私が芸界で「兄(あに)さん」と呼んできたのは、翁家の和楽兄さんだけである。翁家は水戸の柳貴家出身なので、純粋の身内である。和楽兄さんは江戸っ子気性丸出しの、とても愛すべき人柄であった。浅草公会堂には、スターの手形の一番最初にある。日本芸能実演家団体協議会の芸能功労者表彰も受賞している大神楽界の重鎮である。我が師匠である父・先代正楽の一番弟子は、「高楽」が芸名の峯高明、であった。父より早く帰幽しているが、今も未亡人との音信は絶えていない。母が存命中に、「お師匠さん」のお墓参りを、と何度か来水してくれた。先代の兄弟子の家族とも交流している。時として芸脈は、血脈よりも濃し、である。