4日目は最も厳しい区間で、予定では25時間ほどかかる見込み。

Tさんのアドバイスでも「2日目なんて目じゃない、4日目がメインディッシュ」とのこと。

 

 

標高330mのDonnasから2224mのコーダ小屋まで上がり、あまり想像したくないギザギザした区間を40kmほど進む。

初の100マイル超えを試される区間でもある。

(なんかトンガリすぎ。登れるのか・・?)

 

 

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D3-21:25

夜の中、Donnas(150km)を出発。ここから2000mほどの標高を一気に登る。

未だ100マイルにも届いていないが、足には着実にダメージが蓄積されている。

もし、この足で100マイルをスタートしますか?と聞かれたら迷わずDNSすると思う。

 

深夜の市街地を少し登り基調で進んでいく。

すれ違う車がクラクションで応援してくれてストックを上げて挨拶。(日本だったらうるさーーいって周りがいいそう)

 

中世風の石造りの橋のたもとでエイドチェックを受ける。ここから登りが始まる。

1600mもの直登だ。

 

この登りがとにかくエグい。エグいを超えて、日本三大急登なんか目じゃない。

廃村の間を抜けるうねうねした細い道、というより階段が延々と続く。

 

お、抜けた!と思うとロードを挟んで、また同じような細道に入る。

これを何回繰り返したのかわからない。またエンドレスループだ。

空気も淀んでいて埃っぽい。多分、壊れた牛小屋などからあまり良くないものが出ている。

そして時間も深夜12時。

 

全く景色の変わらない鬱蒼とした登りが4時間位続く。

足よりも精神的にかなり削られた。

 


D4- 2:30ようやくエイド Sassaにつく。

このあたりになると、かなり周りの人もへばっている。止まると寒い。

倒れるようにエイドの椅子に座り、温かい紅茶をのむ。

 

そして眠気が半端なくくる。さっきのエイドできちんと寝なかった代償だ。ここまでの3日でも結局3時間くらいしか寝ていない。

食欲が殆どないが、エネルギーを入れないと本当に動けなくなって寝てしまうので、手持ちのジェル数本を一気にまとめて飲む。

 

一瞬だけ目を閉じて眠っているところ、TさんとUさんが来る。エイドで軽く補給してさっと出発していった。元気だなぁーと、ぼんやりと見送る。

 

30分くらい休んで、少し回復したところで登り始める。また似たような景色と急峻な登り。

すぐに眠気が再来する。

 

そして、本格的な山塊に入ると、今度はガレ気味の道に。ただ周りが開けているので、気持ち的にはだいぶ開放される。やはりあの区間は空気の流れもかなり淀んでいたのだろう。

 

 

空が開けたことの代償として 寒い!!

体感温度はいきなり一桁台になる。

 

Coda小屋(2224m)をとにかく目指す。ここで寝られると聞いてたからだ。

 

しかし、なかなか見えず。寒い中縮こまりながら粛々とすすむ。冷たい小雨も降り始める。

フードに叩きつけるバチバチと当たる雨風の音に、極度の眠気が襲ってくる。ペースはこれまでの半分以下に落ち、キロ20-30分もかかるペース。

 

夜明けが近づいてきたタイミングでようやくかすかな灯りが見える。Coda小屋だ。

 

倒れ込むように小屋に入る。

 

「眠りたいけどベッドある?」

「1時間オンリーね。起こすからね」

「OK」

 

2段ベッドに案内される。

いそいそと上段に潜り込んで、やっと寝られる、と思ったら

 

くさっ!!

 

そりゃそうだ。雨が降る中、汗まみれのランナーたちがそのまま寝ているベッドだ。自分は毎エイドでシャワーを浴びてるけど、浴びてない人も沢山いるだろう。

新しいバフを出す余裕もなく、自分の汗まみれのバフで口を塞いで我慢。

 

人間慣れるもので、20分くらいしたら気にならなくなり眠りに落ちる。

野生レベルがまた一つ上がった。

そしてちょうど1時間経った時に起こされた。

 

40分でもきちんと寝ると人間は活力が出るもんで。

下に降りて、スープをもらって、再出発する。

 

小雨もやみ、ちょうど夜明けで眼下に朝焼けに染まる山々を見渡す。

ただご来光を見るような余裕はない。寒いし、時間もないからだ。

 

ここまでで作った貯金が結構減っている。やはり想定外のこのきつい登りでペースが極端に落ちていた。

 

次の山に向かうために降り始めるが、地面は凍っているので慎重に足を運ぶ。

しばらく降りると樹林帯のようなトレイルに入る。

 

これが地図の中のギザギザの場所なんだろう。

 

100mアップ。。100mダウン。。150mアップ。。150mダウン。。。。

 

。。。全然終わらない。。。。

 

だんだんと日差しが照り始めて、明け方とは打って変わってまた暑くなる。

 

それでも続く、アップダウン。

 

目的地が見えないで歩く、というのは心が折れてくる。

 

 

樹林帯を抜けると、またきつい登りが見える。カンカン照りだ。

あれ2日目の登りも同じようなのを見たような、、、デジャブ?

 

人と会う間隔はかなりまばらだが、すれ違うと虚ろな目になってきている。

 

前の人がしきりにしゃがんで何かをつまんでいるでの聞いてみる。

 

「何食べてるの?」

「ワイルドブルーベリーだよ、うまいよ」

 

確かに野生のブルーベリーだ。つまむと、結構酸っぱいが美味しい。

 

しかし、止まると火膨れした肌が痛いので、あまり立ち止まらない。

 

エイドの手前に湖があり、清水が溢れているので、体を冷やす。気休めだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D4 - 9:32

ようやく、エイドに Rigugio della Barma(2040m, 178km)つく。予定の時間から遅れ、6時間会った貯金が3時間ほどになっている。

 

この小屋は本当にきれいで、多分ベスト。

トマトソースペンネも美味しくて、おかわりをする。

 

そして、また救護スタッフに日焼け止めがないか聞いてみる。

なぜか、救護室の前で待たされること20分。多分忘れてたと思われるタイミングで出てきたら

 

「あ、そういえば9月だから誰も持ってないよ。パット見、まだ大丈夫だよ!これから日に日に日差しは弱くなるはずだしね!」

 

うーん、慰められてもやっぱり救われない。

むしろ20分立ち尽くしていたのがもったいない。

 

暑さが増していくなか、バルマ小屋をでる。

 

少し下るとダート道に入る。最強の照り焼きシーンだ。

 

どれだけ辛いかを例えるのが難しいが、日焼けでヒリヒリした状態で、快晴・灼熱のおんたけ100Kの林道に入る、と言ったらトレイルランナーなら辛さがわかってもらえるかしら。

 

砂埃が激しい。カンカン照りとか、もう火膨れとか気にしなくなる。

時間の余裕がないのと、前半と同じような登りが会った場合に洒落にならないので、小走りですすむ。

 

 

足裏の痛みの鈍い痛みと、指先の水ぶくれの鋭い痛みもかなり限界。

日差しで肌はいたいし、暑さと眠気でめまいもする。

 

ここで右足の親指がおかしくなる。靴ずれだけでなく、爪が痛い。

すでに死んだ爪なのだが、爪が皮膚に食い込む鋭い痛みが走る。

 

どうも死んだ爪の中に新しい爪が生えつつあり、それが刺さっているようだ。

食い込んだ爪を携帯ナイフで切ろうとしたら、少し周りの皮膚も傷つけてしまい、余計痛みを悪化させてしまう。

 

 


(ダート道を牛が歩く。土埃が舞う)

 

 

 

 

大きな牛小屋があり、登りに入る。

急登ではないが、またどこかでみたピークの見えないトレイルだ。

 

途中で道を間違えて、違う山へのトレイルを登り始めたところ、牛小屋の主人が声をかけてくれて、難なきをえる。

 

前後には誰もいない。

 

 

とぼとぼと登る。体中が痛い。

 

 

突然、泣きたくなった。

 

「まだちょうど半分なのにこんな苦しんでて、どうするんだ。情けない」


「でもここまでと同じ苦しみが、もう一回来ることに耐えられるのだろうか。」


「ここでリタイヤしたら、せっかく時間を作ってくれたみんなに申し訳ない」


「日焼けを忘れたり、睡眠タイミングを間違えるなんて、なんて初歩的なエラーをしてしまったのか。」


「もう少し練習すればよかった。装備チェックの甘さは完全に自己責任だ」


「仕事と一緒の両立なんてやっぱり無理だったのだろうか。」

 

 

なんか、いいようのない情けなさが、一気に押し寄せてくる。

 

あと100マイルある。そして痛みは増すばかり。先がどれだけ辛いのか想像もつかない。

 

トルデジアン(巨人の旅)の巨人が何を意味しているのか、ようやくわかった。

小さな心がことごとく翻弄された。

中途半端な気持ちで挑むには厳しすぎる。

 

 

完全にペースが落ちる。

そしてピーク Col du Marmontana(2350m, 182.40km)にたどり着く。

 

そこから見えるのは、巨石だらけのガレ道。1m-3m位の石が無造作にばらまかれたような区間。

 

 

(写真がないので、こちらもKさんから頂きました。)

 

 

20KMは先のライフベースは愚か、次のエイドすらもちろん全く見えない。

 

完走できないかも、、、とあやゆい感覚が出てきて、ふらつきながら下り始めるとストックを巨石に挟んでしまい、あやゆく転倒しかける。

 

ここでスイッチが入る。

 

「何やってんだ、ここで怪我したら本当にリタイヤだ。とにかくできる限り進もう。」

「巨人の一歩は、自分の10万歩くらいなんだろう。一歩ずつ進むしかない」

 

 

あーーーっっもうっ! みたいに多分叫んでたと思う。

 

 

でもそれで吹っ切れた。

 

この辛さを乗り越えれば何でもできるだろう。

 

ポツンポツンと座り込んでいる人たちがいる。みんな辛いのだ。

 

しばらくガレ道を進み、水涸れが心配になり始めたころにエイド Lago Chiaroが見える。

 

 

ここでは炭火焼きのハムステーキとポテトがあり、脂の焼けるいい匂いが立ち込め、食欲が湧いてくる。

 

久しぶりの固形物+タンパク質でめちゃくちゃ美味しい。やっぱり肉大事なんだな。

かなり元気がでておかわりをする。

 

肉パワーを手に入れて、また登り返してというのを繰り返す。ギザギザがおわらない。今度は300mものアップ。

 

この区間は、走ろうと思っても巨石の上の飛び移りながら進むので、捻挫などで関節を痛めていたら、乗り越えられないだろう。明らかに足を痛めていて、引きずっている人がいる。

 

脱落する人が一番多そうな区間だし、麓に抜けるのにも10〜20KMはありそうなので、ヘリコプター来るのかなぁ、と心配になる。

 

絶対に怪我をしないで、まずはライフベースまでいく、と割り切るしかない。

 

日は暮れていく。

 

アップダウンは大きくなり、800mほど下り、Niel Dortoir La Gruba(1573m 192.90m)につく。

休んでまた、800m登り下り返して、そして、1000m降りる。

記憶はほとんどなく、ただ痛みを無視して、進むことだけを考える。

 

。。。。。

 

D4- 20:54  Gressoneyライフベース、小綺麗な体育館に到着する。HPがほぼゼロだ。

ほぼ24時間掛かっている。

 

橋爪さんたちが待ってくれている。

 

「実は良いお知らせが」と言って見せてくれたのはスマホ!!

 

「やっぱり小休止したって言うところにおいてありましたよー。」

 

疲れ切った心に泣けるほど嬉しかった。

サポートでほぼ不眠不休なのに、わざわざ50KM位移動して、夜中に探してくれたのだ。

 

 

感謝をしつつ、このあとに備えて、シャワーを浴びる。

マッサージを受けたかったが2時間はかかると言われて諦めて、睡眠を取りにベッドに向かう。

満員で空いている場所を探すのがやっとで、ようやく見つけた一つの空きベッドに潜り込む。

 

貯金があまりないので、1時間の目覚ましをかけて、数分で落ちる。

 

 

・・・・・

 

「大丈夫か?」

 

スタッフがわざわざ起こしてくれた。

だれも周りにいない。なんと3時間も寝てしまった。

 

かなりの人がすでに出発をしているようだ。

 

焦って、すぐに着替えて、補給をして出発。

闇夜の中、5日目が始まる。まだ夜明けには数時間。

 

そして、まだ3日間ある。なんて長いレースだ。

ようやく半分が過ぎた。