またまた「台風」が近づいています。かなり強力なようです。未確定の部分があるとはいえ、今年豪雨で被災した地域も進路予想上にありますから、さらなる被害が生じないか、心配です。 私は来週早々、青森出張です。高校での出前授業です。フル規格新幹線での移動なので大丈夫だろうと思うのですが、何があるか分かりませんからね。天気予報を見守ります。 首相官邸も今回の台風に注目しているでしょう。沖縄県知事選を控えているからです。台風直撃で投票率が下がれば、組織票頼みの安倍首相にとって好都合でしょう。かなり露骨な組織固めが行われ、期日前投票に行かせているようですから、昔の森喜朗と同じく、「投票日、浮動層の皆さんは寝ていてくれ、家でゆっくりしていてくれ」と願っているでしょう。 浮動票を獲得すべく、かなり無理な公約を掲げているようですが、公約などむなしいものです。2012年の総選挙の時、安倍自民党は「ぶれない」われらはTPP反対と言っていたのに、その後、大した情報公開を行うことなく、議論も尽くさず、強行採決にもっていきました。アメリカ離脱でTPPは流れましたが、二国間交渉、日米自由貿易協定の交渉を恐れる日本は、その後、TPP11を急ぎました。最近では、米中貿易摩擦への懸念もあり、各国と協調しながら何とか多国間ルールを再建する方向も模索していますが、予想外の動きをする「トランプ台風」を前に、どこまで議論を進められるでしょうか。 総裁選に勝利した安倍首相は国連総会に乗り込み、「所信表明」のような演説を(堂々とトランプ批判を展開したフランス大統領マクロンと違って、いつもどおりカンペを見ながら)行いましたが、日米二国間交渉ではおそらく大幅な譲歩を強いられることになるでしょう。TPP以上の譲歩はしない、日米二国間の自由貿易協定交渉はしない、と国内向けには相変わらずの虚勢を張っていましたが、完成車輸入にかけられている2.5%の関税(トランプは25%の課税をちらつかせています)を死守するためなら、何でも差し出すと思います。 まずは農産物。TPPにおいては聖域5品目を守ったと自画自賛していましたが、ぎりぎり守ったかに見える、そのごくわずかの領域さえ、風前の灯火です。コメの関税はさらに下がり、輸入枠は拡大するでしょう。そして中国に売れなくなった大豆を引き受けさせられるでしょう。BSE問題はあっても牛肉は関税が(少なくとも対オーストラリア並みに)引き下げられ、輸入が拡大するでしょう。TPP交渉の時に懸念された食品安全性の問題が再び出てきますが、自動車を守るためなら何でもするはずです。どんな順番でカードを切るか、だけの問題です。 兵器もいっぱい買うんでしょうね。当初1基800億円と小野寺防衛大臣が説明していたイージス・アショアはいつの間にやら値段が2基2352億円に跳ね上がりました。これには1発40億円の迎撃用ミサイルの費用、敷設にまつわる費用は含まれませんから、配備まで最終的にいくらかかるか不明です。2013年の防衛計画大綱にも中期防にも入っていなかったイージス・アショアの購入を、対日貿易赤字にいら立つトランプのご機嫌伺いのため、2017年12月に急遽配備を決定した安倍政権は「安全保障」を口で言うほどには考えていないのかもしれません。 2018年版『防衛白書』では、「わが国のほぼ全域を射程に収めるノドン・ミサイルを数百発配備している」として北朝鮮の脅威をあおり、イージス・アショアの配備がいかに重要かを説いてます。そして、イージス・アショア導入により「我が国を24時間・365日、切れ目なく守るための能力を抜本的に向上できる」と述べるわけですが、これは「珍説」ではないでしょうか。いざ戦争となり、ノドンを数百発配備している北朝鮮が本気でミサイルを撃ち込めば、2基で定数24発(1発40億円のミサイルを24発、即配備できたとして)の迎撃ミサイルを保有していても(たとえ命中率100%でも)撃ち落とせません。 そもそも日本のミサイル防衛の最大の弱点はミサイル迎撃用のミサイル段数が極度に少ないことだとされています。そうした状況下、本気でミサイル防衛能力を高めようとするなら、イージス・アショアに何千億円もかけるよりミサイル弾数を増やす方が安全保障上、まだしも合理的である、というのが軍事評論家・田岡俊次氏の見解です(「『陸上イージス』の説明は誇大広告とまやかしの連発だ」『ダイヤモンド・オンライン』2018年9月13日配信)。 もちろんここでは、だからミサイルを何百発も買えと言っているのではなく、そんな事態が起こらないように手を尽くせということになるのですが、いずれにせよ、イージス・アショアに金をかけるのは、配備に時間がかかっているうちに技術の陳腐化が生じる可能性も含め、安全保障上、無駄だとの見解を示す専門家が多いということなのです。 そして、カジノもアメリカ資本に解放されるでしょう。ラスベガス・サンズのアデルソンをはじめ、カジノ産業のボスたちはトランプ大統領への大口献金者です。訪日外国旅行者を増やすんだ、富裕層を呼び込むんだ、長期滞在させるんだ、それによって地域を活性化するんだ、と政権は意気込むわけですが、おそらくはこうしたアメリカ大資本に利益を掠め取られるだけで終わるでしょう。日本に残されるのは、依存症に悩む多くの人たちです。 大きな被害をもたらす「台風」には要注意です。でも、いつも書くように、「安倍台風」にも気をつけた方がいい。こちらの進路予想も大事です。自然の猛威の前に、人間はか弱い存在でしょうが、安倍台風にはそれでも立ち向かえるはずです。向こう3年間、政権を率いる可能性が高い安倍晋三への注意を怠らないようにしましょう。憲法改正の国民投票に向け、ありとあらゆる手段を尽くすはずです。【最近いただいた本】☆西部忠編著『地域通貨によるコミュニティ・ドック』専修大学出版局、2018年、2800円;☆Georgina M. Gomez, ed., Monetary Plurality in Local, Regional and Global Economies, London and New York; Routledge, 2019. ; 両方とも、仙台高専に専任職を得たM君(12期)からいただいた。学部卒業論文の時から長く地域通貨を研究してきた彼も寄稿している。 地域通貨は資本主義の様々な弊害、難局を乗り越える、非常に大きな可能性を秘めた考え方、制度である。学説史上も様々な研究がなされ、実験的試みには今も昔も大きな注目が集まっている。管理・運営上、「難点」とされてきたものは、昨今の技術革新により、かなりが克服可能になってきたようだ。私も、ぐんまみらい信用組合の経営諮問会議で、飛騨信用組合の「さるぼぼ」を紹介したことがある。地域活性化の試みは現在の日本でも各地で行われている。その実態を研究し、今後を展望している労作だ。