2022年2月24日以降、日本では、ウクライナ戦争を台湾海峡の有事に結びつけるニュースが、軍事・安全保障の専門家による解説付きで、「大本営発表」のごとく繰り返されてきました。そして、台湾有事がいつのまにか日本の有事となり、防衛費拡大が喫緊かつ必須の対策であり、既定路線であるかのように喧伝されてきました。危機を煽り、惨事に便乗して、平時には実現困難な政策を一気に推し進める「ショック・ドクトリン」(ナオミ・クライン)が日本社会を飲み込もうとしています。
 アンヌ・モレリが『戦争プロパガンダ10の法則』で端的にまとめているとおり、戦争当事国は、様々な手を尽くして自国の大義を正当化し、敵国の非道を叫びます。いったん戦争が始まれば、両サイドで、自国の正義を国内外に訴えるプロパガンダ、情報戦が展開されます。戦闘の続くウクライナをめぐっても、虚実入り乱れ、本当のところ、今何が起こっているかは判然としませんが、ハードパワーを信奉する勇ましい人々は、ここぞとばかり危機を煽ります。「日本も危ない!」と人々を不安に陥れ、どこぞの宗教のように「洗脳」しながら、大軍拡を推し進めようとしています。やりくちは、某宗教団体と同じです。
 「新時代リアリズム外交」なるものを掲げる岸田文雄首相は、2022年5月、バイデン大統領との会談を経て、防衛予算の対GDP比2%の5年以内実施を発表し、大規模軍拡路線を明確にしました。第2次安倍政権以来、防衛費は年々拡大してきましたが、2023年度予算では、積算根拠が不明確なまま、過去最大の5兆5947億円が概算要求されました。
 岸田首相は、バイデンとの「公約」実現に向け着々と準備を進めています。最近では、今後5年間の防衛費の総額43兆円という「数字」が当然のごとく掲げられ、何にどれだけ使うのか、具体的目的が示されていないにもかかわらず、マスゴミは、その大本営発表を垂れ流すのみです。日本は、アメリカのように「普通に戦争する国」に近づきつつあります。「統合抑止」をキーワードに、単独ではなく同盟国を巻き込み、宇宙・サイバー・電磁波を含め、様々な領域で仮想敵に対峙しようと目論むアメリカの思うつぼです。
 一般に「同盟のジレンマ」と言われますが、ウクライナ戦争は、アメリカの同盟各国内において「巻き込まれる恐怖」より「見捨てられる恐怖」を煽り、軍備拡大を後押しする効果をもたらしているようです。元首相・麻生太郎は、ある講演のなかで、台湾有事を日本の有事と叫び、「自分の国は自分で守るという覚悟がない国民を誰も助けてくれることはない」と「見捨てられる恐怖」を強調し、日本の軍備拡大を正当化しています(『朝日新聞オンライン』2022年9月1日配信)。
 麻生をはじめとする保守反動勢力は、ウクライナ戦争から「自分の国は自分で守るという覚悟がない国民を誰も助けてくれることはない」という「教訓」を引き出そうとします。私にはその中身がよく分かりません。安全保障の素人たる私には、自国の領土で、自国民を犠牲に、外からの武器供与というドーピングによって、先の見えない代理戦争を続けることの悲惨さこそが、ウクライナ戦争から引き出されるべき「教訓」のように思われます。
 「聴く力」だけではない、いろいろな力の足りなさを露呈している岸田首相ではありますが、バイデンとの約束には忠実に耳を傾け続けています。2022年6月、歴代首相として初めて(!)、わざわざNATO首脳会議に出席しました。日米の共同軍事訓練もこれまで以上の頻度で行われるようになっています。2022年の1月から7月で、前年同時期の5割増し、前々年同時期からは倍増したうえ、8月のリムパックでは、「存立危機事態」を想定した訓練も行われました。集団的自衛権の行使可能な状況を想定しているわけです。
 こうして日本では、ショック・ドクトリンのもと、「見捨てられる恐怖」が煽られ、既成事実が積み上げられている状況です。 
 今月末までには、「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」という3文書の改定が予定されています。改定に向けて、防衛省の概算要求には、「スタンドオフ防衛能力」「総合ミサイル防空能力」「無人アセット防衛能力」「領域横断作戦能力」「指揮統制・情報関連機能」「機動展開能力」「持続性・強靱性」の7項目を柱とした、予算額を明示しない「事項要求」が数多く盛り込まれています。防衛省『我が国の防衛と予算―令和5年度概算要求の概要』では、これら7本柱や、「共通基盤」とされる「防衛生産・技術基盤」「人的基盤」強化などが謳われており、23年度防衛予算は、6兆円を超えると予想されています。年末までの3文書改定で具体的に何が書き込まれることになるのか、注視し続ける必要があるでしょう。
 日本政府はまた、「防衛装備品の移転」(きちんとした日本語に訳すと「武器輸出」)について、いっそうの規制緩和も検討しています。Quadメンバーの3か国のほか、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンといった、個別に「防衛装備品・技術移転協定」を結んだ12か国については、戦闘機やミサイルなどの大型兵器でも輸出できるよう画策しています。軍需産業を成長戦略の一角に据えたアベノミクス以来、目指されてきた政策がますます強化されているわけです。
 以上、要するに、「力による現状変更」を企てる中国などを念頭に、来るべきハイブリッド戦争に備え、宇宙・サイバー空間での防衛能力の強化、敵基地攻撃能力の保持、継戦能力の向上を実現するため、日本政府は防衛予算を大幅に増大しようとしています。そこに統合抑止というアメリカの意向が反映されていることは各種報道から明らかでしょう。
 「専守防衛」を大きく逸脱し、日本が「普通に戦争する国」に転換しつつあるにもかかわらず、政府処方のショック・ドクトリンが奏功しているのか、参議院選挙前の各種世論調査によれば、防衛予算の拡大はもとより、敵基地攻撃能力の保有まで是認する国民が相当数に上っていました。防衛費の増額、敵基地攻撃能力の保有について、たとえば『毎日新聞』の世論調査(2022年5月24日配信)では、それぞれ76%と66%、『産経新聞』・FNN合同世論調査(2022年5月23日配信)では、63.0%と64.7%の国民が「賛成」と回答しています。
 この国、本当に大丈夫でしょうか。大本営発表を唯一の「現実」ととらえていると、国民は大きな代償を払うことになるでしょう。冷静に考えれば、「現実主義」に基づくとされる政策の実現には、様々な壁が立ちはだかります。国民はしっかり「現実」を見据えなければなりません。
 東アジアの安全保障環境が急変しているとされるなか、「敵基地攻撃能力」の保有があたりまえのように叫ばれています。これ、本当に大丈夫ですか?
 日本政府や与党、ゆ党は、「反撃能力」なる言葉を編み出し、これを専守防衛の原則とも両立しうるものとしています。我慢の限界まで耐え忍び、ついに反撃に出るという、シャープ兄弟に立ち向かう力道山的な、はたまた「倍返し」の半沢直樹的なレトリックで国民を丸め込もうとしていますが、私たちは「敵基地攻撃能力」の意味を冷静に考えるべきではないでしょうか。
 政府のいう「反撃能力」行使には3条件があるそうです。第1に「日本への武力攻撃や他国(←どこの国や?)への攻撃で日本の存立が脅かされる明白な(!)危険があること」、第2に「国民を守るためにほかに適当な手段がない(!)こと」、そして第3に「必要最小限度の(!)実力行使にとどめること」だそうです。自民党はこの3条件でもって公明党を丸め込みました。これにゆ党が乗っかるのは予想どおりですが、あろうことか、立憲民主党まで容認しようとしています。日本が「普通に戦争する国」になる日は、すぐそこまで来ているのかもしれません。
 ミサイルを迎撃するのは、どんどん難しくなっている。だから、ミサイル発射前に、相手に攻撃を思いとどまらせるしかない。そのための敵基地攻撃能力の保有なのだというのが政府・与党・ゆ党の理屈ですが、どのタイミングで、どこを、どのように攻撃するというのでしょうか。
 反撃能力の対象は「軍事目標」に限定するとしていますが、自民党内では、指揮系統の中枢を含めるべきとの声がやみません。実際に「反撃」すれば、攻撃対象は拡大していくでしょう。
 軍事目標といっても、移動可能な鉄道車両や艦船などからミサイルが発射される場合もあります。ピンポイントで攻撃できるでしょうか。行使のタイミングとして「敵による攻撃着手の確認後」とされていますが、そんなの正確に判断できるでしょうか。こちら側が「攻撃着手」と判断しても、その判断が誤っていたら、こちら側の先制攻撃(国際法違反!)となり、攻撃の口実を相手に与えます。「間違って撃ってしまいました。ごめんなさい」など通用しませんから、本格的な戦争が始まります(パールハーバーと同じ!)。
 「必要最低限度」の反撃といいますが、「やられたら、やりかえす」がエスカレートすれば、最低限度のレベルはどんどん上がり、普通に戦争が始まり、泥沼化するだけです。
 要するに、敵基地攻撃能力の保有とは「普通に戦争する力」を増強するということであり、相手からすれば、どんな「条件」がつけられていても、軍事的脅威が高まったという認識に至るだけのことなのです。
 軍備拡大には、日本国憲法との整合性はもちろんのこと、「財源」が現実的問題として浮上します。経済成長による歳入増など、先進国というより「衰退途上国」のごとき今の日本では、まさに画餅です。したがって、防衛費をNATO基準で算定し、海上保安庁予算やPKO予算などを防衛予算に組み入れるなどして、対GDP比2%(約11兆円)の数値目標に少しでも近づけよう(バイデン怖いし……)などという「数字合わせ」も模索されるのですが、それだけでは足りません。対GDP比2%を達成(米中に次ぐ世界第3位の軍事大国を実現!)するには、国債の発行、増税、もしくは歳出改革(=他の予算の取り崩し)といった手段が必要になるでしょう。ただ、いずれも容易ではありません。
 主なき安倍派を中心に、自民党内では、国債発行で賄えという意見が多いようです。しかしながら、先進国最大の累積財政赤字を抱える日本で、これ以上の国債発行は持続可能でしょうか。日本銀行にいつまで実質的なマネタイゼーションを強いるのでしょうか。下手をすれば円の暴落を招き、輸入インフレが深刻化して、戦争どころではなくなります。財務省財政制度等審議会が冷静に分析しているように、持続可能な財源なしに防衛予算を賄うことは、それ自体、継戦能力の土台たる経済を不安定化するでしょう。
 じゃ、他の財源の取り崩しを含め、歳出改革で賄うのでしょうか。財務省は無駄や余剰を洗い出すと言っています。具体的には、財政投融資特会の積立金、外為特会の剰余金など特別会計の活用、大手町プレイスなど国有財産の売却、コロナ患者受け入れのために準備した国立病院機構・地域医療機能推進機構の積立金、さらには東日本大震災復興財源などを想定しているようです。これらを勝手に防衛予算に組み入れるのもどうか(目的外使用ですからね)と思いますが、それでも目標には足りません。
 したがって、5年間で43兆円の防衛予算を獲得するための不足分を年間1兆円の増税で埋めるつもりでいるようです。こんなものは、自民党の選挙公約にも入っていません。またしても騙し討ちです。岸田政権は、国民の反発が少ないと目される(?)法人税増税を念頭に置いているようですが、景気の先行きが読めないなか、増税すれば、賃上げの実現など、さらに遠のきます(おそらく設備投資も)。所得税や消費税でなければ、国民も増税を受け入れると思っているのかもしれませんが、国民の納得と合意を得るのは、それほど簡単ではないはずです。
 仮に、当面の財源を確保し、めでたく軍備を拡大しても、安全が保障されるとは限りません。日本国憲法の禁を破り、敵基地攻撃能力の保有まで踏み込めば、仮想敵国の反発を招き、本ブログでいう「ギエロン星獣問題」、一般的には「安全保障のジレンマ」に嵌ります。軍拡競争は、GDP比2%で収まらないほど泥沼化するでしょう。
 軍備がどれだけ増強されようと、予算や戦略上の都合によって、簡単に忘れ去られるのが「一般市民の命」です。日本においては、テロなどを念頭に置く「国民保護法」(2004年施行)はありますが、有事の際、国民をどう保護するのか、どう避難させるのか、明確な計画は定められていないし、予算も充当されていません。2022年度当初予算において、国民保護法関連は内閣官房、消防庁合わせて6億円にすぎないのです(『日本経済新聞』2022年9月9日朝刊)。 
 有事における市民の保護・避難計画をまともに整備しないまま、批判を抑え込み、既成事実を積み上げるのは、軍備も、原子力発電所再稼働・新増設・建替も同じです(原発は「トイレなきマンション」であり「非常出口のないマンション」であり、ウクライナ戦争で明らかになったように「攻撃対象になりやすいマンション」です!)。太平洋戦争時における沖縄をはじめとした日本各地や外地の悲惨な経験、歴史が物語るように、いざ開戦となれば、市民の命を守る術はありません。市民の命と財産を守る最善の方法は、軍備増強ではなく、戦争をしないことです。
 こうした現実に直面してなお、軍備拡大、敵基地攻撃能力に賛同するなら、19世紀イギリスの歴史家トマス・カーライルの語った「この国民にして、この政府あり」が現代の日本でも実証されたことになるでしょう。
 さらに付け加えれば、そもそも防衛予算が確保できたとして、必要な物資を思惑通り調達できるかどうかも、定かではありません。
 2022年5月、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」、いわゆる「経済安全保障推進法」が可決・成立しました。4本の柱とされているのが、①「特定重要物資」の安定的な供給の確保(サプライチェーンの強靭化)、②特定社会基盤役務の安定的な提供(基幹インフラのサイバーセキュリティ)の確保、③「特定重要技術」の開発支援、④特許出願の非公開(!)です。
 ただ、国内法でどれだけ特定重要物資の安定的供給の確保を唱えても、輸入に頼らざるをえない状況がある以上、ただそれだけで実現するわけではありません。また、グローバル・バリューチェーンが拡大している現在、法律内で「経済安全保障」の概念定義もなされないまま、経済安全保障推進法の運用が「厳格に」行われれば、企業経営は「恣意的に」著しく制約されることになります。
 さらには、高市早苗(経済安全保障担当大臣)が同法に「スパイ防止法」に近いものや「適格性評価(セキュリティクリアランス)」を盛り込むべきと吠えていますが、このままでは、戦前日本の秘密特許制度復活、「軍産官学複合体」形成、さらには学問・研究における自由の侵害などの懸念も浮上します。日本学術会議問題や安全保障技術研究推進制度に鑑みれば、単なる杞憂として見過ごすわけにはいきません。これらについて、政府は着々と手を打っており、もはや外堀は埋められています。
 「経済安全保障推進法」という国内法で、どれだけ特定重要物資・特定重要技術の調達・保全を定めようと、実現が難しいのはもちろんですが、アメリカ主導の「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に乗っかれば大丈夫かというと、それも怪しい。「フレンドショアリング」と言っても、そもそも、どこが「フレンド」国なのか、事前には定かになりません。COCOMの復活版と言うべき「フレンドショアリング」なる国際経済関係の構築には、多大な困難とコストを伴うことになるでしょう。東西冷戦時代とは、世界経済の状況は、まったく異なります。
 バイデン大統領は、TPP復帰が選択肢にないなか、IPEFを掲げ、各国に参加・協力を呼びかけました。2022年9月の閣僚会合で、「貿易」「供給網」「エネルギー安全保障を含むクリーン経済」「汚職防止を含む公正な経済」の4分野において、とりあえず交渉開始に向けて合意したわけですが、中国への対抗策がどれだけの実効性を担保できるかは、まったく不透明です。
 周知のとおり、アメリカ以外の参加13カ国にとって、関税交渉がなく、アメリカ市場の開放を望めない状況下、IPEFにそれほど大きな実利は期待できません。中国に対抗しようにも、13カ国の貿易依存度は、いずれもアメリカより中国の方が高いというのが現状です。日本最大の貿易相手国も、アメリカではなく中国であり、中国から日本への輸入の8割が2か月間途絶するだけでGDPの約1割、約53兆円が消失します(『日本経済新聞』2022年10月18日朝刊)。アメリカ自身が2021年の対中貿易は史上最高額を計上しています。
 「半導体」は産業の「コメ」どころか、今や「心臓」と言ってよいでしょう。軍備拡大にも必須のアイテムですが、これひとつとっても、中国外し、サプライチェーンの再構築は容易ではありません。ある日の日経の記事を斜め読みするだけでも、それは明らかです。
 「国内回帰」により供給網を再編しようにも「半導体製造の裏側には、驚くほど精密な製造プロセスと必要不可欠な数百の原材料、化学薬品、消耗部品、工業用ガス、さらに機器や原材料を供給するネットワークが存在する。」「単なるパイプに見えても、フッ素重合体という特殊樹脂製で、基準が上がり続けている製造施設で用いられる腐食性の化学薬品や超純水に対応している」。「半導体製造過程のどこにも、深い専門化が必要ない部分はほとんどなく、供給網のどの部分も二重化ですら簡単ではない」(『日本経済新聞』2022年8月7日朝刊)。
 アメリカにおけるCHIPS法の成立は、半導体サプライチェーンの再構築を迫りますが、日経の記事にあるとおり、中国とのデカップリング(ゼロ・チャイナ!)の実現に向けたハードルは高そうです(「ゼロ・コロナ」が非現実的で「ウィズ・コロナ」に転換したように、「ゼロ・チャイナ」ではなく「ウィズ・チャイナ」が現実的選択肢でしょう)。
 上記のごとき簡単な実例からも明らかなように、財源やサプライチェーン・マネジメントなど、経済合理性を越えて、安全保障を実現するのはきわめて困難と言わざるを得ません。経済が衰退しつつあるなか、国民生活を犠牲にしながら軍備拡大を行うのでは、近くにある、どこぞの国と同じです。民主主義国において軍の論理の暴走を食い止めるには、財政支出に対する国民の監視が不可欠です。
 世の中を見渡すと、国内民主主義を実現できず、軽視すらしている民主主義国が「民主主義対権威主義」を、中ロに対峙するための便利なスローガンにしています。アメリカ側について軍備を拡大するため「活用」しているわけですが、このままでは「安全保障のジレンマ」が深刻化し、潤うのは軍需産業ばかりとなりかねません。
 『週刊エコノミスト』2022年5月17日号は、ロシアによるウクライナ侵攻後のアメリカにおいて、主要防衛産業の株価上昇率がS&P500の平均を超えた状況を報じています。バブルとも称される日本の防衛予算をめぐる企業の動きについては、『週刊ダイヤモンド』2022年8月27日号を参照してください。岸田政権による大軍拡路線を受け、12月9日の東京株式市場では、三菱重工、川崎重工、IHI、東京計器、日本アビオニクス、細谷火工など、軍需産業株に半年ぶりの高値がつけられました(『日本経済新聞』2022年12月10日朝刊)。アイゼンハワーが危惧した「軍産複合体」への懸念は、日本でも高まっています(現実には「軍・産・官・学・金・報」複合体ですけどね)。
 怒りに任せ、つい長々と書き連ねてしまいました。とにもかくにも、良い子のお友だちはショック・ドクトリンに惑わされないようにしましょう。ウクライナ情勢ひとつとっても、大本営発表ばかり鵜呑みにしないようにしましょう。まずは、そのあたりがショック・ドクトリンに篭絡されないための第一歩です。
 2022年2月24日以後のウクライナに限定せず、時間軸と空間軸を少し拡大して俯瞰すれば明らかなように、戦争に至るまでには様々な要因が複雑に絡み合っています。キンバリー・ケーガン率いるネオコンのシンクタンク「戦争研究所」による情勢分析が垂れ流されがちな日本では、往々にして忘れられていますが、NATOの拡大やマイダン革命などにはアメリカのネオコンが主体的に関与してきました。ショック・ドクトリンの解毒剤として、まずは、下斗米伸夫『プーチン戦争の論理』(集英社インターナショナル新書、2022年)の一読から始めてみてはいかがでしょうか。 共同通信が12月9日に報じているように、防衛省はAIを使った「世論工作」の研究に着手したようですから、本当に注意する必要があります。記事には、インターネットで影響力のあるインフルエンサーが無意識のうちに防衛省に有利な情報を発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事で特定国への敵対心を醸成、国民の反戦・厭戦の機運を払拭したりするネット空間でのトレンドづくりを目標にしているとあります。大手広告代理店並みの戦略構想ですが、これ、すでにやっているかもしれませんよ。AIを使っているかどうかは知りませんが。