世界経済論Ⅰの講義がようやく「戦後国際秩序の構想」に入りました。このあと、「ケーキ好きの悪魔たちを集めたケーキ割り」の話や「紛争防止の黄金のM型アーチ理論(!)」などを挟みながら、ブレトンウッズ体制の説明に入っていきます。
 先週の講義では、第二次世界大戦という総力戦の悲惨さとその帰結について触れました。猪木武徳『戦後世界経済史』(中公新書)や吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)などを参考に、日本の物財やインフラの被害状況、軍民合わせて310万人の死者について話し、日本軍戦死者(非科学的・非合理的な作戦による戦闘死のほか、戦病死、餓死、自死、友軍による「処置」を含む)の9割が1944年9月のサイパン陥落以後の、いわゆる「絶望的抗戦期」に亡くなったことを伝えました。
 そして、権力者は気軽に「国を守る」だの、「脅威に立ち向かう」だのと口走るけれど、歴史が下れば下るほど、戦争で死ぬ割合は、軍人よりも一般市民が多くなることを、戦争とは老人が始めて若者が死ぬものだということを、戦争は始めるより終わらせるほうが難しいことを、話しました。「愛国心という言葉は悪党の最後の隠れ家である。」というサミュエル・ジョンソンの警句とともに。 学生たちは、日本がなぜ無謀な戦争を始めたのか、分からないと言うかも知れません。状況を客観的に分析すれば、アメリカを相手に戦争を始めるなどありえないことは分かっていたはずなのに、なぜ開戦に踏み切ったのか。戦況が悪化しているのに、なぜだらだらと戦争を長引かせたのか。なぜ後戻りできなかったのか、時代が違うので、理解できないと言うかも知れません。でも、なぜそういうことになったのか、腑に落ちる実例は、身近にあるようです。 いまだに多くの国民が開催に不安を表明し、専門家が(腰砕けながら、それでも)無観客開催を提言しているにもかかわらず、現政権は、観客を入れて東京オリンピックを開催することを決めました。国民の声も、科学的エビデンスも、お構いなしです。
 中止の可能性を模索しているのかと思ったら、とんでもない。何が何でもやるんです。感染状況によっては無観客も辞さないという、けっして選択しない選択肢をちらつかせて「中止」の選択肢を潰したうえ、観客を入れての開催という強行突破を図りました。今後も感染状況によっては「躊躇なく緊急事態宣言を発出する」なんて息巻いていますが、オリンピックはそのまま開催されるわけですから、感染防止という意味では、屁の突っ張りにもならないでしょう。
 緊急事態宣言下でもオリンピックを開催するというのが、IOCのけっして譲らない一線です。それを大いなる「レガシー」にする魂胆でしょう。パンデミック下でも、緊急事態宣言下でも、オリンピックをやったという実績づくりです。今後も、スポンサーやメディアを安心させる材料となります。リスクにさらされる日本国民、在留外国人はたまったものではありません。 人流増大だけではなく、選手村での文字通りの「濃厚接触」もあり、オリンピックを機に新規かつ強力な変異株が生まれる可能性は否定できません。それが世界に拡大すれば、影響は日本に留まりません。大丈夫でしょうか。
 各会場の観客は「収容定員の半分で1万人を上限」にするとのことですが、IOC関係者やスポンサーはその枠外!いったい何人が会場入りするか、やってみないと分からない。これでどうやって(警備を含め)大会運営を行うのでしょうか(感染症だけではなくテロ対策も心配です)。「学徒動員」される児童の実数も分からないし。 「水際対策」だ、「プレーブックの改訂」だ、「バブルへの封じ込め」だ、などと取り繕っていますが、実際にはザルにしかならないであろうことは、ウガンダ選手団の陽性者への対応で露呈してしまいました。「直行直帰」を謳いますが、上級コスモポリタンの優遇、ゆるゆるのルールで運営されるオリンピックを目の当たりにし、誰がそんなことを遵守するでしょうか。 ついこの前まで、「禁酒令」と「灯火管制」をしき、感染状況によっては「緊急事態宣言」を躊躇しないなどと言いながら、IOC関係者へのおもてなし(上級コスモポリタンだけだと目立つので一般人も飲めるように!)のためか、スポンサー企業への忖度からか、会場でのアルコール提供を計画しているらしいという報道には、ビックリ仰天です。 総じて、最優先されているのは、国民の命や暮らしでも、安心・安全でもなく、オリンピックの実施ということが明らかになりました。「安心・安全な暮らしを守るのが私の責任」とガースーは(こんなことすらメモを片手に)読み上げます。でも「責任は私にある」と口にしたところで、実際に責任を取った試しなど、アベ・スガの足かけ9年で一度もありません。 その昔、開戦の決定も、戦争の継続も、こんな空気の中で何となく決まっていったのかも知れません。
 専門家の提言を無視して観客入り開催を実施する以上、(誰もその責任は取らないでしょうが)ある程度の感染拡大は織り込み済みなのでしょう。こうなると、あとは神頼みです。
 第二次世界大戦末期、戦局打開を図るべく、あちこちの神社仏閣で、ローズヴェルトを呪殺する加持祈祷が行われ、思惑通り「成功」した(!)という都市伝説(?)があります。政権には神道政治連盟国会議員懇談会のセンセイもおられます。友党も「そっち方面」には長けているでしょうから、コロナ退治・オリンピック成功祈願があちこちで念じられることになるのかもしれません。合掌。

メッセージ
やはりご帰国を【yano】
(2021-07-19 13:51:53)

「棄国」ではなく、無事のご「帰国」を願っております。新規感染者はこの先しばらく拡大するでしょうから、8月末は結構な状況になっているでしょうが、それでも、帰国ということで。



ビミョーなところです(笑)【O】
(2021-08-05 18:06:22)

本当は居留期限ぎりぎりに出国したかったのですが、火曜日はうちの近所の空港から羽田行きが出ていないため、やむなく1日前倒ししました。航空会社は貨物が堅調とはいえ大変なようで、機材変更のため、当日は長距離国際線用のB787が来る予定です。
亡国は、国際線で貨物以外を運んでいいのだろうか?というほどの惨状になっていますね。急遽減便されたり、出国前のPCR検査で陽性になる可能性も0ではありませんので、庶務Aさんには、何かあったら予定通り亡国へ行けない旨、連絡しました。台北市でも飲食店内での飲食が解禁されましたが、自宅か研究室の自席以外で食事することは極力避け、感染しないように努めていますよ。



無題【O】
(2021-06-22 19:42:37)

ご無沙汰しております。こちらは、昨日から国内感染者が2桁にまで減りました。一時は1日の感染者数が500人を超えたこともありましたが、警戒レベル3(屋内活動5人迄、屋外活動10人迄、外出時のマスク必須[気温37度でも!]etc.いろいろ)の生活も6週間目に入り、効果が出てきたようです。CDCの定めた警戒レベルごとの内容が明確で、何をやってはいけないのかがわかりやすいですし、テレビのCMやFacebookなど、様々な媒体を通しての注意喚起が続きます。今は、有効なビザを取得済みの外国人ですら入国できませんし、桃園国際空港でのトランジットも全面停止中です。水際対策も含め、こちらの諸々の対策を見て、経験してきただけに、8月末に日本へ行くのが怖いです。



緊急事態宣言発出中……【矢野】
(2021-06-23 09:58:56)

8月頃だと緊急事態宣言が出されているかもしれませんね。デルタ株(いわゆるインド株)が感染の主流となり、あちこちにひそんでいると思いますので、帰国の際は十分お気を付けください。



無題【O】
(2021-07-07 17:53:37)

日本入国時のPCR陰性証明書は、亡国もとい某国専用フォーマットでなければまずいのですが、それに対応してくれる奇特な病院は、大都会台北でも限られています。万一予約が取れなければ、近隣の市まで出向くことになるため、必死で対応病院のHPを確認していました。いっそ入国拒否されて、台北に送還されるのもアリなんですけどね(むしろ歓迎www)。



某国の亡国【yano】
(2021-07-12 10:01:55)

 前期高齢者の仲間入りをしているはずの前首相が、自らの責任に思いをはせることなく、何の分別もなく、愛国と反日の2つの区分で全てを片づける幼稚性を発揮している国ですからね。その3回目の登板が一部で期待されているというのですから、「亡国」の日も近いのかもしれません。
 とはいえ、Oさんにおかれましては、何とか健やかに日々過ごし、無事帰国されることを願っています。



棄国希望【O】
(2021-07-15 09:30:31)

早いもので、警戒レベル3の生活も3か月目に突入します。台北市政府管内の陽性者数は、漸く10人を下回るようになってきました。また、亡国、アメリカ、リトアニアから提供されたワクチンのお陰で、優先接種の対象となっていない人にも間もなく接種が始まるようです(今日、ワクチン第三陣が成田からやってきます)。公共交通機関やスーパーでは、フェイスシールドやゴーグルをつけている人も珍しくありません。私も、スーパーでの買い出しにはゴーグルをつけるようにしています。そんなこんなで、台南市玉井のマンゴー祭りには行けず、離島旅行計画も計画で終わりそうです。そして…棄国しないよう気を付けます(笑)。