明日読む投書を選別し終えた昇は、部室のドアを閉め、鍵をかけた。
夕日はもう半分以上隠れ、空の色はほとんど紺色へと変わりかけている。
橙色と紺色が混じりあう、その境がキレイで見とれていた。
その時、カシャッとシャッターを切る音が聞こえ振り向く。
そこには、カメラを構えた青年が立っていた。
レンズは此方に向けられていて、どうやらこの景色を撮っていたらしい。
「あ、邪魔でしたよね。すみません。」
カメラに写らないよう体を移動すると青年は、構えるのを止め此方を見つめていた。
青年の顔を見た昇は「あっ」と声を漏らす。
黒く艶やかな髪、すみきった青空のような瞳。
間違えなく彼は一部の女子から「王子」と呼ばれている藤條 湊だ。
藤條は、いわゆる美形と呼ばれるものであまり喋らないからか冷たい印象があるが、女子曰く“優しい”らしい。
何故、優しいなのかは不明だがその優しさのおかげか女子には、人気だ。
「‥‥‥すまん。」
テノールの柔らかい声が聞こえ、その声が藤條のものだとわかった時には藤條はもう昇に背を向け去ってしまっていた。
藤條は何故謝ったのだろうか、怪訝に思いながら昇は、もう一度窓の外を眺める。
先程よりも境目が狭くなってしまった空。
(藤條もキレイだと思ったのかな‥‥)
カメラのシャッターを思わず切ってしまうくらいキレイだと感じたのだろうか。
同じ気持ちを共有した。そのことがなんだか嬉しくて口元が緩んだ。
――――……
いつものように全ての授業を終え、放送部の部室である放送室のドアを開けると部長が顎に手を添え何やら考え事をしていた。
「部長、どうかしました?」
「増えているんだよ」
「は?」
何が?と思い、ついそんな声を出すと部長の女らしい細い指がテーブルに置かれた数枚の紙を指していた。
「これは……」
「ナナシさんからの投書だ。1ヶ月に1回だったがここ数日、毎日送られてきている。」
投書の回収は、早くきた人がやることになっているからか昇自身が回収していないときの投書は知らなかった。
ナナシさんからの投書を1枚1枚手に取り読み上げる。
『可愛い』
『君と話してみたい』
『声が聴きたい』
『好き』
一歩間違えればストーカー紛いの投書に驚いて部長を見ると部長は、真剣な目をして頷いた。
「私は投書の主を探したい、このままでは危険かもしれない」
「協力します」
「そう言ってもらって助かる、文化祭も近いしね」
あと1ヶ月後には文化祭が控えていた。
毎年放送部は、他の文化部と協力して1つのものを発表している。
今年は、文芸部と合同だった筈だ。
「脚本つくってもらって、ボイスドラマとかいいかもな」
ニヤニヤと口元を緩め考えている部長を眺め、昇は、苦笑しながら彼女の意見に同意した。
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