道中気になるものが多いのだから仕方ない。
今回紹介するのは、彦根城に入るところにある井伊大老(井伊直弼)歌碑である。
井伊直弼は江戸時代末期の大老で、近江彦根藩主であった人物。
日米修好通商条約に調印、反対勢力を弾圧して安政の大獄を起こし、桜田門外の変で暗殺された。
和歌などの諸学に通じ、茶人としても知られている。
この歌碑には、井伊直弼の以下の和歌が刻まれている。
あふみの海 磯うつ浪の いく度か
御世にこころを くだきぬるかな
この歌は琵琶湖の波が磯に打ち寄せるように世のために幾度となく心を砕いてきたこと、幕府大老として国政に心を尽くしてきた心境を表しているという。
安政七年(1860)正月に井伊直弼は正装姿の自分の画像を御用絵師・狩野永岳に描かせ、この自詠の和歌を書き添えて、井伊家菩提寺の清凉寺に納めたと伝えられている。
直弼はこの二ヶ月後の三月三日に江戸城桜田門外で凶刃に斃れた。
江戸時代に実権を握った大老や老中の多くがそうであるように、井伊直弼もまた評価が分かれる政治家である。その評価を落としている主因はやはり反対勢力を徹底的に弾圧した安政の大獄であろう。
ただ、この和歌から慮るに、少なくとも直弼が国政に真摯に向き合っていたことは確かなようだ。そもそも当時は諸外国の脅威が間近に迫っており、舵取りが非常に難しい時代であった。安政の大獄は江戸幕府滅亡の遠因になったと言われるが、仮に安政の大獄がなくても江戸幕府は遅かれ早かれ終焉を迎えていただろう。
以上、彦根城前にある井伊大老歌碑について紹介した。
幕末の動乱期に国政を担った井伊直弼の心情を伝える歌碑である。彦根城入城前にぜひ目に留めて欲しいと思う。
参考:井伊大老歌碑の案内板