井上寿一
日中戦争下の日本
「日中戦争とは何だったのか」という大きな問いに、学習院大学の若い(ワシよりはだいぶ)学者が答えようとする力作である。いわゆる戦後民主教育を受けて育ったワシなどからすると「おやおや」的な視点が目立った。
前線の兵士と銃後の気分のギャップから説き起こし、帰還兵の受けた疎外感を通して、彼らが望んでいた「戦争によって実現すべき新しい日本」像を描く。強制や洗脳によってではなく、自発的に戦争に協力した国民は自らの地位向上=社会平準化を期待していた・・・。
そういう話なんでしたっけ、日中戦争は。斬新で大胆な見方に感心する一方で「戦争は遠くなりにけり」の感慨を覚えた。本書を評価する人も批判する人も多いと思うが、その中に戦争体験者はもうほとんどいない。
この本で面白いのは、当時発行された「兵隊」という雑誌に無名の兵士が投稿したさまざまな文章と、新聞に載った目立たない記事(全部A紙)だ。今はA紙やY紙の古い記事(明治以来)がすべてデータベース化されていて、個人で買うと大変だが大学図書館などでは簡単にネタを仕入れられるようになっているようだ。学習院大はA紙のCD-ROMを購入したのだろう(想像です。違ってたらごめんなさい)。
古川ロッパ(ったって、もう知る人は少ないだろうか)、火野葦平(もっと少ないか)、山田風太郎あたりが当時、どんな気持ちを抱いていたかにも迫っている。「へえ~」という話が多くて退屈しなかった。
ただし、かつて中国で戦った(いろんな人間を殺したりした)兵士が今の日本に皆無かというと、そうではない。もう80、90代で記憶も定かではない人が多いだろうし、定かであっても大抵は口を閉ざしているようだが、そういう生身の老人が一人も登場しないのは物足りない。彼らの肉声が聞きたい。(講談社選書メチエ、1500円+税)
