『好きです。』
細く綺麗な文字、一行目に書かれた一言。
その一言しか書かれていないのに込められた想いは想像出来ないほど大きいものだと高橋昇は思った。
それが届けられたのは、つい先程だ。
放送部の部員が投書箱から回収してきたその中に、紛れていた。
昇が所属している放送部は、三年前からお昼にラジオ放送を流している。パーソナリティーは放送部の部員で一週間ごとに代わる。その放送の中で生徒達の悩みやメッセージを伝えられるように投書箱を作ったのだ。
しかし、今回の投書に紛れたその手紙には名前の記入欄がなく。誰から誰へ送られたものなのか解らない。
昇は、このメッセージを伝えられないのは勿体無いと感じていた。
匿名ということで出そうと提案しようとしたとき、一人の部員が聞いた。
「イタズラ、ですかね?」
その一言で他の部員も同意し始めた。
部長に相談して、イタズラかは判断しかねるということで話はまとまり。
結局その投稿はボツにされてしまった。
それから、1ヶ月に1回その名前のない投書、“ナナシさん”からの手紙が届くようになった。
―――――‥‥‥
「みなさん、こんにちは高橋です」
「山野です。今週はこの二人でお送りしまーす」
今月の担当が回ってきた。今回は一年の山野と放送をやるらしく、目の前の山野はニコニコと嬉しそうにしている。
「あれ、なんか山野くん嬉しそうだね」
「当たり前じゃないですか!憧れの高橋先輩と放送ですよ?嬉しすぎて昨日寝れませんでしたよ」
キラキラと目を輝かせ声も弾ませる山野に、昇はありがとうと笑顔を向ければ山野は、いきなり顔を手で覆う。
「あーもー、先輩可愛すぎます。結婚してください」
「あはは、よろこんでと言いたいとこだけど俺達男同士だよ」
なんて他愛のない話をオープニングトークでしていると部長より“巻けよ”とサインを貰ってしまった。
「ほら、山野くん。お便りいくよ」
「あ、はい!最初のお便りは……苺市江さん」
“最近、眠くて眠くて仕方ないです。眠くならない方法ってありますか?”
「ほー…つまりは授業中、先生の子守唄で眠ってしまって困るーってことですかね?」
「それは、山野くんのことだよね」
イエス!なんて無邪気に親指立てて答える彼に思わず苦笑する。
「でも、成長期の俺達にとって寝るってことは大切なことだから構わないじゃないかな」
「じゃあ、先輩は寝てないんですね」
「ん?それはどういう意味かな、山野くん」
少し声を低くしてニッコリ笑いかけると山野は必死にスミマセンを繰り返す。
放送室に笑いが溢れた。
放課後、いつものように投書箱を回収しているとナナシさんからの投書が入っていた。
いつもと変わらない繊細で綺麗な文字。
『綺麗ですね』
「………なにが」
読んで思わず出てしまった言葉に返事などない。
ただ、お前の字のが綺麗だよ。とだけ手紙の主に伝えたいと思った。
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