元・朝日新聞記者で現在フリージャーナリストの田中洋一氏による「歩く見る聞く90」(2023年5月28日付)がメーリングで回ってきました。本人許諾済みの回覧なので、当ブログでも転載します。
 政治屋「岸田本舗」の4代目が異次元の親バカのもと、国民の税金で公私混同生活を続けている中、日本の軍拡は着々と進み、そこに世界の軍事企業が群がってきています。 「軍産複合体に注意せよ。」 アイゼンハワー大統領の退任演説が思い起こされます。
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 初夏のような陽射しの今月25日、東京・赤坂のオフィス街に怒りの声が轟いた。「伊藤忠アビエーションは武器取引から撤退しろ。イスラエルの死の商人に手を貸すな。戦争犯罪に手を貸すな」
 同社は伊藤忠商事の100%子会社。ビルの前に陣取ったのは、STOP大軍拡アクションの10数人。政府の軍拡路線に反対する首都圏の市民グループだ。代表の3人が要請書を手に、4階の同社に入って行った。
 抗議行動の背景はこうだ。今年3月に幕張メッセ(千葉市)で防衛装備品の見本市が開かれた。その一角でイスラエルの軍事会社エルビット・システムズと日本企業2社の商談が成立して祝杯を上げている様子を毎日新聞が取材し、3月27日に電子版で報じる。
 エルビット社がどんな装備品を日本に売り込もうとしているのか、具体的にはよく分からない。毎日の記事はエルビット社を、「民生用・軍用双方に使える偵察用無人機『エルメス900』の製造などで知られる」と紹介している。
 記事は、今回の装備品の販売促進を伊藤忠アビエーションが、生産や保守管理を日本エヤークラフトサプライ社が担当する、としている。この記事を読んだ杉原浩司さん(57)は、自身が代表を務める武器取引反対ネットワークから、大軍拡アクションに加わる団体や個人に呼びかけ、この日の抗議行動に結びつけた。
 日本最大の防衛装備品の国際見本市(DSEI JAPAN)は、前回2019年の後はコロナ禍で延期されてきた。今回は防衛、外務、経産などの日本の省庁が支援し、66カ国の178社が出展した。入場できるのは防衛安保業界の関係者や官公庁職員、研究者、メディアにほぼ限られ、一般市民には非公開だ。
  「2019年の前回は何かの間違えで入場できた」と言う杉原さんは、今回の盛況ぶりに驚く。「前回はイスラエルからの出展は大手の3社だけ。それが今回は14社ですよ。日本の武器市場に群がっているとしか言いようがない」
 杉原さんら抗議行動の代表3人と伊藤忠アビエーションの面会は45分に及んだ。戻ってきた杉原さんによれば、会社側は概ねこう述べたそうだ。今年3月の見本市でエルビット社と覚書を交わしたが、それ以降の進展はない。契約は、防衛省がエルビット社の武器を買うかどうかで決まるので、様子を見ている状態だ。
 今後、エルビット社と契約するとしても、会社として積極的にプレスリリースはしない。経営企画部長氏は「防衛省が国民をお守りするための装備品の購入に協力している」との言い回しを繰り返したそうだ。国策に沿う商売をしている、ということだろう。
 この取引を働きかけたのは防衛省なのか、それとも伊藤忠アビエーション側なのか。その問いには、「お答えできない」だった。
 抗議に参加した63歳の男性に聞いた。「私たちの親の世代は侵略戦争の末に武器を捨てた。だが、政権党はもう一度戦えるように仕向けている。それに乗っかる経済活動ではいけない」
 この日、一行は日本エヤークラフトサプライ社も訪ね、会社前の路地で横断幕を広げる。メガホンで「パレスチナの侵略に手を貸すな」「直ちに契約を破棄しろ」と約30分繰り返した。事前には要請書の受け取りを拒否していた同社だが、管理本部長氏が受け取るところまで市民側が押し戻す一幕もあった。
 このような直接的な抗議行動はどんな効果があるのか。「好ましくない事業をやめさせるための一環です。出来る限りプレッシャーをかけて潰しておかないとタガが外れる」と杉原さん。
 とはいえ相手は企業で、簡単に手を引くとは考えにくい。杉原さんが重視するのは、否定的な評判が広がると企業の信用やブランドにヒビが入るという考え方だ。「死の商人になるのか、と言われれば社員は気にする。日本企業にとって武器関係の比重は高くないという事情もある」。さらに学生の就職人気に傷が付きかねない。
 昨年12月に閣議決定した安保関連3文書によれば、政府は今年度から5年間の防衛力整備に、現行計画の1.6倍の43兆円を充てる。「防衛」を踏み外す恐れがあるので、軍事費と呼ぶべきかもしれないが、今年度の防衛費予算は6兆8千億円台に上り、前年度の1.3倍になる。2027年度にはNATO並みのGDP2%の水準を目指す。
 防衛力の増強には、敵の脅威圏外から撃つスタンド・オフ・ミサイルによる敵基地攻撃能力の獲得がある。専守防衛の理念から外れる恐れのある武器輸出にも政権は道を開こうとしている。
 かつての武器輸出三原則は安倍政権下の2014年、防衛装備移転三原則と形を変え、分野を限って輸出を解禁した。それをさらに緩和して、殺傷能力のある武器の輸出も認めるか否かを焦点に自民と公明の与党協議が先月始まった。
 軍事費の膨張ぶりを軍事研究の観点から注視しているのが小寺隆幸さん(71)だ。軍学共同反対連絡会の事務局長を務めている。
 今年度の防衛省の研究開発費は、前年度の3.1倍に当たる8968億円に膨らむ。項目別にみると、スタンド・オフ防衛能力の整備が突出している。ここには米国製巡航ミサイルのトマホークの輸入や国産ミサイル12式地対艦誘導弾の開発・量産が含まれる。音速の5倍以上で飛ぶ極超音速誘導弾の研究も予算化されている。
 小寺さんは、軍事研究開発費の膨張が大学や民間の研究者に及ぼす影響を憂慮している。防衛装備庁は大学や民間の基礎研究を対象とする安全保障技術研究推進制度を2015年度に始め、今年度は112億円を計上している。
 さらに、基礎研究の成果から有望な先進技術を早期に育成して装備品(=武器)につなげる枠組みに「先進技術の橋渡し研究」がある。今年度の予算は188億円で、前年度の21倍にも跳ね上がった。防衛装備庁は「先端技術を防衛目的で活用することが死活的に重要」で「民生先端技術を積極活用する」とサイトで謳う。
 軍事目的に誘導する研究開発費は急膨張している。その一方、国立大学の運営費交付金や私学への助成、そして従来からの競争的研究費である科研費はほぼ横ばいだ。
 こんな時代だけに小寺さんは研究者に覚悟を促す。「兵器と直接には結びつかないとされる研究でも、軍事的に応用される可能性があることを考える責務がある。自らの研究が軍事目的に使われた時に何が起こるのか、真剣に想像すべきだ」