う経済制裁、円安基調、そして今回の電力需給逼迫を受け、エネルギーの「安定供給」を図る方策として、原発再稼働が検討されているようです。
 ただこの状況で模索されるべきは、原発再稼働ではないように思います。なかなか進まない原発再稼働に業を煮やした勢力がウクライナ情勢や地震にかこつけて主張しているのですが、目指されるべきは再生可能エネルギー関連投資の増強とそれに向けた制度設計です。
 タカ派は、今般の情勢を受け、軍事攻撃を念頭に原発防衛を進めよ、自衛隊を活用せよと鼻息が荒いのですが、放射性廃棄物の最終処分のめどが立たず、攻撃対象にもなりうる原発は、廃炉を加速させるべきではあっても、本格的再稼働などありえないのではないでしょうか。自然災害に備えるための設備増強の費用がかさんでいるうえに、軍事攻撃に対処するための防衛費用も上乗せされれば、原発のコストはどんどん膨らみます。その非効率性・非合理性がますます高まるのです。
 電力需給の逼迫を抑え、エネルギー安全保障を確立し、炭素排出を削減して経済合理性も実現しようとすれば、広域送電網を早急に整備したうえ、再生可能エネルギーによる発電を増強する必要があると思います(省エネ技術や効率的蓄電システムの開発とともに)。広域送電網の未整備は、今回の地震に伴う電力需給逼迫警報発令をもたらしましたが、再生可能エネルギーの足も引っ張っています。
 九州電力ではすでに再エネ発電を止めることで出力調整を行っていますが、3月22日付の『日本経済新聞』で報じられている通り、2030年ごろには、北海道や東北でも再エネによる発電が出力抑制の対象となって、発電量の4割が無駄になるようです。
 ヨーロッパでの国境を越えた電気の融通がよく話題になりますが、日本全体をつなげば、遜色ないほどの仕組みを作れます。日本最大級のゾンビ企業である東京電力を含め、地域独占にこだわる電力会社、それを許す政治が大きな壁になっています。
 岸田首相は「再生可能エネルギーの一本足打法」という表現で、再エネだけではエネルギーの安定供給はできないかのように言いますが、再エネは不安定な「一本足」ではなく、太陽光、風力、地熱、小水力など、いろいろな「電源」があります。何を意図しているのか、いまだに原発をベースロード電源に据えようとするから、再エネ発電の出力を抑制するだの、軍事攻撃に備えるだのという話になるわけで、まずはこの発想を転換しなければならないでしょう。
 今春卒業の29期生とは、ゼミの時間を使って『日本と再生―光と風のギガワット作戦』(河合弘之監督/飯田哲也企画・監修、Kプロジェクト、2017年)を鑑賞しました。これに触発され、卒論のテーマを選んだ人もいます。
 卒業論文は、「人生」というタイムスパンでの「問い」に対する、言わば「中間的総括」です。滑り込みセーフの卒論で終わらせるのではなく、せっかくの「問い」です。これから、ずっと「問い」続けてください。ゼミの仲間とともに。
 昨日の謝恩会では、「研究室だより」の更新頻度をもっと上げてほしいとの要望が出ました。どこまでできるか分かりませんが、昨日はお世話になりっぱなしだったので、とりあえず今日ぐらい、ということで、更新してみました。

【最近いただいた本】
☆井上正夫著『東アジア国際通貨と中世日本―宋銭と為替からみた経済史』名古屋大学出版会、2022年、8000円;
 宋国内のみならず、日本や朝鮮を含め、東アジア各地に流通した国際通貨「宋銭」の研究を通じ、貨幣史・金融史に新たな光をあてた。文献の詳細な検証と経済学説の深い理解をもとに、地金価値ではなく、信用貨幣として流通した宋銭の機能、貨幣・金融制度に与えた歴史的影響を分析した大著。今年の出版文化賞を総なめしそうな予感がする。
 著者は私の遠縁にして、ゼミの後輩でもある。小学生の頃から交流があるので、本書の出版は本当に感慨深い。 「正夫、おめでとう。すごい本、書いたな。」コロナが落ち着いたら、対面で飲みたいものだ。