レイアウトの完成イメージを考える。(1)集落の風景 | 16番ゲージレイアウトのこと..など

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16番ゲージの鉄道模型レイアウト・白縫鉄道川正線の制作記です。

「東の緑、西の黒」

 本格的なシーナリィ工作を控えて、集落部分の完成イメージを考えてみました。

 現状は、ベニヤの上に建物を置いただけですが、ここにどんな風景を作ろうかと考えながら、 集落の景観に関する資料を探してみたところ、非常に面白い文献を見つけました。

 その文献の中に「東の緑、西の黒」という言葉があったのです。

レイアウトの集落部分

 少し長いですが、引用してみます。

 

「日本の中央部でも、関東・中部地方と近畿地方では東 の緑、西の黒というように集落景観に大きな相違があり、・・」

 

「東京から大阪に向けて新幹線で移動しているときに、新横浜を出て、列車が西へ進むなかで車 窓から見える農村風景は、田畑のなかや山裾に展開する緑の塊である。特に春から夏にかけては、 家々はわずかに屋根の一部が見える程度で、その全体は緑の木々に囲まれている所が多い。猛ス ピードで走る車窓からの印象は、集落が家々の集合した姿としては見えず,大きな緑の塊、すな わち一つの林のように見えてしまうほどである。(中略)そして、名古屋を過ぎると決定的に違ってくる。それは目に入ってくる農村の色が黒に変化するのである。家々の塊そのものが、屋根瓦や壁の 色によって黒い塊として目に飛び込んでくる。しかも、その塊は大きい。関ケ原を越えて近江に入れぽ、農村風景は平野のなかに展開する黒い大きな塊である。その塊のなかに一際大きな屋根 が聾えていて、集落のほぼ中央部に寺院が所在していることを教えてくれる。塊のなかに少しは 緑色が混じっているが、それはごくわずかであり、印象としては強くないのが普通である。目を 凝らしてよく見ると、塊は家と家が接するかのように並んでおり、家と家の間に田畑や空き地が ない。そして、家の周囲には木々は植えられていない。また垣根や塀もあまり顕著ではない。個 別の家が裸の状態で他の家と接し、並んでいるのである。車窓から見れば、遮るものがない露な 形で個々の建物が目に入ってくる。その色が黒いのである。」

引用元:村落景観の民俗的意味 : 東西日本論序説 福田 アジオ  国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History 50 263-278, 1993-02-26
(リンク先からダウンロードできます。)
 
 なるほど、東京への行き帰りに新幹線を利用することが多い私には、何となく頷けるものがあります。もっとも、「東の緑」に関しては、引用せずに(中略)とした部分にも言及があるのですが、東海道新幹線よりも、東北新幹線や上越新幹線の方が分かり易いようです。
 
 ここで、「東の緑」の実例を見てみましょう。
 見沼田んぼで有名な、さいたま市です。
 ぜひ、拡大地図を表示して、周辺の風景をご覧ください。見沼田んぼの緑の多さにびっくりすると思いますよ。
 
 続いて、「西の黒」の実例は、久留米市です。
 こっちもぜひ、拡大地図を表示して周辺の風景をご覧ください。関東平野と筑紫平野の景観の違いにびっくりしますよ。
 
 という訳で、「九州の何処か」にあるという想定の私のレイアウトは、「西の黒」のイメージで作ることにします。
 もう少し細かく言うと、上記の引用にあったように、「塊は家と家が接するかのように並んでおり、家と家の間に田畑や空き地が ない。そして、家の周囲には木々は植えられていない。また垣根や塀もあまり顕著ではない。個 別の家が裸の状態で他の家と接し、並んでいるのである。」ということになります。
 ただし、このうちの垣根や塀については、九州地方では、石垣と生垣の組み合わせが比較的多く見られ(※1)、レンガ塀も時折目にするので、取り入れてみたいと思います。
 石垣と生垣の実例です。道路の両側に見られます。
 
 続いて、レンガ塀の実例です。
 

農家の付属建物

 当レイアウトの集落部分を見ながら、もうひとつ思ったことがあります。

 それは、「建物の密度が低い」ということ。

 農家には主屋の他にも様々な附属屋があります。代表的なものだけでも、離れ、土蔵、板倉、物置、畜舎、鶏舎、便所、堆肥舎などがあります(※2)。

 これには地域性もあると思われ、私の住む久留米市内は、蔵は少なく、納屋を設けることが多いようです。

 当レイアウトの附属屋の状況は、下写真のとおりです。
レイアウトの農家の附属屋

 結構な数の建物を作ったものだと自賛していましたが、改めて見ると、特に、主屋と納屋だけで構成している2軒の農家は、建物の密度が低く見えます。

 下に記載した参考文献をご覧いただくと、私の思いがお分かりいただけると思います。

 さて、ストラクチャー工作は終えたつもりでしたが、小さな蔵や板倉でも作った方が良いかもしれませんね。

 

 また面倒くさいことを考えて、制作の手が止まってしまいました。

 でも、こんなことこそ、鉄道模型が ”King of hobby” たる所以だと、勝手に思っているので、これからもじっくり考えていきますよ。

 本日も、ご訪問ありがとうございました。

 

※1:銅版画に描かれる明治期農家の屋敷構えとその変容過程に関する研究 不破 正仁 東北工業大学, 神戸芸術工科大学 2013-04-01 - 2016-03-31 (科研費)

※2:日本農家の建物構成と配置方式 佐藤 甚次郎 人文地理 14 (6), 445-464, 1962